第五章 舞台は東京へ! リベンジマッチの生んだ挫折-4
「ここみたいだけど……本当かなあ?」
周りを見渡しながら歩く新輝の様子は、ひどく不安そうだった。
「確かに。ホテルとかがありそうには……見えないね」
隣に並んで歩く真咲良は、周りの建物に目を凝らしていた。
『ジャンキーカリー』日本本社から、地下鉄で数駅離れた地域。
地図に示された場所に向かう真咲良たちだったが、そこはホテルなどありそうにない、一般的な住宅と低層ビルが混在する地域だった。
「地図だと、ここみたいだけど……ええ、これって……」
二人がたどり着いた場所は、中層マンションの前だった。
見た目はきれいであり、それほど築年数の経っていない、新しめなものに見えたが、てっきりホテルだと思っていた二人にとっては、驚きの方が大きかった。
「なんだよ。世界的大企業の社長のくせに、妙にこういうところはケチなんだな」
真咲良は、口をとがらせて悪態をついた。
「そうだね……とにかく、部屋に入ってみようよ。ここの3階らしいよ」
新輝は、真咲良の腕を引っ張って、中へと入っていった。
* * *
エレベーターに乗って到着した二人の部屋は、ごく一般的な作りのワンルームマンションだった。
その広さや、ベッドなどの備え付けの家具の数等が、今の真咲良たちと同じ二人が暮らせる規模の部屋になっていた。
「本当に、家具も最低限のものだけ。ここで対決まで、自分たちで生活しろってことか」
ため息をつきながら、新輝はどさっと荷物を置いた。
対する真咲良は、玄関に寸胴鍋を早々に置いて、部屋や風呂場などを無言できょろきょろ見ていた。
「姉ちゃん。そんなに色々見たって、普通のマンションだよ。一定期間借りられる、ウィークリーマンションってやつかな」
新輝は、ベランダに続く窓を見ながら、真咲良を見ずに言った。
「新輝、前言撤回だ。あの社長が、ここをウチらの宿に指定したのには、ちゃんと意味があるんだよ」
先ほどとは打って変わって、真咲良のうきうきした反応が返ってきた。
それに意表を突かれた新輝は、目を丸くして、彼女の声の方へと小走りで向かった。
彼女がいたのは、キッチンだった。
「どういうこと? ここが宿なのに、意味があるって……」
不思議そうに訊く新輝を前に、真咲良は、少しニヤニヤしながら、無言でシステムキッチンを指さした。
そこには、コンロの口が5個もあり、広々としたシンクはピカピカに磨かれ、壁には包丁などのあらゆる調理器具がひっかけられていた。
そして脇には、新輝の身長と同じくらいの高さの、大型冷蔵庫が設置されていた。
二人暮らしで数週間滞在するだけという想定にしては、あまりにも造りが豪華すぎる。
「あれだけいろんなものがあれば、対決の日まで、カレーを作って研究することができるよな」
真咲良は、新輝に気づきを与えるような口ぶりで言った。
「そうか! 社長がここを、僕らの宿に指定したのって……」
新輝は、ようやく合点がいった様子で、晴れやかな表情になった。
「あの社長も、なかなか優しいところあるじゃん。ちったあ見直したよ」
笑いながら、真咲良はシステムキッチンをなでるように触っていた。
一方の新輝は、冷蔵庫を開けて中を確認し始めた。
しかし――。
「さすがに、食材までは入ってないか」
中身が空の庫内をじろじろと見て、新輝は落胆した。
「それは仕方ないね。近くにスーパーがあったから、そこで買い込んで来よう」
システムキッチンの壁や戸棚にある、ピカピカの調理器具を確認した真咲良は、新輝を元気づけるように声をかけた。
「だね。そうしよう」
しゃがんで野菜室を覗きこんでいた彼は、扉を閉めて立ち上がった。
読んでいただいたご感想や反応等いただけると、励みになります。
お待ちしておりますので、どしどしよろしくお願いします!




