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風の少女の生きる世界(仮)  作者: 縦野カラ
2/6

ベルとイクスと不気味な女

「……うふふふふふ……いい子いい子ね……本当にいい子……。」


ベルとイクスが並んで歩いていると、どこからか女の声が聞こえてくる。


その声の主はすぐに見付けることができた。


女と思われるその人間は、ボロボロのフードを被っており、顔はよく見えない。

胸の辺りには、これまたボロボロの布にくるまれた赤ん坊と思われるものを抱いている。


「な……なんでしょう?」


ベルはその不気味さからついついイクスに聞いてしまう。


「……さぁ?」


それに対して、イクスは適当な返事をする。


女は、ベルやイクスの向かい側からふらふらとした足取りで歩いてくる。


「……いい子いい子ね……いい子――あっ!」


――カラン。


女は転んでしまう。


それと同時に、抱いていた赤ん坊が手から離れ、それを地面に落としてしまった。


「――だ、大丈夫ですか!!」


ベルは転んだ女に駆け寄る。


「――ああ、赤ちゃん!私の赤ちゃん!!」


母親としてそれを気にするのは当然のことだろう。


「――おい、なんだこりゃ……。」


イクスは顔を歪め、気味の悪そうな声を出す。


そのイクスの指の先には、赤ん坊をくるんでいた布がつままれていた。


そしてその中身は……骨だった。


いや、正確には骨と腐ってただれた肉により、辛うじて人の形を保っている死体だ。


「――――あああ!!赤ちゃん!!私の赤ちゃん!!」


その母親と思われる女が抱いていた赤ん坊だったと思われるものは、とっくの昔に亡くなっていたに違いない。

その死体の状態から見ても、ここ二、三日のことではなくずっと昔に亡くなっている。

ましてや、今ここで落とされたことによって亡くなってしまったなどということは、決してないだろう。


「……え、あ、あの……それは……。」


ベルは困惑する。


「おい、ベルの嬢ちゃん。この女、おかしいぜ?」


イクスの言う通りだ。


とっくに亡くなってしまっている赤ん坊の死体を抱いていることもそうだが、その女自身の挙動も大分おかしい。

まるで幻覚でも見ているかのように、なにもない場所に向かって撫でるような動きをしている。


そんな様子を不気味に思っていると、女はイクスの足元から赤ん坊を拾い上げ、またふらふらとどこかへ歩いていく。


「……ついていきましょう。」


「おいおい、マジかよ……ベルの嬢ちゃん。」


「――マジです!」


「……ったく、仕方ねぇな……。」


ベルとイクスは女を尾行する。




「ただいまぁ。」


おそらく自分の家なのだろう。


女は家の中に入っていく。


ただいまの声に返事はない。


「――みんないい子にしてたかしらぁ?今日も美味しいご飯にしましょうねぇ。」


家の中から女の声が小さく聞こえてくる。


女の声はどこか朦朧としていた。


さらには、誰かと話しているような言葉を発しているが、聞こえてくるのは赤ん坊の死体を抱いていた女の声だけだ。


――コンコン。


ベルは女の入っていった家の扉をノックする。


「――あらぁ?お客さんかしらぁ?はーい!」


ガチャリと玄関の扉が開く。


「あらあらどうぞ?上がってちょうだい?」


扉を開けた女は、フードを脱いでいた。

赤い髪が綺麗で、顔はこけてしまっているが、本来であればかなり整った顔立ちだと思われる。


その女は、そのままベルとイクスを家の中へと向かい入れる。


「う……。」


ベルは嘔吐(えず)いてしまう。


「なんだこりゃ……ひでぇ臭いだ。」


イクスは不快そうな顔をする。


家の中は何かが腐ったような臭いで満たされており、家中のあちこちには綺麗な色に白い斑点(はんてん)が付いているキノコがあちこちに生えていた。


「――お客様!今日はご馳走なの!どうぞ召し上がって!」


そう言いながら女はテーブルの上に皿を並べて行く。


「――さぁ!召し上がってちょうだい!食べ物ならたくさんあるから安心していっぱい召し上がってちょうだいね!」


たくさんあるという割には皿の上にはキノコが一つだけ、しかもそれは家中に生えているものと同じ。


「――さぁ!遠慮せずにどうぞ!」


女は食事を勧めてくる。


「――おい、ベルの嬢ちゃん食べるんじゃねぇぞ?こりゃ毒キノコだ。」


「――毒!?」


「……じゃあ、私から頂いちゃおうかしら!」


女はぱくりとキノコを口に含み数回噛み、飲み込む。


「――美味しいわぁ!さぁ!お客様もどうぞ?」


「――イクスさん!」


「――ああ!吐かせねぇとやべぇ!!」


イクスはそう言いながら、近くのあった水道の蛇口をひねりに行く。


――だが、水が出ない。


それを見て、ベルは冷蔵庫を探し、開ける。


だが、その中にも何も入っていなかった。


「……そ、そんな……。」


「――ベルの嬢ちゃん。その女、見ててくれ!」


イクスはそう言うと、急いで家の扉を開け、外へと出て行く。


「――い、今すぐに吐き出してください!」


ベルはそう言いながら女の背中をたたく。


だが、女は酷く()せ細ってしまっていたため、あまり強く(たた)くと骨が折れてしまうため、力加減が難しい。


「あらあらぁ、お食事中にダメよぉ?お客様。召し上がってちょうだい?」


「――い、いりません!」


「そんなこと言わないでちょうだいよぉ。頑張って作ったのよぉ?」


――バン!


玄関の扉が勢いよく開く。


「――はぁ……はぁ……べ、ベルの嬢ちゃん!大丈夫か!?」


「――大丈夫じゃありません!」

涙声だ。


ベルはイクスから受け取ったペットボトルに入った水を強引に女に飲ませる。


「――う、うぶ、うぶ、う、ひ、ひど……いわ、うぶ、うぶ、うぶ――。」


びちゃびちゃと水を(こぼ)しながらも強引に水を飲ませ続ける。


実際に飲ませられたのは精々が1.2リットルといったところだろう。


「――吐いてください!!」


水を飲ませ終え、ベルは女ののどに指を入れ、吐き出させる。


「――うえ、う、うぶ、うげええええええ!!」


吐き出す。


びちゃびちゃと吐き出したものの中には、先程食べたものの他にも鮮やかな色のキノコが混じっている。


「――この女、こんなもんしか食ってなかったのか!」


イクスが驚く。

ベルは、もう一度女ののどへと指を突っ込む。


「――や、やめ、くるし……うげえええええ!」


再度吐き出したものは先ほどのものよりキノコの欠片(かけら)が小さくなっている。


大分消化してしまったのかもしれない。


「――が、我慢してください!!」


「――――う、うぶ、うえ、うげええええええ!!」


びちゃびちゃと吐瀉物(としゃぶつ)が床を叩く。


女は、気を失った。


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