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 時と場所は移り、フレイはエルゼとその他数名の団員とともに町のレストランにいた。


「二人の再会に乾杯……と行きたいところだけど。フレイ、その前に私に何か言うことがない?」


 優しい微笑みを浮かべながらフレイに問いかけるエルゼ。表情は穏やかそのものなのに……同時に不穏なオーラを感じるのはなぜだろうか。

 剣呑な雰囲気の中、自分の返答次第でこの場で魔法戦が始まりかねないことを察したフレイは脳をフル回転させてエルゼの欲しがっているであろう答えを導き出す。


「……大出世おめでとう?」


「ちーがーうー!そうじゃなくて、なんで今まで私に連絡の一つもないの!」


 エルゼは唇を尖らせた。フレイが絞り出したアンサーはやはり間違いであったようだ。

 それに対してフレイは隠そうともせずあからさまに面倒くさそうな顔をした。


「えぇ。だって生存報告とかしたらお前、定期的に無理やり理由つけて会いに来そうじゃん。学院でもそんなだったし」


「ぐぬぬ、確かに私ならしかねない。いや、でも酷くない?私がどれだけ心配したことか」


「へぇ~エルゼちゃん、俺のことそんなに心配してくれてたの?」


 ニヤけながら揶揄うように問い返すフレイ。それにエルゼは恥ずかしさで顔を赤らめる。


「ち、違っ!?もう、性格の悪さは変わっててほしかったな!」


「ハハ。そっちこそからかい甲斐があるのは変わってないな。ま、俺も連絡一つ寄越さなかったのは悪かったと思ってる。許せ」


 愉快そうに笑いつつ、軽く謝罪を済ませるフレイ。ただエルゼはそこに確かに含まれている申し訳無さを感じ取ったようで


「うむ、許す!」


 と屈託のない笑顔で許した。


 そこで、二人が頼んでいた料理が運ばれてきた。フレイ達がいるのは宮廷魔道士団をもてなすために予約された町一番の高級レストランである。

 最難関ダンジョンである『深淵の魔窟』にて取ることのできる食材はどれも絶品かつ最高級品。市場にもそうそう出回らないのだが……ここだけは特別。冒険者と独自のルートを結ぶことで、このレストランはいつでも最高の食材で最高の料理を提供できる。わざわざこの店の為に町を訪れる者もいるほどだ。

 しかしながら、それは裏返せばかなりの富裕層しかその料理を口にすることは叶わないということである。現にフレイはずっとこの町で冒険者として活動しているが、この店の料理を食すのは初めてである。

 素直にエルゼと食事を共にしようと思ったのも、エルゼがこの店で夕食を奢ってくれると聞いたからであった。

 そんな店だけあって出てくる料理はどれも見目麗しく、非常に美味しそうである。


「わぁ!すごく美味しそう!!!」


「……!!!」


 輝く品々に目を輝かせるエルゼ。

 一方でつい先ほどまで激しい戦闘を長時間繰り広げていたフレイは空腹の絶頂。フレイは料理を前に穴が開くほどにジッと見つめ、喉を鳴らし、垂涎を禁じ得ない。


「フ、フレイ……。すごい顔になってるよ。ほら食べよ?」


「い、いただきます」


 料理を口にし、味わうフレイ。

 空腹こそ最高のスパイスというが、そもそも美味しい料理にそれが加わったのだから相乗効果は計り知れない。フレイはそのあまりの美味しさに震え、感動で涙を流した。


「グスッ……」


「ちょっとフレイ、親友との再会で泣かないでここで泣くってどういう事ー!?」


 エルゼはまさかの敗北に少しショックを覚えたのであった。






 食事を十分に堪能した後も二人の会話は続いた。


「フレイは冒険者をしてたみたいだけど……フレイくらい優秀だったらもっと有名になってるのが普通じゃないの?」


 先日、宮廷魔道士団にて出た疑問をぶつけるエルゼ。


「俺はむしろできる限り目立たないように活動してたから。ランクもそこまで高いわけじゃない」


 フレイの発言を不思議に思うエルゼ。


「冒険者ってランクが高い方が良いに越したことはないでしょ?」


 エルゼの言っていることは正しい。冒険者はその実力によってランク付けされるが、高ランクである方が良いというのが通説だ。特定の施設の使用、特定の書物の閲覧、特定の装備の所持……等々、高ランク冒険者でないとできないことというのも多い。


「いや、そうでもないぞ。ランクが高くなるに連れてギルドから強制されるクエストが多くなったり、面倒くさいヤツになるんだ。俺はとにかく自分の攻略を優先したかったし、あまり目立ちたくもなかったからあえて昇級はしなかった」


「なるほどね。そういう考え方もあるんだ」

 

 エルゼは自らには無かった思考に少し驚きつつも納得の意を見せる。


「まあ、とはいえ最近冒険者クビにされたばかりだから、そんなことに気を遣うのもしばらく無いな。さっきギルドに持ち込んだドロップアイテムも買い取ってくれなかったし、この町での活動はもう無理か」


 少し自虐気味に呟くフレイ。


「え、クビ?なんで?」


 首をかしげるエルゼ。フレイの実力を誰よりも認めている彼女が不自然に思うのも必然だろう。


「方向性の違いってヤツ。俺含めギルマスの新体制に反発した冒険者はまとめてクビにされた」


「ふーん。その人、余程人を見る目が無いのね」


 エルゼは同じく人をまとめる立場だからなのか、それともただ自分の好敵手をクビにしたのが気に食わないのか棘のある言い方をした。

 

「つくづく同感だ。全員あのダンジョン……『深淵の魔窟』の三十階層まで潜れる人材だったってのに。いつも飯奢ってくれるいい奴らだったのになぁ」


 本当に残念そうに言うフレイ。その様子を見てエルゼは自分と別れた後もフレイが良き仲間たちと巡り合えていたことにどこか安堵していた。が、それ以上に引っかかる情報がサラッと出てきた。


「……三十階層って言った?『深淵の魔窟』の最高到達階層って二十階層でしょ。言い間違え?」


「いや?ギルドに報告してないだけでそれより深く潜ってる冒険者もいたぞ。俺もそうだしな」


 何食わぬ顔で言うフレイに、対面している宮廷魔道士団団長は頭を抱えた。


「あのねぇ、君たちみたいにキチンと成果を報告しない冒険者のおかげで私たちの仕事増えてるんですけど!?」


 まさかここ最近の寝不足の原因の一端に親友が加担していようとは、とエルゼは怒気を込めて愚痴をこぼす。


「チッ!ボロを出したヤツがいたか!」


 が、開き直ってまったく悪びれる様子のないフレイ。説教したところでどうしようもないことを悟ったエルゼは深いため息をついた。


「はあ……。ちなみにフレイの最高到達階層は?」


「五十一階層。けど突破は今んとこ無理だな。いろいろ試したが……あの階層以降の攻略には時間も準備もなにも足りてない。特に資金がな……」


 また何食わぬ顔でサラリと信じられない情報を口にするフレイ。エルゼは思わず卒倒しそうになる。


「ご、五十一……!?もしかしてからかってる?」


「おいおい、この俺を疑うのか?なんなら武勇伝でも聞かせてやろうか。そう、まず五十階層は魔力が一切存在しなくてだな……」

 

「いやすごく気になるけど今はいい」


 これ以上の情報量には耐えられないと判断したエルゼはストップをかける。


「そうか?俺はもう俺の孤高の活躍について話したくてしかたないくらいなんだが」


 が、そんなエルゼの制止も虚しく、エルゼは再度自分の耳を疑った。


「待って。まさかソロで活動してたの!?」


「パーティー組むこともあったけど基本ソロ」


「馬鹿じゃないの……?」


 目の前で淡々と答える親友は人として大切なものを何処かに置いてきてしまったのではないか、と割と真剣に心配になってきたエルゼ。


「そっちのほうが楽だったんだよ。俺についてこれる奴なんてそうそういないし、いても連携なんてできないでそれぞれ個人プレーをして終わりだからな。だったらハナから一人の方が些か楽だ」


 あまりにも危ない綱渡りをしていた親友に呆れ果てるエルゼ。


「ハァ……。溜息しか出ないわ」


「自分でも命知らずだとは思うが、当分はそんな心配ともおさらばだな」


「あ、そっか。フレイ今無職なんだ……」


「無職じゃない!準備期間って言ってくれます~?」


「変わらない、変わらない。そうか無職……」


「繰り返すんじゃない!」


 ふと考え込むエルゼ。





「なら、その提案なんだけど、さ。ウチに来ない?」





 二人の間に流れる数秒の沈黙。





「え、久々に再会した親友を家に連れ込む気とか正気か。宮廷魔道士団の団長ってやっぱ大変なんだなぁ」


「そんな訳ないでしょ!?そうじゃなくて……」


 エルゼはコホン、と一つ咳払いをして言い直そうとするも一瞬言い淀んだ。それでも彼女はソレ・・を口にした。







「フレイ、宮廷魔道士団に入る気はない?」







 僅かに震えた声で。しかし今までの会話の中でもっとも丁寧に。


「……誘いは嬉しいが言ったろ?しばらくは準備期間だ。ダンジョン攻略用の魔法の研究やら魔道具の開発、量産で忙しくなる予定だ」


 フレイはその提案がエルゼにとってどれほどのモノか、彼女の本意をもしっかりと理解し……その上でキッパリと断った。


「……やっぱりダメかぁ」


 自分の願いが叶わないことはどこか分かっていたのだろう。寂しそうに笑うエルゼ。けれどもその目には涙が滲んでいた。


「はあ、残念。職場環境は良いし、魔法研究のサポートとか福利厚生も充実してるし、給料も良いからピッタリだと思ったんだけどなあ」


「え」


 露骨に反応を示すフレイ。


「参考までに聞くけど……どれくらい稼げんの?あ、あくまで参考な」


 フレイの目がとんでもなく泳いでいるのに気がつかないままエルゼはテーブルに備え付けられていた紙とペンを取り、サラサラと書き出す。


「基本月これくらいかな。あとは任務達成とか研究成果でボーナスも出たりするよ」


 それを見るや否や、ピシッと姿勢を整え真剣な顔でエルゼを見つめ始めるフレイ。


「な、何?」


 フレイはすぅー、と息を吸い






「どうか!私めを宮廷魔道士として雇ってくれませんか、団長サマ!!!」






 とエルゼに頼み込んだ。


「……はぁ?」


 あまりにも冷たい声音。スタンピードの時ですら感じなかった恐怖。フレイの背筋に冷たいものが走る。

 フレイの手のひら返しに困惑と軽蔑を含んだ眼差しを送り続けるエルゼ。


「この通り!!!お願いします!!!」


「うーわ、一度振っといてコレ?引くわー」


 ジト目でフレイの下げた頭を見下すエルゼ。冷ややかな視線にフレイはひたすら耐える。


「……ふふっ!あはは!フレイ、顔上げてよ」


 一転、可笑しそうに笑うエルゼ。そしてフレイがパッと顔を上げた瞬間。


「ッ!?」


 フレイの顔面に冷水がぶっかけられた。予想だにしなかった行動に間抜け面になる。


「仕返し。魔法は使う前に察知されるだろうから。これくらいは甘んじてよね」


 頬を膨らませるエルゼ。不機嫌そうに見えるが、どこか嬉しさ交じりといった感じである。そして今度は満面の笑みを浮かべる。


「フレイ・シュミット。宮廷魔道士団はあなたを歓迎します」


 こうして、無職の魔道士は一転。栄えある宮廷魔道士への就職を果たしたのであった。


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