第三章 模索の連続! カレー力って何なんだ-6
翌朝。
前日の夜に、出発準備を整えた真咲良と新輝は、荷物を背負って玄関にいた。
「何日かしかいなかったけど、蕃じいちゃんの家出るの、寂しくなるね」
新輝は、感慨深げに玄関を見回した。
「しゃーないよ。ウチらの目的は、里帰りじゃなかったんだから」
「そりゃあ、そうだけど……」
座って靴ひもを結んでいた真咲良は、新輝とは逆に、さばさばしていた。
新輝は、その態度に面食らったが。
だがその直後、彼女のまとっている雰囲気がいつもと違うことに気がついた。
蕃との別れを名残惜しむよりも、今の彼女は打倒『ジャンキーカリー』に燃えているのだろう。新輝はそう推測して、それ以上何も言わなかった。
やがて、真咲良が靴ひもを結び終えて立ち上がると、廊下の奥から「おーい」という蕃の声が聞こえた。
「蕃じいちゃーん! 焦らなくても、すぐに出ていったりしないよ」
真咲良は、廊下に向かって呼びかけた。
それからほどなくして、蕃が現れたが、その格好に二人はぎょっとした。
彼は、二人がこの家にいる間使っていた、寸胴鍋とおたまを脇に抱えていたからだ。
「蕃じいちゃん、それ……離れから持ってきたの?」
「そうだ。二人にやろうと思ってな」
新輝の問いかけに答えながら、蕃は寸胴鍋を、ゆっくりと玄関に置いた。
「これは、『カレーのやすなが』の創業時から使ってるものなんだ。きっと、二人のお守り代わりになってくれる」
肩で息をしながら、蕃はその場でへたりこむようにあぐらをかいた。
「いや、ありがたいけどさ。これ持って山道を下るのは……」
「わかったよ、蕃じいちゃん。ありがとう」
新輝が断ろうとする前に、真咲良が承諾してしまった。
「姉ちゃん! 勝手に決めないでよ」
文句を言う新輝だったが、真咲良の考えは変わらなかった。
「せっかく、蕃じいちゃんがくれるって言ってるんだ。持って帰って使おうじゃないか」
「でも、どうやって? こんなの大きいの、持つのは簡単じゃ――」
「荷物にプラスして持てるのが、ウチらにはいるじゃないか」
「?」
真咲良は、じっと新輝を見た。
「……僕が持つの? 勘弁してよ」
新輝は、あきれて顔をゆがませた。
「そこをなんとか。新輝、男だろ?」
「こういうときだけ、いつもそういうこと言うんだから……」
半笑いで懇願する真咲良に、新輝は辟易した。
しかし、最終的にはしぶしぶそれを受け入れた彼は、寸胴鍋とおたまのセットを脇に抱えた。
「じゃあ蕃じいちゃん。短い間だったけど、本当にいろいろありがとう」
「僕ら、絶対に『ジャンキーカリー』を倒して、店を立て直して見せるからね」
真咲良と新輝は、あいさつをして、蕃は静かな頷きで返事をした。
そして二人は、玄関の引き戸を開けて出ていった。
自分以外誰もいなくなった玄関で、蕃は閉められた引き戸を見つめ続けていた。
「支店のカレーを倒すことは、二人ならできるだろう。だが、あの男がそれだけで引き下がるとは思えん……」
そう独り言を言って、彼は廊下から居間へと戻っていった。
読んでいただいたご感想や反応等いただけると、励みになります。
お待ちしておりますので、どしどしよろしくお願いします!




