第三章 模索の連続! カレー力って何なんだ-4
二人の自信作だった、今回のカレー。
しかし、それに対する蕃の評価は、彼女たちの期待したものではなかった。
「確かに、夕方のに比べて、格段にカレーの味が良くなっている。ただ、まだ二人の技術を組み合わせただけという感じが強いぞ」
それが、蕃の評価だった。
二人は納得ができなかったが、蕃の評価は変わらず、その後何度もカレーを作ってはダメ出しを食らうということが続いた。
そして――。
「どうしよう。何回作っても、蕃じいちゃんの評価が変わらないや」
離れのテーブルに顔を載せながら、新輝はけだるそうに言った。
背中には、窓から差し込む朝日が当たっていた。
「新輝。めげてても何も変わらないよ。ウチの店を取り戻すってあの意気は、どこ行ったのさ?」
立ったままの真咲良は、新輝の肩を軽くたたいたが、彼は不快そうに、その手を振り払った。
「だって、カレーを作っても作っても、蕃じいちゃんの評価は変わらなくなってきたじゃないか。これじゃあ、モチベーション保つのさすがにキツいよ」
「それは……」
新輝の愚痴に、真咲良は返す言葉がなかった。
二人が蕃の家に来てから、既に3日目の朝を迎えていた。
最初は、カレーを作るごとに変化していった蕃の評価と指摘は、じょじょに固定化されるようになっていた。
それが続くうちに、二人のカレー作りは行き詰まりつつあったのだ。
「本当の意味で二人の力を合わせろって、何回聞かされたことか。もう、耳にタコができちゃったよ」
新輝は、疲れ切った顔で吐き捨てた。
「蕃じいちゃんも、意地悪で言ってるわけじゃないんだからさ、新輝……新輝?」
真咲良は、彼を励まそうとしたが、突然何の反応もしなくなった。
顔を覗きこむと、いびきをかいて寝ているようだった。
「さっき起きたばっかりだってのに、よく寝るよ」
真咲良は、ため息をつきながら言った。
そして、自分もテーブルに座り、あご肘をついた。
「本当の意味で、力を合わせること……」
真咲良は、蕃の言葉の意味を考えていた。
新輝と、まず技術について足並みをそろえた。
続いて、レシピなどの作り方について足並みをそろえた。
どちらかが、方針から逸脱した作り方をしないよう、互いに緊密に連携を取りながら作るようにした。
しかしそれでも、蕃に言わせれば、まだ足りないものがあるというのである。
「技術面は大丈夫なはず。じゃあ、あとはいったい何が……?」
真咲良は、うなりながら考え続けた。
生来、深く物事を考えて行動するのが苦手な彼女だったが、このときばかりは、いつになく真剣に考えた。
そして、考えに考え、約20分が経った。
「ダメ! やっぱりわかんないや」
真咲良の結論は、非常にシンプルだった。
結局彼女は、考えても蕃の言わんとしていることがわからなかった。
しかし、まだカレー作りを投げ出したわけではなかった。
今度は、その作り方の過程を変えてみようと決心したのである。
「新輝、新輝起きろ! もう一回カレー作るぞ!」
真咲良は、新輝の身体を乱暴に揺り動かして、たたき起こした。
「姉ちゃん、もうちょっと寝かせてよ。僕疲れてるんだよ」
新輝は駄々をこねたが、それに構う真咲良ではなかった。
「疲れてるのは、ウチも同じ! それでも、もう一回作るんだよ」
「何度作っても、蕃じいちゃんの評価は一緒だよ」
「だから、今回は発想を変えるんだよ」
「発想?」
真咲良の提案に、新輝はようやく顔を上げて起き上がった。
眠たそうだったが、彼女の話に興味を持っている様子だった。
「そう。もっと深いところから、二人の力を合わせるってヤツをやってみるの」
「深いところ……どういう意味?」
興奮気味に話す真咲良に対し、新輝は、彼女の話の意図が全然つかめていなかった。
「いい? 今までは、父さんの作ったレシピをベースにしてたでしょ。あれをやめよう」
「えっ? フィーリングで作るのはマズいって、この前蕃じいちゃんに言われたばっかりじゃんか」
眉をひそめる新輝を、真咲良は手のひらを突き出して制止した。
「それはわかってるよ。だから、上っ面だけのアレンジじゃなくて、もっと根本的な部分から、アレンジを加えて二人で作るんだ」
「根本的な部分…か…」
真咲良の考えを、興味深そうに聞く新輝だったが、首を縦には振らなかった。
「言いたいことはわかるよ。でも、イチからレシピを作り直してる時間ないよ」
「そう。時間がないから、加えられるアレンジには限度がある。だから、カレーを作る前に、今ここでアレンジを考えるんだ」
新輝の不安をよそに、真咲良は依然強気だった。
「作ってもないのに、アレンジを考える? 量とかはどうやって――」
途中まで言いかけたそのとき、新輝はハッとした。
真咲良の言う通り、これからスパイスの配合など、レシピのアレンジという名の改良を考えるには、細かいところを詰めるまでの余裕はない。
ということは、アレンジを加える部分は、完全に自分たちの感覚が頼りになるし、その範囲もおのずと限られてくる。
逆に、アレンジを加えない部分は、ベースを崩さないために、できるだけレシピに沿って作る必要がある。
つまり、真咲良の言うやり方をすれば、蕃の言う『本当の意味で力を合わせること』に通じるのではないか――。
「確かに、姉ちゃんと僕の、それぞれの特徴をミックスすることになるかもしれない」
「でしょ? なんか行けそうな気がしない?」
「そうだね。珍しく頭さえてんじゃん!」
新輝は立ち上がって、晴れやかな顔を見せた。
「珍しくはよけいだよ、珍しくは」
真咲良は苦笑しながら座り、ポケットからスマホを取り出した。
「新輝が乗り気になれば、善は急げだ。今から一時間くらいで考えるぞ。今日の昼には間に合わせて、蕃じいちゃんに食べてもらうんだ」
「OK!」
新輝もテーブルにつき、二人は身を乗り出しながら、話し合いを始めた――。
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