4.さいごは必然で(前編)
久しぶりの更新です。
そして、最後が長くなりすぎてしまい、前編、後編に分かれます。
・・・全4回ではなくなってしまいました。
「ウサギ族の女性は、とっても愛らしいのね。本当によくいらして下さったわ、ラリエット姫。・・・・いいえ、もうすぐ、家族になるのですものね。ラリエットと呼ばせて頂戴ね。私のことも、ぜひ、母と呼んで下さいましね。」
トラ族領主夫妻、つまりリカルドの両親とのお茶は、領主夫人のプライベートの庭園の一角に席がしつらえられ、円卓を領主夫妻とリカルド、ラリエットが囲むように座した。
そして、ラリエットの目の前では、トラ族領主夫人であるリカルドの母が赤い瞳を細め、満面の笑みを浮かべて話している。赤味の強い金色の髪を後ろでまとめ、ほんの少しの後れ毛がなんとも艶やかな女性であり、とてもリカルドのような年齢の子供がいるとは思えない。
-このスタイルの女性の専属をしている仕立て屋では、私のドレスが難しいわけだわ・・・
朝食後、リカルドの手配通り、トラ族の商人と仕立て屋が宝石や靴にバック、布にレースを山のように運んできた。冗談ではなく、広い応接間が埋め尽くされるような勢いだった。そして、その応接間の扉に近い隅には、青ざめた顔のウサギ族の仕立て屋が身を縮こませて佇んでいた。
リカルドは有言実行で、あの後すぐに、トラ族とウサギ族の領界に転移陣を敷設し、なんと、朝一でウサギ族の仕立て屋を連れてきたのであった。
ウサギ族の仕立て屋は、ちらちらとラリエットを見遣っては、助けを求めるように目を潤ませていた。仕立て屋の気持ちが痛いほどよくわかるラリエットは、せめてもの助けとして、アーニャを仕立て屋の側へと行かせた。仕立て屋は、アーニャに隠れるようにして存在感を消そうとしていた。『あぁ、気持ちは痛いほどにわかる・・・・。』とラリエットは嘆息し、嬉々として動き回るリカルドを見遣った。
「これは、ラリエット姫の瞳と同じ色の宝石の入った首飾りですね。こちらが対となる耳飾りと指輪と、・・・あぁ、ブローチもあるのですか。では、こちらを全て頂きましょうか。この赤は、ラリエット姫の美しい髪によく似合いそうだ。
ふむ、困りましたね。私の色も纏って欲しいのですが、ラリエット姫の白い滑らかな肌には金よりも銀色でしょうか。いやいや、金色も肌の美しさが際立って映えそうですね。これも良い品だ。こちらも全て頂きましょう。」
次から次へとラリエットにあてては、満足気に頷き、リカルドは、さくさくと宝飾品を選んでいく。されるがままにしていたラリエットは、リカルドが選んだ商品の山があまりにも高くなることに恐怖を覚え、リカルドの腕を抑えた。
「そんなにたくさんは、要りません!つ、着けていくところもないですし・・・・ね?」
リカルドは掴まれた腕を蕩けそうな瞳で見つめた後、ラリエットに視線を移し、満面の笑みで返した。
「そのようなご心配は無用です。出かける予定も、同伴して頂きたいパーティーも数限りなくあります。着ける機会など、いかようにでもなりますよ。ただ、可愛らしい貴女を他の男の目に晒すことになるのは、如何ともしがたい気持ちになりますね。」
-私はお金の心配をしているの、気付いてよ!!この宝石、とっても大きいんだから。首飾り一つで、ウサギ族の財政吹っ飛ぶんじゃないかしら・・・それを事も無げに、ポイポイ選ぶなんて。くぅ、お金持ちめ!
根っから貧乏気質のラリエットは、浪費癖のある高慢な女性のふりをすることはすっかり頭から抜け落ち、目の前の散財の嵐に頭がクラクラしていた。リカルドの瞳が、言葉の後半で捕食者然として強く金色に輝き、トラ族の商人ですら背筋が凍ったのだが、その豹変ぶりに全く気が付けないほどに。
リカルドは、更に、何組かの宝飾品を選ぶと、続いて、靴、バック・・・と大量に選んでいった。ドレスに関しては、ラリエットのドレスのデザインを悩んでいるトラ族の仕立て屋を無視して、布とレースを大量に選ぶと、アーニャの後ろに隠れていたウサギ族の仕立て屋の前にどさりと積み上げた。「ラリエット姫に相応しいドレスを最低でも10着はすぐに仕立ててください。」とにこりと微笑むと、ウサギ族の仕立て屋は見ているほうがかわいそうなくらい血の気の引いた顔で、首振り人形かの如く、コクコクと頷いていた。布とレースを携え、よろよろとした足取りでウサギ族の領地へと連行されていった仕立て屋の後ろ姿を見送りながら、ラリエットは心の底から謝罪をしていた。
そして、今に至る。
リカルドはラリエットを見遣り、耳で揺れる飾りに甘さを含んだ瞳を向け、領主夫人には冷ややかな瞳を向けた。
「母上。私もまだラリエット姫とお呼びしているのですから、私より先に母上がそのように要求するのは如何なものかと。それに、私の妻になるが故に、運よく母上は、ラリエットの母という立場になれるということを努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう。」
淡いグリーンのデイドレスを着たラリエットは、耳もとでふるふると揺れる小さな花型の金色の石にそっと触れ、軽く嘆息した。
持参したこのデイドレスに着替えたラリエットを見たリカルドは、いそいそと先ほど選んでいたグリーンを基調にした宝飾品を持ってきた。
「リカルド様。差し出がましいようですが、本日のデイドレスにそちらの宝飾品ですと、場の雰囲気にも合わず、姫様のセンスも疑われてしまいます。本日はこちらに致します。」
言外に『私の領分を犯さないでいただけますか?それに、姫様のことを一番理解しているのは私なのですよ。』との意志をのせ、アーニャがラリエットの前に進み出てリカルドを睨みつけた。そんなアーニャにリカルドが冴え冴えとした眼光を向け、両者一歩も引かず、一触即発の構えだ。
-アーニャったらよく睨み合いなんてできるわよね、びっくりだわ。まぁ、あんなに豪華すぎる宝飾品つけたら落としたりはないとしても、盗まれたり、壊しちゃったりって、怖くて仕方ないんだけど。
とひとしきり呆れ慄きながらも埒が明かない睨み合いを終わらせるべく、ラリエットはアーニャの後ろからひょこりと顔を出した。
「リカルド様、見てください!これ、この石の色。金色です!・・・ええっと、金色ですよ、金色。わかります?金色なんですよ。」
ひょこりと顔を出した仕草の愛らしさにリカルドの瞳から剣呑な光が失せた。そして、ラリエットの耳飾りをじっと見つめると、艶やかな笑みを浮かべた。
「私の色を纏いたいと、そういうことなのですね。そういうことであれば、否やはありません。あぁ、金色はラリエット姫にとてもよくお似合いです。」
睨み合いを終わらせることができ、ほっと安堵の溜息を漏らすラリエットの前で、リカルドから視線を逸らしたアーニャが軽く舌打ちをして、『飴色です。』と呟いた。
-アーニャったら、怖いもの知らずなんだから。いや、ホントに怖いものなし・・・?いやいや、ここは猛獣の領地なんだから、もっと気を引き締めないと、だわ!
それにしても、なんか、おかしくないかしら?リカルド様がとろとろに甘々なのも訳が分からないし、領主夫妻は絶対に、『こんなちんけな草食系獣人の小娘が。』みたいな感じになると思ったのに・・・。猛獣の獣人族は、血の盟約による婚姻だったとしても、猛々しい血にウサギ族の血なんて混ぜたがらないはずなんだけど。こんなに歓迎されるなんて、計画丸潰れだわ。
昨夜の計画が不発に終わったラリエットは、次なる計画として、このお茶会で、『ご両親である領主夫妻に気に入られていない草食系獣人である私とリカルド様では越えられない壁があるのです、よよよ(泣き崩れる)。』作戦を決行するつもりであった。だが、蓋を開けてみれば、まさかの大歓迎であった。
領主夫妻とリカルドのやりとりをぼんやりと眺めていると、ラリエットの背後から色を含ませた甘やかな声が突然割り込んできた。
「ごきげんよう、リカルド様。」
ラリエットが振り返る前に、その声の主はリカルドの横まで歩み寄っていた。体にぴたりと沿ったドレスが豊満な胸やきゅっとしぼられた腰を強調し、深めのスリットからはすらりと伸びた足がちらりとのぞく。腰まである茶色い緩やかなウェーブの髪をさらりとかき上げ、グレーの瞳と真っ赤な唇を笑みの形にしてリカルドに話しかけた。
「こちらでお茶の時間を過ごされているとお聞きしまして。私も参加させていただいてもよろしいですわよね。」
そして、すっと口元を扇で隠すと、『邪魔な子ウサギ。』とぼそりと呟いた。
-ウサギ族の耳の良さを知らないわけないはずだから、あれは、私にだけ聞かせるつもりよね。どう見ても、猛獣系よね。ほぼほぼ初対面の私を何でこんなに威嚇するのよぉ。
「では、私たちはこれで失礼しますので、どうぞご随意に。
・・・こちらにウルスラ様の席の用意を。」
明らかにリカルドに話しかけているにもかかわらず、リカルドは目線も合わせず、冷ややかな声で応じた。そして、そばで控えていた侍従を呼ぶと、今にもしなだれかかりそうなウルスラをするりと避けた。ウルスラとは反対側のラリエットの横へと移動し、エスコートのための手を差し出していた。前を見ると先ほどの冷ややかさを微塵も感じさせないリカルドの甘やかな微笑み、恐る恐る振り返るとウルスラのぎらりと光る瞳があり、ラリエットは震えあがった。
-こ、怖いから。本当に怖いから!!リカルド様も『招かざる者に何故権利があると思うのか、甚だ理解しがたい。』なんて独り言のふりして、ウルスラ様に聞こえるような声でいわないの!!何、この『前門の虎後門の狼』みたいな構図。私だって、断れるものならこんな猛獣の巣窟なんて来てないのに。
動揺するラリエットをよそに、リカルドはラリエットの手を取り立たせると、領主夫妻に軽く挨拶し、立ち去りだした。
「こんな子ウサギでは、お相手として満足できないのではないかしら。いろいろ足りなさそうですもの。あぁ、小動物って美味しそうですものね。」
「ラリエット。明日は私厳選のお菓子を用意しますからね。二人でお茶にしましょうね。」
ウルスラの憎々し気な呟きは、領主夫人の声と重なってしまったが、耳のよいラリエットにはばっちりと聞こえていた。ラリエットは恐怖に身の毛がよだち、小さくふるりと震えた。その横で、一瞬だけ目に剣呑な光をのぞかせたリカルドが、『しつこいオオカミだ。』とぽつりと漏らした。
-わーん。ホントにオオカミだった。
次で完結です!
連続(私の中の)投稿の予定です。
最後までお付き合いくださいませ。




