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風の少女の生きる世界(仮)  作者: 縦野カラ
6/6

シスターヘラ

そして翌日。


当然の如くローザの家に集合する。


こうなってくると、寝ながらでもローザの家に足が向くようになってくる。


もちろん実際には、これでもベルは女の子なので、身なりはしっかりと整えた上でローザの家へと(おとず)れる。


今日もお気に入りの二つ結びを可愛らしくぴょこぴょこと揺らしながら、頭の中では世界を殺す算段をしているというわけだ。


「――今日は、教会に行こうと思うの。」


開口一番、ローザが口にする。


別に今日と協会を掛けたわけではないだろう。


そうであって欲しい。


「――教会だぁ?なんでまたそんなとこに?」


今日はイクスも一緒だ。


「ほら、だってハンスちゃん、たくさん人を殺したでしょ?捕まるわけにはいかないけど、神様にお祈りして気持ちだけでも(つぐな)うべきだと思うのよ。ね?ハンスちゃん?」


「――うん!ローザ!」


もはや(つぐな)いなどいらないのではないかと思うほどにハンスはローザに従順になっていた。


これが大きなおっぱ……いや、あふれ出る母性のなせる(わざ)ということなのだろう。


「――教会ですか……なぜわざわざ教会の方に……?」


この国には、話に出た教会は当然のことながら、神社なんかもある。


実際に使われているかどうかは別としても、この国にはあらゆる施設が存在するということだ。


ベルの質問は、別に教会にこだわらずに神社などでもいいのではないか?ということだろう。


「――だって、教会の方が……なんか神様っぽいじゃない!それにほら、シスターだっているのよ?」


要するに、ただの思い付きなのだろう。


「――な、なるほど……し、シスターか……。」


イクスは心なしか嬉しそうだ。


おそらく、シスター好きなのだろう。


「――ま、まぁ、ローザさんがそう(おっしゃ)るのなら構いませんが……。」


「――そう?ありがとね、ベルちゃん。」


ローザは溢れ出る母性を(おさ)えることもせずに可愛らしくお礼をいう。


こんなのハンスでなくてもいうことを聞きたくなってしまう。




教会に到着する。


四人で中へ入ると、ステンドグラスの反射が神々しく神聖な雰囲気を感じる。


そこにいるだけで心が洗われるような雰囲気である反面、その迫力(はくりょく)に自分たちのちっぽけさ実感させられてしまう。


「――教会へ何か御用ですか?」


低い声だ。


教会の(そで)から出てきた人影は、シスターの服を(まと)っており体つきも細いので、女性だということは分かるが女性にしては低い声をしている。


他人の印象を気にしない声といってもいいのかもしれない。


「……え、えっと……。」


ベルが言葉に詰まっていると、シスターはゆっくりとこちらを振り向く


「――な……なんだありゃ――!!」


イクスは驚く。


言葉にはせずとも、他の三人も同じように思ったことだろう。


そのシスターは、シスターと呼ぶにはあまりにもふさわしくない姿勢……恐ろしく猫背だった。


被っているベールのせいではっきりと顔は見えないが、まだまだ若いことは(うかが)える。


年齢によって腰が曲がったということではないのだろう。


そしてもう一つ……シスターの修道服というには、あまりにもピチピチだ。


まるで、身体に直接紺色のペンキかなにかを塗りつけたのではないかと思うほどに肌に張り付いており、ひらひらとした布のある場所以外の身体のラインがくっきりと浮き出ている。


果たしてイクスはどちらに驚いたのだろうか……?あるいは、そのどちらにも驚いたのかもしれない。


「……あ、あなたは……シスターさんなんですか?」


ベルは思わず疑問形で尋ねてしまう。


特に意識もせず、いつの間にかそうなってしまっていた。


「……なぜ疑問形なんですか?私は……シスターヘラです。」


低い声で答える。


「……し、シスターヘラさん……。」


「……それで?教会にはなんの御用ですか……?懺悔(ざんげ)ですか?女性に酷いことをしたとか、女性を騙したとか、女性を貶めたとか、不倫をしたとかですか?」


ヘラはイクスとハンスの方を見ながら問う。


「……い、いえ……懺悔といえばその通りなのですが、そういったものでは……。」


「……そうですか……。では思う存分祈りなさい。不倫や浮気をしたのならば今すぐに首を吊りなさい。さぁどうぞ。」


「…………んえ!?」


シスターの言葉を聞いた四人は……四人のうち誰ともなくおかしな声をあげてしまう。


あるいは四人ともがそうだったのか……。


少なくとも、今シスターがシスターらしくないことを……シスターが一番いってはならないことをいった気がすると……そう思っていた。


「……え、えっと……シスターさん……?」


「はい。シスターですが何か……?懺悔するならさっさと懺悔して帰って下さい。私は忙しいのです。オンゲのレベル上げが……いえ、なんでもありません。いいからさっさと懺悔して帰るのです。」


「………………。」


言葉も出なかった。


イクスの絶望した顔といったらもう見ていられない。


「なにをフリーズしているのですか?そんなに低スペックではソロプレイもままなりませんよ?」


「……い、いえ……へ、ヘラさんは男性に何か恨みでもあるんですか……?」


ベルがようやく声を絞り出して口にした言葉はとんでもない内容だった。


イクスやローザ、ハンスが引いていることは当然のことながら、ベル自身もなぜそんなことを聞いてしまったのか分からなかった。


とにかく、この沈黙を破ろうと思ったのかもしれない。


「…………それを聞いてしまうのですか……?」


低い声が一段と低くなる。


地獄の底から届いているような声だ。


「…………い、いえ!そ、その、む、む、むむ、無理にはいいんです!!お、お(つら)いこともあるでしょうし、無理に答えなくても大丈夫ですから!!」


ベルは半泣きで訴える。


――恐い。


今すぐ帰りたい。


その場にいた四人全員がそう思った。


「……ふふ……うふふふふふふ……――――あーっはっはっはっは!!あいつよ!!あいつが全部悪いのよ!!私のことを一番愛しているとかいっておいて、他の女とべたべたべたべたと!!あんなに幸せだったじゃない!!あんなに一緒にいたじゃない!!それなのになんで!!なんでよ!!地獄……地獄よ!!地獄に落ちればいいのよ!!!――あーはっはっはっはっは――!!」


「――――こ、怖いですぅ!!い、イクスさん!怖いですぅ!!」


ベルは涙を流しながら思わずイクスに抱き着いてしまう。


「――お、おう!俺だって怖ぇよ……。」


イクスはベルの頭に手を置き、なだめながらも硬直してしまうほどには怖がっている。


ローザは笑顔で直立しているが、あるいは立ったまま気絶でもしているのかもしれない。

ハンスはローザの陰に隠れて震えている。


「――お、おい!あんたヘラとかいったか――?」


「――あ゛あ゛ん゛?」


もはやシスターから出る音ではない。


「――あ、あんたなんでいつまでもそんな男のこと引き()ってやがるんだ?」


おい、やめておけイクス。


他の三人はそう思ったことだろう。


「…………な、なんでって……そ、そんなの……だって大好きだったんだもん……。」


シスターヘラは、急に恋する乙女のように可愛らしい声を出す。


「だが、(ひど)いことされて今は(きら)いなんだろ?」


「――そうよ!!あいつさえ!!あいつさえ地獄に落ちれば!!私はもっと幸せに!!」


ヘラの声はまた低くなる。


「…………確かに、いつまでも同じ男を好きでい続けられるのはすげーことだし、そんなにいい女なんかそうそういねぇとは思うが、あんたがいつまでも(つら)いならそんなの忘れちまった方がいいんじゃねぇか?」


「――い、いい女……?――で、でも忘れるっていってもどうやって――!?」


「そんなの分からねぇが……色々あるだろ?例えばなんか好きなことをするとか、新しく楽しめることを見つけるとか、もっと好きになれる男を見つけるとか……。なんにせよあんた見た目はいい女なんだ。男なんざ他にいくらでもいるだろうよ。」


「~~~~~~っ!?――そ、そんなにいい女いい女っていわないでよ……わ、わたしなんて……そんな……。す、好…………うでしょ?」


「……ん?なんて……?すまねぇがよく聞こえなかった。もう一回いってもらえるか……?」


「――――~~~~~~っっっ!!だ、だからぁ!!す、好きになっちゃうでしょ!!あなたのこと!!」


――ええ…………。


「――い、いや、お、俺なんか好きになってもなんもいいことなんかねぇぞ!!」


「――いいのぉ!!それでもいいの!!私、あなたのこと好きになっちゃったのぉ!!」


ベールが脱げてしまうのも構わず、ヘラはイクスのもとに駆け寄ってきて抱き付く。


綺麗な金髪の長髪を揺らせ、(とろ)けたような幸せそうな顔でイクスを放さない。


イクスは困り顔ではあるが、綺麗でおっぱいの大きなシスターに抱き着かれて照れくさそうにしつつも嬉しそうでもあった――――。




疲れてしまったので再びローザの家へと集まる。


結局ハンスは懺悔をすることなく帰ってきた。


あれだけ邪悪なシスターがいるなら、いまさら懺悔なんかいらないんじゃね?という結論に至ったからだ。


ちなみにシスターヘラは、まだ教会で事務仕事などの本来の仕事があるとのことで一緒にローザの家へ来ることはなかった。


ただ、イクスには、いつでも教会に顔を見せにきて欲しいとしつこくいい寄っていた。


イクスもまんざらでもなさそうではあったが、精々地獄に落とされないように祈るばかりだ。


「…………え、えっと……色々ありましたが、お疲れさまでした。」


「……そ、そうね。お疲れ様……。」


ローザは答える。


イクスは、ローザの家に帰ってきてから一言も口をきいていない。

誰よりも疲れてしまったのだろう。


「――それで、突然なのですが……私、他の場所も気になっているんです。」


「……他の場所?」


ローザが聞き返す。


「はい。ここではない、他の場所の様子も知ることができたらと思っています。」


「……確かに、色々なものを見て色々な経験をしておいた方が思いもよらないことを思い付くかもしれないわね。」


「はい。ローザさんの(おっしゃ)る通りです。なので、少し遠くへ行こうと思うのですが……。」


「……足がねぇっていうんだろ……?」


イクスがようやく口を開く。


「はい。その通りです。何かいい方法があればと思うのですが……。」


「……それなら俺に任せとけ。何日かくれりゃ俺の方でどうにかしてやるよ。」


「――ほ、ホントですか!?」


「ああ、任せとけ。」


「じゃあ、お願いしてばかりで申し訳ありませんが……イクスさん。お願いできるでしょうか?」


「――おうよ!もちろんだ!」


後日再び集合することを約束し、解散することになった。

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