第三章 模索の連続! カレー力って何なんだ-1
真咲良と新輝は、自分たちの言葉通り、一時間ほど居間で仮眠したあと、再び離れにやって来た。
そして、先ほど使った調理器具を洗い、真咲良の使っていたシステムキッチンの下部の棚から、新しい調理器具一式を取り出した。
「じゃあやるか、新輝」
「だね、姉ちゃん」
二人で、エプロンのひもを締めなおして、コンロ側と戸棚側にそれぞれ立った。
* * *
二人がキッチンに立ってから、約15分が過ぎた。
新輝は、キッチンのまな板に向かって、鶏肉をさばいていた。
左脇に置かれたガラスボウルには、ニンジンなどの緑黄色野菜が盛られていた。
一方の真咲良は、壁際の戸棚に向かってその中を物色し、瓶詰めスパイスを選別していた。
そして、それらのうちの四つほどを片手に抱えて、コンロの前に戻ってきた。
コンロでは、油のひかれたフライパンが火にかけられており、湯気が立ち昇っていた。
「よし、いよいよスパイス投入だ」
瓶詰めスパイスをコンロ脇に置いた真咲良は、鼻歌を歌いながら器用にフライパンを動かし、油を広げ始めた。
こうした状況が続いた、数分後。
「姉ちゃん。鶏肉炒めるための下準備はどんな感じ……って、何やってるの!?」
鶏肉をさばくのを終え、顔を上げて真咲良を見た新輝は、その様子を見て絶叫した。
彼女は、瓶詰めスパイスを代わる代わる手に取っては、フライパンに無造作にふりかけていた。
「なんだよ、新輝。そんな素っ頓狂な声出さなくてもいいでしょ」
真咲良は、何食わぬ顔でフライパンをコンロの上に置き、またしても別の瓶詰めスパイス――クミンシードに、手を伸ばそうとしていた。
「そんなにいろいろふりかけたら、味がバカになっちゃうじゃないか!」
まな板に包丁をたたきつけるように置いた新輝は、急いで真咲良のもとに駆け寄った。
そして、瓶詰めスパイスを取り上げる勢いで彼女の手を強く握り、引き留めた。
「そんなに焦るなよ。こう見えても、適当にやってるわけじゃないんだよ」
真咲良は、新輝の手を振りほどいた。
「僕には、適当にやってるようにしか見えなかったよ。蕃じいちゃんが言ってたこと、もう忘れちゃったの?」
「覚えてるよ。だからこうして、一振り二振りって、指切りしながらふりかけてるんじゃないか」
唇をへの字にしていら立つ新輝に、真咲良は全く気にせず答えた。
「それがダメだってのが、さっきの話だったじゃないか! やっぱり姉ちゃん、わかってないよ」
新輝の度重なる指摘に、真咲良はムッとし始めた。
「じゃあ、どうすればいいのよ? ウチはウチなりに、蕃じいちゃんの話を……」
「こうすればいいんだよ」
新輝は、真咲良の言葉をさえぎって、キッチンの下部の棚から計量スプーンを取り出した。
「面倒くさくても、スパイスの量は量る! そして、レシピに沿って作る! ちょっとした手間でも、こうすれば、父さんのに似たカレーが作れるんだよ」
新輝は、計量スプーンを真咲良に突きつけて、断言した。
「……なんだよ。新輝もわかってねぇじゃんか」
真咲良は、ため息をついて気だるそうに言い放った。
「どういう意味だよ、それ?」
新輝は戸惑いながら、彼女に突きつけた計量スプーンの手を取り下げた。
「蕃じいちゃんは、こうも言ってたじゃないか。『レシピ通りの作り方じゃ、人の心は動かせない』って。あれはつまり、時にはウチみたいな感覚重視の作り方も大事だ……ってことでしょ」
「それは……」
新輝は、真咲良の指摘を受けに黙ってしまったが、すぐに顔を上げた。
「でも、レシピから逸れちゃったら、それ以下のカレーになっちゃうかもしれない。やっぱり、限度ってものがあるよ」
新輝は無理矢理まとめて、真咲良を説得しようとしたが、その論理はかなり無理があることは、自分でもわかっていた。
「それをやったから、新輝のカレーは、さっき蕃じいちゃんから注意されたんだろ。ウチはウチなりに思う、いい形でやるよ」
真咲良はフライパンに目を向け、再びそれを動かし始めた。
「姉ちゃん……」
新輝は、思わず髪をかきあげた。
彼の頭の中を表すかのように、短髪がぐちゃぐちゃになった。
「もういい! 勝手にすればいいじゃん!」
新輝は怒って、まな板の方に戻ってしまった。
このときの二人は、蕃から指示された『力を合わせたカレー作り』からは、ほど遠い有り様だった。
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