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「まさか団長サマ直々とはねぇ。手抜きは許されねぇな、コレ」


 早くもエルゼとの対戦を受け入れつつあるフレイ。このような切り替えの速さがこの男の長所である。


「先に言っとくけど、私結構強くなってるからね。もしかしたら圧勝しちゃうかも、ゴメンね?」


 フレイもまた強くなっていることを理解した上で、エルゼはわかりやすい挑発をした。


「ハッ、ほざいてろ。今までの模擬戦は俺の勝ち越しだろうに」


「違いますぅ〜。全くの同率ですぅ〜」


「なんで即答出来んの?怖……」


「うるさいなぁ!」


「まぁ、エルゼのメンヘラ気質は置いといて」


「メンヘラじゃない!」


 エルゼの反応にコロコロと愉快そうに笑うフレイ。それにつられてエルゼも吹き出す。学生時代の再現のような状況に両者は心地良さを感じていた。


「さっさと始めるぞ。俺も対人で本気だすのは久々で楽しみなんだ」


 が、そんな和やかな空気もすぐさま消え失せる。直後にフレイの雰囲気は一転。戦闘を生業とする人間のそれへと変化する。

 それに呼応するように、エルゼの雰囲気も剣呑なものになる。エルゼは言葉でなく、所作で返事をする。

 シャラン、と音をたててエルゼの剣が刀身を現す。

 一瞥しただけで名剣だと分かる程の美しい刀身。底冷えする程の美しい輝きを湛えるその剣は、人に扱われる道具としての範疇を優に超えているような威圧感……神々しさと言うべきものを放っている。

 魔道士であると同時に、優秀な魔道具師であるフレイが思わず魅入る程の代物。

 それをエルゼが構えたと同時に、剣呑な雰囲気はまたもや一変。彼女の周辺の空気が静謐と神聖さを帯びる。

 普段の快活な彼女からは想像もつかない、明鏡止水を体現したような、武人としてあまりに“完成”された佇まい。

 ただ、それを前にしてもフレイは余裕そうな面持ちを変えない。


ーーえ、ここまで強くなってんの。普通に負けるかもしれん。


……内心では戦々恐々としているが、それでも表情には出さない。

 フレイは自らを落ち着かせるべく深呼吸を一度して、腰に装着していた魔道具を手に取った。


「“魔動兵装“、起動」


 魔道具に魔力が走るやいなや、魔道具はフレイの掌を離れ空中に浮遊し始めた。


「よし、準備完了。始めよう、エルゼ」


「ええ」


 自動音声による戦闘開始へのカウントが始まる。


「5」


「4」


「3」


「2」


「1」


「戦闘開始」


「『撃てショット』」


 フレイの詠唱の完了と同時に、質量を帯びるまでに強化された魔力弾が凄まじい勢いでエルゼ目掛けて放たれる。

 射出の際の衝撃で風が吹き、フレイの髪が揺れた。

 フレイの神速と形容するに相応しい魔法発動速度をもってすれば、エルゼより先に先手を打つことも容易い。

 しかし、それに対してエルゼが狼狽える様子はない。何故なら最初からエルゼはフレイより先に行動を起こせるとは思っていなかったから。

 当然だ。エルゼ・バルリングはフレイ・シュミットという天才魔道士の実力を誰よりも認めているのだから。

 故に先制攻撃を読んでいたエルゼは、一介の魔道士ならば防御すら困難な魔力弾をいとも容易く剣で切り裂いた。

 間髪を入れずにエルゼも反撃を仕掛ける。激しい音を撒き散らしながら、フレイの魔力弾が通った道を辿るように雷の一閃が走る。

 迎撃しようとしたフレイの目に、迫る雷の奥で剣を構えるエルゼの姿が映った。

 学生時代に幾度となくエルゼと魔法戦を繰り広げてきたフレイはその構えを見ただけでエルゼが次に起こす行動を理解した。

 『居合』……そもそもは極東の島国の剣術の武術であるが、バルリング流開祖が魔法剣術として生まれ変わらせたそれは元来のそれとは大きく異なる。

 剣士が剣を抜いたが最後、彼らは直後の踏み込みをもって剣士は閃光と化す。人の瞬きよりもなお短い刹那の内に相手に接近、一刀のもとに切り伏せる。防いだとて、続くのは魔法剣による猛攻。対処を誤れば、即刻敗北へと一直線である。

 エルゼはフレイが雷魔法を迎撃した直後に生じる僅かな隙にそれを叩き込むつもりなのだ。


ーー考えさせる時間を与えないための速度重視の雷魔法。あわよくば麻痺スタン狙いってとこか。


 限られた時間の中で、フレイは加速させた思考をかけ巡らせる。回避?否、ここでそれを選び取れば確実にフレイは“崩される”。目下の雷魔法はどうにかできるが、直後の『居合』、もしくはさらに連なる攻撃には対処しきれない。詰み。

 魔法をもって防御。それしか道は無い。ただ、雷の到達までにエルゼの必殺の『居合』までもを防ぐほどの頑強な防御魔法を発動するのは不可能。時間が許すのはせいぜいが速度が強化された分、威力が抑え目の雷魔法を防ぐ程度。時間がかかる『二重詠唱』も不可能。一瞬の内に二回魔法を発動するなどーーーー


ーー俺なら出来るだろ!


 時間の流れが元に戻る。モノクロだったフレイの視界にも色が戻る。フレイはすかさず防御魔法を発動。雷は魔法障壁に阻まれフレイへと届くことはなかった。役目を果たした魔法障壁が消滅する。


 直後。


「ハァッ!!!」


 一閃。


 ただ、その閃きの終着点はフレイでは無かった。再度生まれた魔法障壁が確かにエルゼの『居合』を受け止めていた。

 そこでようやく、エルゼの表情に驚きが滲む。


「どうして」


「あっぶねぇ!相棒に感謝ぁ!」


 フレイがチラリと視線を向けた方向をエルゼも見る。そこにあったのは、試合前にフレイが起動した魔道具。二度目の防御魔法を発動した張本人は何食わぬ顔をしてプカプカ宙に浮いていた。


「俺が開発した魔動兵装だ!登録してある魔法の発動なら俺より速ぇ!」


 一呼吸置いて、パッと魔法障壁が消える。その瞬間、先に動いたのはエルゼだった。


「フッ!」


 斬り上げから始まる三連撃。

 余裕を取り戻したフレイは初撃を回避、続けて魔力を纏い、強化した拳で受け流し、最後にまた強化した拳の手の甲で受け止める。完全に対処しきった末に生じたエルゼの隙。フレイはそこで鋭い正拳突きをお見舞いした。魔道士であるフレイだが、一連の動きは『魔闘術』……身体に魔力を纏う武術における一流の武人の動きであった。


「オラァ!」


「ッ!」


 拳撃の衝撃でエルゼの体が浮かぶ。エルゼは痛みで表情を歪めた。両者の間に再度距離が生まれる。


「イテテ。魔闘術……そんな上達したんだ」


「出来ることはなんでもしなきゃ生き残れなかったもんでな」


 『深淵の魔窟』……フレイが攻略していたのは大陸でも最難関とされるダンジョン。フレイは傲慢な節はあるが、慢心はしない。フレイは自らが強くなるために必要なことを全て片っ端から行っていた。


「ま、これくらいじゃ合格はあげないけどね!」


「お前が戦いたいだけだろうがよ、この戦闘狂が!」


 両者互いに闘志でギラついた目をしながら戦闘を再開させるのであった。


 






 



 


 








 



 



 

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