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「昔さぁ、私が学院にいた時の話なんだけど」


 宮廷魔道士団の執務室にてふと声が上がる。

 話を始めようとしたのは黄金を溶かしたような煌めく髪に、美しい碧眼の若き女性。エリート揃いの宮廷魔道士団の制服に身を包む彼女の名は、エルゼ・バルリング。歴代最速で宮廷魔道士団の団長になった天才である。


「団長。口よりも手を動かしてください」


 彼女の部下から制止の声が掛かる。それもその筈、現在進行形で、宮廷魔道士団は圧倒的な激務に駆られている最中なのだ。普段、団長よりも団員の方がしっかりしている魔道士団のいつもの一幕である。


「まあ、そう言わないでさぁ。団長の昔話を聞いてよ、ローレちゃん」


「……まぁ、ずっと作業しっぱなしでしたからね。休憩がてら聞きましょうか」


 最初は制止した彼女……ローレと呼ばれた真面目そうな少女も内心休みを欲しがっていたらしい。

 次の瞬間、こわばっていた執務室の空気がうってかわって和んだ。それまで静寂に包まれていた室内に賑やかさが戻る。


「で、どうしたんですか団長?」


「ほら、私って魔法学院の首席卒業だったじゃない?」


「なんですか、急に。自慢ですか」


 突然飛び出した団長の発言。その内容は確かに自慢と取られても仕方ないだろう。

 エルゼは慌てて訂正を加える。


「違う違う!むしろ逆!本当だったら首席を取るのは私じゃなかったかもって話!」


「はぁ、団長よりも優秀な魔道士……ですか」


 エルゼと同年代でより優秀な魔道士というのは聞いたことが無いようで、素直に話の内容に興味を示すローレ。


「そうそう。名前は“フレイ”って言ってね。多分、純粋な魔法の技術なら今でも敵わないかも」


「今の団長でも?にわかには信じられませんね……」


 今のエルゼはどこをとっても魔道士としてトップクラスであり、その名声はもはや国外にまで及んでいる程だ。その彼女が敵わないとは、確かになかなか信じられない話だ。

 ローレ以外にもエルゼの話に耳を傾ける団員が増えているのは気のせいではないだろう。


「いや、俺もフレイと同学年だったからよく覚えてるぜ。確かにあいつの実力は頭一つ抜けてた」


 話を聞いていた男性の団員がそう付け加える。フレイ氏は確かに実在の人物であるらしい。

 そこで、ローレの脳裏に真っ当な疑問が浮かんだ。


「しかし、それほどの人物ならば今頃名を馳せているのが妥当なのでは?」


「……そうなんだけどねぇ。彼、いきなり学院から退学処分くらっちゃって。それ以来消息が分からないというか……」


 なんで追い出されちゃったのかは分からないんだけどね、と付け加えながら話す彼女の様子はどこか寂しそうに見えた。


「それほどの才能を手放すとは……いささか不自然ですね。優秀だったけど問題児だったとか?」


 優れた魔道士はどこか頭のネジが外れていることも少なくない。ローレは“フレイ”もその類では無かったのかと推測した。


「いやいや、全然そんなこと無かったよ!?確かに口が悪かったり、やたら傲岸不遜だったりはしたけど根本的には凄く優しかったから!」


 ローレはそれを聞いてむしろ「やはり人間性に難アリだったのでは?」とか、「団長、それダメな彼氏への感想っぽいです」とか思ったが、それは口には出さなかった。

 空気が読める魔道士、ローレ・クライトンである。


「へぇ……。人間性はともかくとして、そのフレイ氏はどれほどの実力だったのでしょうか?気になります」


 ローレの口からそんな質問が飛び出た。魔道士とは基本探究心、好奇心が強い生き物である。ことさらエリート揃いの宮廷魔道士達が口を揃えて褒め称える魔道士のこととなれば、話を深堀したくなるのも仕方ない。


「お、やっぱローレちゃん、食いついたねぇ?」


 ニヤリと笑うエルゼ。かつての好敵手のことに後輩が興味を持ってくれるのが嬉しいらしく、とにかく“フレイ”について話したそうに生き生きとしている。


「どこから話そうか?そうだ、まずはね……やっぱり魔法の制御技術かなぁ。特に魔法射撃!」


「魔法射撃に関しては宮廷魔道士団うちもなかなかの腕前揃いですが、彼らを超えるということですか?」


 少し考えるエルゼ。


「まあ、正直な話、ここに魔法の撃ち合いでフレイに勝てる人はいないかな。まずアイツ標的には絶対に魔法当てるし、発動までにかかる時間も神懸ってたからね」


 もちろんうちの子が優秀なのは変わらないよ、とフォローを入れるエルゼ。同時にどこか遠い目をしながら話すエルゼを見て、ローレはその話が嘘でないことを察する。ローレにとって宮廷魔道士団とは最強の魔道士の集団である。入った日から今日に至るまでそれは変わっていない……のだが、それを率いる団長をして、そこまで言わせる魔道士とはまったく想像もつかない。ローレはひそかに戦慄を覚えた。


「あとは、使える魔法の数だったり、視野の広さとか……挙げたらきりがないよ。それだけ化け物じみてた。そりゃ『賢者』セラフィが唯一の弟子として認めるわけだよ」


 思わぬところで出たビッグネームに室内が騒めく。

 『賢者』セラフィ・シュナーベル、この国……いやこの世でその名を知らぬ者はいないとされるほどの大魔道士。何世紀にも渡って活躍した伝説的な魔道士である。数年前まで魔法学院にて教鞭を執っていたのは有名な話だ。弟子をとらない人物と噂されていたが、まさか弟子がいたとは。


「やはり、なにもかも不自然です。なぜ、それほどの人物が学院を追われ、今日までの間無名なのでしょうか」


「私にもさっぱり。調べようにも学院は彼に関する記載を抹消してるからどうしようもないし。今一番欲しい人材なんだけどなぁ。ほんと、どこで何してるんだろ」


 エルゼはかつての好敵手に思いを馳せるのであった。 




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