4.さいごは必然で(後編)
完結です!
でも、一話がいつもより長くなってしまいました。
「つ、疲れた・・・。呼吸もくるしぃぃ」
休憩室にあるソファに座ったラリエットは深々とため息をついた。
リカルドにエスコートされながら先ほどまで参加していたパーティーを思い返し、自身の装いにちらりと目を遣った。
濃いブルーをアクセントとしたふわりとした柔らかな生地のドレス。所々に淡い水色の小さな花が散らしてある。オフショルダーの胸元には精緻な模様のレースがあしらわれ、華奢なラリエットをさらに可憐な雰囲気にしている。そして、その胸元には、複雑なカットを施された大粒のブルーダイヤモンドの首飾り。ドロップ型のブルーダイヤモンドが連なった耳飾りが耳元で揺れる。
ドレスはウサギ族から持ち込んだものだが、宝飾品はリカルドのプレゼントだ。領主夫妻とのお茶の後、パーティーに向けた衣装替えの時にアーニャが持ち込んできた。鼻歌でも歌いそうなうきうきした様子でラリエットを着替えさせるアーニャを訝しんだ。
「アーニャ。デイドレスの時は、断ってたわよね、リカルド様のプレゼント。パーティーはこれにするの?・・・あまりにも豪華すぎて、色々怖いんだけど。」
「これは、姫様を熟知しております私が選んだ宝飾品ですから、心配無用でございます。先ほども、リカルド様の選択をお断りしただけで、プレゼント自体を断ったわけではないですから。・・・あぁ、リカルド様がお揃いに強いこだわりをお持ちでしたので、姫様のドレスの友布をハンカチーフとして仕立て与えておきました。こっそりと同じブルーダイヤモンドのピンを取り寄せようとされていましたから、クラヴァットに同じ宝石をあしらうつもりかもしれません。」
自信満々のアーニャを見て、ラリエットは頭を抱えたのだった。
-それにしても、トラ族主催のパーティーは、心の蔵に悪いわ。リカルド様にエスコートされて会場に入ったから、物凄い目でじろじろ見られて、ホント針の筵だし。リカルド様はこちらばっかり見て、ニコニコされているから、それには全然気が付いてないみたいだし。それにしても、トラ族の横にウサギ族というのが珍しいからって、あんなこの世の終わりかのような顔で見なくたっていいのに・・・
いつも無表情のリカルドが相好を崩し、微笑んでいる姿が皆に衝撃を与えていたとは、ラリエットは思いもつきもしなかったのだった。
-それに、ちくり、ちくりと呟かれる言葉も、結構堪えるのよねぇ。
『リカルド様の逞しさに全く釣り合わないアレは何?』
『草食獣がこんなところにまで出張ってくるなんて。身の程知らずだってことわからないのかしら。あぁ、わからないから、厚顔無恥というのね。』
『アレで男性の気持ちが盛り上がるのかしら。ねぇ?』
-うぅ。色気がないことはよーくわかってるのだから、ホント、抉らないで欲しいわ。
ふぅぅと更に深々とした溜息をつきながら、ラリエットはふかふかのクッションに軽く体をもたせかけた。疲れがひどいからなのか、更に浅くて速い呼吸となり、少し苦しくなってきた。先ほどのウルスラを思い出すと、胸にちりちりとした痛みも感じた。
リカルドにエスコートされながら、トラ族の関係者に紹介されていると、胸元に深いスリットが入った金の刺繍が豪奢な黒いドレスを纏ったウルスラが手にワインをもちながら近づいてきた。相変わらず足元のスリットもかなり深い。
「リカルド様。トラ族のワインは相変わらずおいしゅうございますね。芳醇な香りとこの酸味。・・・小動物もこんな味わいかしら。」
赤い唇からちらりとのぞく舌が艶めかしい。お茶の時にリカルドに躱されたためか、ラリエットがいる側からするりとウルスラが近づいた。そして、ラリエットを見下ろすと、口の端を嘲るようにもちあげた。
「貴女も味わいました?」
「いえ、ワインは・・・。」
ウルスラは、ラリエットを頭から爪の先までをなめるように見ると、リカルドからは表情が見えないようにし、くすりと笑った。そして、リカルドの方を見上げる時には、その表情をすっかりと隠し、艶やかな瞳を向ける。
「トラ族の特産でもあるワインを嗜まれないのですね。あら、あら、そんな幼さで大丈夫かしら。あぁ、それでは、オオカミ族特産であればよろしいのではなくて。トラ族とオオカミ族の友好の証として取引されてますのよ。オオカミ族では、子供でも好んで飲んでますから、貴方にも合うのではないかしら。」
ウルスラ近くを通った給仕の女性を呼び止め、飲み物をもってくるように伝えたようであった。給仕の女性は盆に淡い黄色の飲み物を載せて戻ってくると、ラリエットへと差し出した。リカルドが状況を察し動こうとすると、ウルスラはすかさずリカルドの手にするりと指を這わせた。
「あら、リカルド様。こちらの方は、他種族との交流もできない方ですの?過保護も過ぎれば、能力不足を疑われましてよ。」
ウルスラは、リカルドに体を寄せ、上目遣いで見上げると、その耳元で、『私の方がリカルド様を喜ばせることが出来ましてよ。後で、お部屋でゆっくり話し合いませんこと?』と吐息交じりに囁いた。リカルドがぎらりと睨みつけると、悪びれる風もなく、口元に笑みを湛えたまま、少しだけ体を離した。ウルスラはリカルドのみに見せる顔とラリエットのみに見える顔をしっかりと使い分けていた。
-すごい絶妙な位置取りだわ。リカルド様がウルスラ様を避けようとすると、私や飲み物を振り払うような形になってしまうわよね。完全に動きを封じられている。これが、猛獣の駆け引きかしら。私には真似できないわね。まぁ、体格的に同じ位置取りしても、無理だけど・・・
なんか、怪しさ満点だけど、とりあえず、これは飲まないとだよね?こんな衆人環視の中で、さすがに変なことはできないはずだし、他種族交流できない子供みたいに言われるのも、リカルド様にべたべたし過ぎるのもムカッとするし。
まんまとウルスラの挑発にのったラリエットは、ふんすと勢い込んでグラスの方へと手を伸ばす。
「ウルスラ様、オオカミ族の特産品、味わわせていただきます。」
ウルスラの後ろに控えた給仕の女性が、ラリエットが飲み物をこくりと喉に流し込む様子をじっと見つめていた。『あ、結構、美味しい。』と、もう一度こくりとしたところで、ウルスラと距離をとることができたリカルドにグラスを奪われた。『ラリエット姫が美味しそうに飲まれているので、私もご相伴に預からせていただきますね。』と言うと、リカルドは残りを飲み干してしまった。
-味は常と変わらぬから、毒物でもなさそうだが、この女が何の意図もなく飲み物をもってくるとは到底考えられぬな。ただ、私が取り上げて飲んでも焦った様子もないところを見ると、思い過ごしか。杞憂であればよいが。
リカルドは、飲み物を取り上げられ、呆然としているラリエットを微笑ましい思いで見つめながら、ウルスラには冷えた眼差しを向けた。
リカルドの心中を読んだかのように、ウルスラは、ふっと勝ち誇った笑みを向けると、『では後ほど。』と立ち去って行った。もちろん忘れずに、ラリエットには『子ウサギは、いつものようにおとなしく奥で小さくなっていればよいのよ。』と囁いた。
その後、リカルドに急ぎの相談があるとトラ族の男性が焦ったように話しかけてきた。冷ややかな瞳で、『今か。』とリカルドがちらりと見遣ると、男性は体を縮こませ、『何とかお願いいたします。』と繰り返すばかりであった。リカルドは一息つくと、ラリエットに優しく微笑み、『レイモンドを護衛に置いておきますので、しばしお待ちいただけますか。』と、耳元で囁くと、男性とともに立ち去って行った。
後に残されたラリエットが振り返ると、いつもはリカルドの後ろに控えているレイモンドと目が合った。目があった途端、レイモンドはにかっと笑った。猛獣を感じさせないレイモンドの様子にラリエットはほっと一息をついた。
「リカルド様って、たまにとっても冷たい感じなんですね。」
「私にしてみれば、姫さんに向けるリカルドの方が異様なんですけどね。心の底から冷え込むような何を企んでるかわからない腹黒い笑みはよく見るけど、デレデレと甘ったるく、にやける日が来るなんて、この目で見ても信じられないくらいですよ。まぁ、あれも別の意味で怖いけどね・・・」
「デレデレ?」
「え?!そう思わない?あれは、デレデレでしょ。そういえば、領主夫人もデレデレだったでしょ。領主夫人とリカルドは好みが似てるんだよなぁ。」
リカルドが血の盟約の5代目であることを非常に悔しがっていた領主夫人が掌を返したようにラリエットを可愛がったのは、正にそれが理由であった。『あのぴょこぴょこして、隠しきれてない表情が堪らないのよねぇ。』とお茶会の後にリカルドに漏らしていた。もちろんリカルドからは、『繰り返しますが、私の妻となるのですから、母上は遠慮を覚えてください。』と牽制されていたのだが。
二人とも艶やかだとは思うが、デレデレとはちょっと違う気がして、うーんとラリエットは首をかしげていた。リカルドが側を離れたことでさらに緊張が高まったのか、呼吸が少し早くなり、立っているのが少しつらくなってきた。
「あれ?姫さん、ちょっと顔色悪くない?猛獣系ばっかりだもんね、今回のパーティー。中てられたんかな。」
「うぅ。そうかもしれません。どこか座って休憩できるところに移動してもよいでしょうか?・・あぁ、でも、お料理美味しそう・・・」
レイモンドがぶふっと噴き出しながら、周囲をちらりと伺い、近くの給仕の女性に、何事かを指示していた。
「料理のこと考えられるってことは、そんなにひどくないんかな?とりあえず、領主関係者専用の休憩室にいこっか。さっき、目ぼしい料理とデザートは休憩室に運ぶように伝えといたから、休憩室でゆっくりと味わいながら、リカルドの迎えを待つとしようか。」
ラリエットが休憩室のソファに座ると、レイモンドは『リカルドにちょっと伝言だけしてくるよ。』と席を外した。この休憩室は領主関係者しか入れず、また扉の前にも警護の兵もいるため、レイモンドが少しだけ席を外す分には問題ないそうだ。
程なくして、軽く扉がノックされ、外にいる警護の兵が各種料理にデザート、飲み物を載せたワゴンを運んでいる給仕の女性を部屋へと案内した。レイモンドがお願いしてくれていた料理などを運んできてくれたようだ。
料理をテーブルにきれいに並べると、女性はワゴンをソファの脇へと移動させ、飲み物の準備をし始めた。ラリエットの目は料理にくぎ付けとなってはいたが、息苦しさはさらにひどくなり、はっはっはっと浅い呼吸になってきた。
-うぅ。なんか息苦しい。さっぱりしたものでも食べたら、落ち着くかも。
食に対する欲はまだ健在であったラリエットは、お魚のマリネに手を付けた。爽やかな酸味の喉ごしがよく、『ほぅ。』と感嘆の溜息が知らずに漏れた。美味しいものを食した高揚感からか、更に、他の料理にも手を出し、ひょいぱく、ひょいぱくと食べ続けてしまった。一通り食べつくしたところで、息苦しさに加え、軽い酩酊感を覚えた。自分の中心がぶれるようなふわふわ感もあった。
-う、まだデザートまで辿りついてない・・・・小休止かな?
恨めし気にデザートを見つめた瞬間、強く背中を押され、ラリエットはバランスを崩し、ソファから滑り落ちるように、床へと倒れ込んだ。体全体を床にぶつけ、痛みに顔を顰める。立ち上がろうとテーブルへ手をかけようとした瞬間、その手を強くひかれ、同時に、載せられた料理ごとテーブルが激しく倒された。テーブルが倒れる音、皿が割れる音とともに、『きゃぁ。』という女性の悲鳴も聞こえた。ラリエットは、眼前の光景をはっきりと認識した瞬間、酩酊感が遠のき、思わず叫んでしまった。
「なんて勿体無いことするのぉぉぉ。」
目の前にぶちまけられた料理やデザートの数々を涙ながらに見つめ、ぷんすこ怒っているラリエットの愛らしさに、リカルドは思わず、ぎゅっとラリエットを抱きしめてしまった。『へぶっ。』と姫らしからぬ声を漏らしたラリエットですら愛しすぎると、さらにきつく抱きしめた。ラリエットに怯えられないように総動員していた自制心がぶつりと切れた瞬間だった。
「あぁ、やはりあなたは愛しすぎます。これ以上私をどうしたいのですか。やっぱり離せませんね。いや、離せなくなるだろうことは分かっていたのです。もう、このまま、婚姻式までずっとトラ族の領地に居ましょう。戻ると言われたら、耐えられず、何をするかわかりませんよ、覚悟してください。そういえば、招待状にもそれは書きましたし、ウサギ族の領主から『否』とは言われてはいないので、問題なしです。ラリエット姫。」
さらにぎゅう、ぎゅうと抱きしめられ、息苦しさにラリエットは、べしべしとリカルドの背中を叩いた。その横で、レイモンドは、手早く女性を取り押さていた。レイモンドに取り押さえられている女性は、ワゴンを運んできた給仕の者であった。よくよく見ると、ラリエットにオオカミ族の特産品の飲み物を給仕した女性と同じ人物でもある。取り押さえた女性には厳しい目を向けながら、レイモンドはラリエットに懇願した。
「姫さん。このリカルド、ホントやばいって。こんな壊れたリカルド見たことない。おとなしく、トラ族に留まって。お願い・・・。」
「そんなことより!この惨状はリカルド様とレイモンド様の仕業ですか!?何やっちゃってるんですか。食べ物大事にしない人は・・・ぐーでパンチですよ!!・・・え、あれ?いつの間にお二方とも休憩室に?」
ふんすふんすと鼻息荒くまくし立てた後、今の状況を理解していないことに気が付き、首を傾げた。どうやら、強く手を引いたのがリカルドでテーブルを蹴り倒したのがレイモンドのようだ。
「かなり際どく、命の危険があったにもかかわらず、それよりも食べ物優先。怒る姿も愛らしく、怒るポイントも愛らしい。あぁ、全てが愛らしい。」
さらなるリカルドのぎゅうぎゅう攻撃に、『げぷ』とまた姫らしからぬ呻きを漏らしながらも、有言実行とばかりに、ラリエットは、ぐーでリカルドの脇腹をパンチした。レイモンド曰く壊れたリカルドでは、ラリエットの中に猛獣=恐怖の図式が成り立たなくなっていた。
「え!?命の危険??え、そんなのあった??だって、とんって背中押されただけよ。」
「姫さん、押された先って見えてた?・・・見えてないほうが幸せかなぁ」
「これは、片時もそばを離れてはならないという啓示に違いない。やはり、離しませんよ、ラリエット姫。」
リカルドはラリエットに気付かれないようにそっと背中で隠した先には、ぎらりと光る小さなナイフが数本転がっていた。
-毒では足がつく。精神を侵すもので感覚を鈍らせて、転倒させ、隠せない傷を残すつもりだったのか。陰険極まりない、オオカミ族のあの女。どうしてくれよう。
ぎりりとリカルドは奥歯を噛みしめた。
後の始末を全てレイモンドに押し付け、リカルドはラリエットを領主館の応接室へと連れて行った。背後で、『え、なんで。これ、リカルド案件だろ。』とレイモンドが叫んでいたが聞こえないふりをした。証人、証拠は押さえてある。リカルドにとってラリエット以上に優先すべきことはなかった。
ラリエットをソファに座らせると、その横にリカルドも座った。先ほど切れた自制心を修復し終え、しっかりと間を空けることも忘れなかった。
「あれは、何だったんですか?」
ラリエットがじっとリカルドを見つめて尋ねた。先ほどの自制心が切れたリカルドが功を奏したのか、ラリエットはリカルドに怯えなくなっていた。
「私の不徳の致すところです。貴女のそばを離れるべきではなかった。」
「・・・ウルスラ様は、リカルド様のことがお好きなのですよね?・・・血の盟約による婚姻の申し入れを破棄させたいのですよね?」
『こんな怖い思いはしたくないので破棄してください。』と言われそうな雰囲気を察し、かぶせるようにリカルドが言葉を紡ぐ。
「憂いは全て取り除きます。完膚なきまでに叩き潰します。」
「そんなことしたら、外交的に問題になるじゃないですか!」
「自ら穴に落ちてもらえばよいのです。そのあたりは得意分野ですので、お気になさらず。」
「お気になさります!!」
はぁはぁと肩で息をしながら、ラリエットが叫んだ。そして、ふっと視線を落とすと、もごもごと歯切れ悪く話し出した。
「ウルスラ様は色気たっぷりで・・・女の人って感じで。リ、リカルド様もまんざらでもない顔してましたよね。べたべた触られて、しなだれかかられて。・・・う、嬉しかったんでしょ?」
ラリエットは、さらにしゅーんと小さくなっていった。
最初は、常とは違うラリエットの様子に訝し気な顔をしていたリカルドであったが、話す内容が、まるで悋気のようにも聞こえ、ラリエットに見えないように小さく笑みを漏らした。
「色気もしなだれかかられるのも、私は好みませんから。嬉しいなどと微塵も思いませんよ。」
ラリエットが顔を上げると、心底嫌そうな顔をしたリカルドと目が合った。
-好まないなんて言ってるけど、何度もべたべた触られても断ってもないし。・・・あ、そ、そうよ。リカルド様が好まないことをして婚姻の撤回をするのが私の狙いなのよ。だから、私もしなだれかかって、色気振りまけばよいのよ。
じっとリカルドの腕を見つめていたかと思ったら、ラリエットが突如、リカルドにぴとりとくっついてきた。ラリエットの精いっぱいのしなだれかかりであった。そして、パーティーでのウルスラの様子を懸命に思い出そうとした。
-ウルスラ様は、上目遣いで腕に指を走らせてたよね。『後で、お部屋でゆっくり話し合いませんこと?』とかなんとか耳元で囁いて。
思い出した瞬間、胸がむかむかするのを覚えた。自分の感情についていけず、一瞬呆然としたが、ラリエットはふるふると首を振ると、色気振りまき行動に移すことにした。
「リ、リカルド様、これからお部屋でゆっくり話し合いませんこと?」
ラリエットは、言い切ったと満足してから、はっと思いついたように、少しリカルドと距離をとり、自身の人差し指でリカルドの腕をなぞってみた。その後、ドヤ顔でリカルドを見上げた。
ラリエットの一連の動きを見守っていたリカルドは、甘やかに微笑むと、ラリエットを優しく腕の中に囲った。そして、ラリエットの耳元でそっと囁いた。
「愛しい女性の場合は、好まないどころか、こんなにも気分が高揚するのですね。初めて知りました。・・・貴女にその心積もりがあれば、これから二人きりになりましょうか。」
耳が赤面するほどの艶やかな囁きに、ラリエットは腰が砕けそうになった。
応接室の扉が激しくノックされ、返事も待たずに、大きく扉が開かれ、アーニャが飛び込んできた。そして、リカルドに囲われたラリエットを見つけた途端、びしっとリカルドを指さした。
「リカルド様。姫様にはまだ早すぎます。少し距離をとって下さいませ。それに、こんなに早く事を進めることは約束違反です。」
「誘われたのは私の方ですよ。私の方からことを進めれば約束を違えることになるかもしれませんが、これは、ラリエット姫のご希望ですからね。約束外です。」
頭上で繰り広げられるリカルドとアーニャのやりとりに、ラリエットは目を白黒させた。
「アーニャ。リカルド様と?え??約束?どういうこと?」
「話すと長くなりますので、大幅に省略して、結論だけ申しますと、私の兄より、リカルド様の方が、姫様の伴侶という意味で優良物件だと判断したということです。」
「なによぉ、それ。まったくわからないわよぉ。ちゃんと説明してよ、ちゃんと。」
後日、アーニャを問い詰めたところ、デビュタントのパーティーでの『一人パーティー』をリカルドに見られていたことが分かった。アーニャはリカルドの存在に気が付いていたようで、会場に戻ろうとしていたリカルドに大胆不敵にも声をかけ牽制したそうだ。ただ、そこで、何らかの約束(どうしても口を割らなかった、悔しい!とラリエットは怒り中)を結び、リカルドにラリエットの情報を渡しながら、血の盟約の婚姻の申し入れへと繋げるべく、暗躍していたのだ。
「結果がよければ途中経過は気にされないほうがよいですよ、姫様。リカルド様を初めて見た時、姫様のお気に入りの王子様と近しい見目でしたので、まず、顔はクリアかと。それにこちらに来てからの姫様を見ていますと、憎からず思っているご様子。トラ族との結びつきで、ウサギ族も今後さらに発展していきます。最良の結果でしょう。」
「付け加えまして、私事ですが、姫様に関して、兄とは全く話が合わないのです。リカルド様は『もえび』仲間としても有望ですから。」
アーニャがふふふと笑いをこぼした。
「もえび仲間?」
「萌えの美学ですよ、姫様。」
-萌えの美学・・・もえび?・・・意味が分からない、意味が。
混乱するラリエットをよそに、リカルドとアーニャの会話は続く。
「ラリエットがそばに居るだけで、ぞくぞくするこの感じが、本当に堪らんな。」
「その通りですわ。リカルド様。万万が一にも、姫様には傷一つつけることのなきよう、しっかり精進してくださいませ。あぁ、今回のようなごたごたを起こすようでは、底が知れましたてよ、リカルド様。これ、違約金ものですわよね。追加要求として、私の領分である姫様の着飾りは侵さないことを挙げさせていただきます。」
「もちろんだとも。真綿にくるむように大事にして、片時もそばを離さぬ故、傷など一筋もつけないと誓おう。・・・しかし、私に全く姫を着飾らせる権利がなくなるのは承諾しかねるな。」
「リカルド様とアーニャは何約束しているのよ・・・・。」
呆れ顔のラリエットにアーニャは、にこりと微笑み、リカルドは優しく囲む腕にわずかに力を込めた。
ウサギ族の領主の執務室では、ウサギ族の領主がトラ族の招待状を見返していた。
『1カ月ほど滞在してはどうかとの誘い』と『覚悟して来られたし。』の間には、『番』の文字があったのだった。
-番の覚悟して来られたし。
ラリエットは完全にリカルドに狙われていました。
そして、アーニャのサポート付きのリカルドから逃れるすべはありません。
トラ族の未来のためにも、リカルド共にあるしかありませんね。
『姫さん、絶対に返さないからな!私の命にもかかわる!!』
と、レイモンドに阻止もされますからね。




