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もえび  作者: しょうの
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3.つづきのつぎは危険とともに

 トラ族はその特徴が色濃くなればなるほど、髪や瞳の色が金色となる。リカルドの父である現在の領主は、髪色はくすんだ金色に、瞳の色は赤味の強い黄色であるのに対し、リカルドは輝くような金色の髪に、金色こんじきを落としこんだような瞳をしていた。ただ、光の加減でほんのりと瞳に赤が差すことを除き、完全なるトラ族と言えた。そして、リカルドが自分の特異性に気が付いたのは、5歳になるかそこらの年の頃だった。それが、トラ族としての特徴を色濃くもつが故の事であることを、幼いリカルドは既に理解していた。類稀な身体能力、頭脳、そして美貌。しかし、リカルドは、自分の顔に何の感動も覚えてはおらず、周囲の秋波でそれと感じているくらいであり、自身の顔に興味すらなかった。顔だけではなく、リカルドは自身のもつものに何の感動も覚えず、興味もわかなかった。リカルドにとって全てが無味乾燥であり、退屈な日々となっていた。

 リカルドの両親である領主夫妻は、リカルドが血の盟約の5代目であることを非常に悔しがっていた。ここまでトラ族の能力が高まっているリカルドが領主一族の女性を娶れば、その子は、更に有能に違いないと考えたからだ。しかし、リカルドには分かっていた。自身とトラ族の女性との間に子ができた場合、高い確率で特異なるものとなるであろうことを。リカルドが理解している通り、リカルドの遺伝配列は、一つを除き全てトラ族の族性となっていたのだ。


 -当時の科学者というのは、なかなかに素晴らしい腕だな。5代毎というのも、確率で考えても、妥当だ。5代毎で他の種族の遺伝情報を取り込めば、最悪でも、私のような配列までしか揃いようがない。


 トラ族の血統を繋ぐために、婚姻が必須であること、そして、血の盟約に則りトラ族以外の女性を娶ること、これはリカルドに課せられたことであり、そのことに関して否やもなかったが、希望もなかった。領主が決めた相手と婚姻し子を成せば、それで終わること、リカルドにとっては、ただそれだけの事であった。


 リカルドは16歳を過ぎた頃から、トラ族だけではなく、他の種族のパーティーにも顔を出すようになった。顔つなぎのためだけに参加しているだけなのだが、パーティーでは、体をくねらせて色目を使う別種族の女性に囲まれることが多かった。リカルドが血の盟約の5代目であるため、別種族から女性を娶ることが分かっているからだ。中でも、しつこくつき纏うオオカミ族の女には苛立ちを感じるほどであった。婚姻相手は領主が決めればよいと考えていたが、苛立ちしか感じないような女性をあてがわれることを忌むべきことだ。リカルドは、初めて、領主に対し婚姻に関して『自身の決定に否やを言わない』よう要求した。違えた場合、血統を残さないと脅されては、領主も首肯するより他なかった。


 19歳になったばかりの時、その年のデビュタントのパーティーに参加したリカルドは、相変わらずしつこくつき纏うオオカミ族の女を避けていた。その女は今年がデビュタントの年であったようで、しきりにリカルドにエスコートやダンスを強請っていた。飲食のテーブル、壁際のソファ席等、場所を移してもすぐに近づいてくる女を避け、会場から少し離れた庭園へと足をのばした。両脇にリカルドの腰下くらいの花木が植わった細い道を抜けたところに、小さな噴水があった。その噴水のまわりに会場の料理が載った皿が何枚か並べてあるという、異様な光景にリカルドは目を見張った。


 「なんだこれは・・・・。」リカルドの理解を超えた光景に、思わず声が漏れる。ふと、先ほど通った細い道を振る返ると、こちらに向かって歩いてきているひょこひょこと動く頭が見えた。何とはなく、リカルドは近くの木陰に隠れてしまった。近づいてきた頭の主は、淡いピンク色の髪をしたとても小柄な少女であった。


 「うふふ。ご馳走たくさん持ってこれたわぁ。」


 少女は、目をキラキラとしながら、自身の手に持つ皿をさらに噴水のまわりに並べていた。この異様な光景は、この少女の仕業だった。

 ちょこんと自身も噴水の近くに座ると、バクバクと勢いよく、料理を食べだす少女に、リカルドは驚きを隠せなかった。


 -何をしているのだ。この少女は。・・・料理を食べていることは分かるが、ここで食べている意味が全く持って分からぬな。


 そんなリカルドの視線に全く気付いていない少女は、一口食べることに、「うーん、ソースが絶品!」「これは、口に入れると溶けちゃうぅ。もう少し持ってくればよかったな。お替りに行こうかしら?」「このお野菜しゃきしゃきだわ。でも、味もしっかりして。絶品!」と、幸せそうに呟いてた。

 これほどまでに思ったことが顔に出る者には今まで出会ったことがなかったリカルドは衝撃を受けた。表情はくるくる変わる上、心底幸せそうに料理を食する少女はからリカルドは目が離せなくなっていた。


 「ふわぁ。おなかいっぱい。・・・さってと、次はデザート、デザート。」


 お腹をぽんぽんと軽く叩きながら、うきうきとした様子で少女が立ち上がる。そして、いそいそと会場の方へと戻っていくのを見送りながら、リカルドはまだその場に立ちつくしたままでいた。


 -あのような女性を見たのは初めてだが、何だろうか、彼女を見ているとこちらまで、気分がよくなってくる。珍獣を見つけたからか?見ていて面白いからか?・・・裏表がないからであろうか?・・・デザートか。デザートを食べる姿も、きっと可愛いのだろうな。


 『くっくっくっ』とわずかに声が漏れ、リカルドはそんな自分に驚きを隠せなかった。


 -久しく笑いが漏れることなどなかったな・・・


 自身の変化について考えているうちに、遠くにひょこひょこと動く頭が見えてきた。そして少女が噴水前に辿りついた頃、少女が通った小道に、別の者の気配を感じた。ずっと少女の後をつけている者がいるようだが、先ほどより、近づいてきていた。

 少女は、持ってきた皿を並べると、幸せそうに『ふふふ。』と微笑んでいた。少女は器用にも3つの皿を持ってきており、いずれの皿にもたっぷりとケーキなどが載せられていた。


 ―あれを全て食べる気か・・・・。食べる姿は可愛いが、腹がはちきれるのではないか?


 リカルドの心配をよそに、少女はパクパクと食べ進んでいた。何度か口にデザートを入れたまま打ち震え、感動しているようであった。途中でほぅと一息つくと、独り言ちた。


 「飲み物が欲しいなぁ・・・・。でも、また行くのも面倒だし。食べ終わってから、最後にぐびっといくしかないかな。」


 その声に反応するかのように、細い道の方から声がした。


 「そうであろうと思いまして、紅茶をお持ちしました。姫様。」


 少女はびくりと、見ているリカルドが心配になるほど、狼狽えていた。細い道から現れたのは、小柄ではあるが、少女よりは背の高い女性であった。


 「アーニャ!どうしてここが分かったの!?というか、紅茶!?え!?」


 「落ち着いてくださいませ、姫様。私に知られずに行動できていると考えてしまう姫様の能天気なところはおいておくとして、なぜこのようなところでお食事をされているのですか?」


 「もしかして、アーニャ。ずっと見てたの?」


 「えぇ、はじめのお皿を運ぶところからずっと後をついておりました。」


 少女は軽く衝撃を受けたように固まったかと思うと、ふるふるっと頭を振ってから話し出した。


 「・・・だって、いつもの周りから陰になるソファ席のところまで、猛獣の方たちが占拠してて、こっそり食事できる場所が見つからなかったのだもの。でも、美味しそうなものばかりでしょう。食べずに帰るなんてことしたら、きっと、夢に見て、悔しくて泣いちゃうわ。」


 「それにしても、何往復もしてこれほど運ぶっていうのはどうかと思いますが。目立ちますよ。」


 少女は、うふふんと自慢げに笑い、少しばかり胸を反らしていた。


 「そのあたりはばっちりよ!ウサギ族の危険感知能力をもってすれば、目立たないように、こっそりとこれだけ用意するのなんて、簡単なことだわ。誰にも見つかってないもん!」


 「・・・・私に後をつけられていても気がついていない時点で終わっていることに気が付いて欲しいですが、まぁ、いいでしょう。

 とにかく、さくっと食べて紅茶でしめて、会場に戻りますよ。ランバート様が姫様の姿が見えないと心配されてます。」


 「お兄様が?」


 少女は、むぐむぐとデザートを頬張り、急いで紅茶を飲んでいた。ふぅと一息つくと、急いでお皿を重ねて、周りを片付けだした。アーニャと呼ばれていた女性が大半のお皿を持ち、二人は会場へと戻っていった。


 -ウサギ族、姫様、ランバート、お兄様・・・・。確かウサギ族の領主の子息の一人にランバートという名の者がいたな。ということは、少女はウサギ族の領主の娘か?


 二人の姿が見えなくなったことを確認し、リカルドは今後の自身の行動を考えながら、会場へと戻る道をゆったりと歩いて戻ったのだった。



 リカルドにされるがまま腕に手をちょこんとかけているラリエットを見下ろし、リカルドは心の底から湧き上がる歓喜が隠し切れなかった。

 生まれて初めて興味がわき、心が動かされた少女が、自身の婚約者として横にいる。『これほどの僥倖があろうか。』とラリエットを見つめる目に熱がこもる。

 リカルドの指示でラリエット達の荷物を運ぶ下働きの手配などを終えたレイモンドは、早足でリカルドに追いついてきた。いつも無表情のリカルドが先ほどからずっと微笑みの安売り状態であるのを目の当たりにして、「おぉ、こわっ。」とひとり呟いていた。


 リカルドはラリエットを応接室に案内すると、扉から遠い長手のソファへといざなった。そして、自身もその隣へと腰掛ける。ラリエットの『ひぃぃ。』という心の声が聞こえそうな表情に、笑いがこみ上げそうになっていた。


 -相変わらず心の声が顔に出てしまうほどの感情の豊かさ。可愛いことだ。


 「ラリエット姫。到着したばかりでお疲れでしょうから、本日の晩餐と明日の朝食は私と二人きりとなるようにしました。私の両親であるトラ族の領主夫妻は、明日のお茶の時間に紹介させてくださいね。そして夕方からパーティーが開催される予定です。

 ところで、後、半刻もすると、晩餐の時間となるのですが、甘いお菓子でお疲れを癒されるのはどうでしょうか?もちろん晩餐の後にも、トラ族領主城の料理人渾身のデザートを用意しておりますよ。」


 リカルドの話を聞きながら、青ざめたり、ほわぁと顔をほころばせたりと、ラリエットの表情の変化は忙しない。


 -『私と二人きり』のところで青ざめてていたようだな。さて、彼女のこの私に対する怯えをどう解消していくか。今のところは、猛獣だということで全てが恐怖の対象となっているように見受けられる。


 そばに控えているレイモンドが、何度も顔を背けながら笑いをかみ殺しているのがリカルドの目の端に映っていた。睨みつけようとしたその時、扉が軽くノックされた。


 「はいれ。」


 リカルドの言葉を待って、扉が開くと、侍女に案内されたアーニャが部屋へと通されてきた。アーニャを見つけると、ラリエットは心底安心したようにほぅと息をついていた。そして、はっとしたように、恐る恐るリカルドの方を振り返る。ラリエットと視線が合ったタイミングで、微笑みを向けると、ラリエットの頬に赤味がさす。


 -ふむ。なかなかいい反応か?猛獣は怖いが、微笑めば、少しは好意を持ってもらえそうな感触か。


 「あの・・・・甘いお菓子って、どんなものがあるのですか。」


 話し出しは、おずおずとしていたが、お菓子を期待して瞳がきらきら光るラリエットを見ていると、リカルドは更に愛しさがこみあげてきた。


 -全くこの少女は、どれだけ私を惹きつければ気が済むのか。いや、このままずっと惹きつけられて、ずぶずぶと彼女に溺れていくのやも知れないな。


 「すぐにご準備しましょう。

 菓子と茶の準備を。」


 部屋に控えていた侍女達が即座に準備にと動いた。

 準備が整うと、リカルドは、手振りで侍女たちを退室させた。部屋にはリカルドとラリエット、そしてそれぞれの側にレイモンドとアーニャが控えているだけとなった。

 準備された菓子を見ているラリエットの瞳はきらきらと輝いていた。




 晩餐前のお菓子をたっぷりと美味しく頂いた後、ラリエットは晩餐にも舌鼓を打っていた。『な、何!?このお料理。絶妙なソースに、ほわりと蕩けるお肉に、香草で風味のついたお魚。絶品よ!絶品!!』

 猛獣と言われる肉食獣とラリエットのような小型の草食獣では、普通、食生活から文化まで異なる。そのようなこともあり、種族間の交流は、肉食獣と草食獣の垣根を超えることは少ない。但し、獣人は人として過ごすことが多くなるうち、ラリエットのように草食獣の種族であるにもかかわらず、肉も、魚も何でも食べる。ただ、元が草食獣だからか、肉食獣が好むと言われている血が滴るようなレアなステーキとかはさすがに受け付けない。しかし、この晩餐は、ラリエットが好む調理方法ばかりなのだ。

 満足気にお腹に手を当ててから、ラリエットは、はっと気が付き、顔を上げた。


 -私ったら、お料理に気をとられて、全く、リカルド様のこと気にしてなかった!はっきり言って、黙々と料理を食べていて、会話の一つもしていないっっ!


 顔を上げた先に見えたリカルドは、相変わらずの艶やかな微笑みでじっとラリエットを見ていた。


 「ご満足いただけたようで、何よりです。この後のデザートもきっとお気に召すと思いますよ。」


 リカルドの言葉が合図となったのか、いろいろの種類のケーキ、焼き菓子、ジュレが飾り付けられたデザートプレートと甘い香りの紅茶がラリエットの前に給仕された。リカルドの前のデザートプレートは、小さな焼き菓子とジュレのみであった。

 ラリエットは、自身の皿とリカルドの皿を何度も見比べてしまった。そんなラリエットの様子を眺めていたリカルドは、甘く蕩けそうな微笑みを湛えた。


 「私はあまり菓子を食さないのです。でも、菓子を食すラリエット姫を見ているのは好きですよ。」


 ぷしゅぅぅぅと音が聞こえる勢いで顔を真っ赤に染めたラリエットは、思わずテーブルに突っ伏しそうになるところをぐっと堪えた。


 -あ、甘い!そして、色気駄々洩れ!!何、この状況。というか、リカルド様と私って初対面よね。なんで、私がお菓子好きって知ってるの!?えぇぇぇ。


 『落ち着かねば。』とふぅと一息吐いてから、リカルドをもう一度見たラリエットは、給仕達や侍女達が既に退室していることに気が付いた。ここにいるのは、リカルド、ラリエットの二人だけとなっていた。アーニャですら退室していることに気が付かなかったとは・・・

 そして、今回心に決めていたことを思い出す。血の盟約による婚姻の申し入れは、ウサギ族からは断れない。だが、申し入れをしたトラ族が撤回することはできる。つまり、リカルドに、『こんな子だと思ってなかった、婚姻を撤回したい。』と思わせればよいのだ。


 -わざわざウサギ族に婚姻の申し入れをすると言うことは、きっと、慎ましいとか考えているに違いないわ。ウサギ族の領主夫妻ですらそんな高い衣装でパーティーに出ることもないのだから、それくらいのものを与えればいいと思っているに違いないわ。もしかして、食べたいとか・・・・だったとしても、美味しくないってことをアピールしておかないと!


 このタイミングを逃せば、いつ話をすることができるかはわからない。テーブルの下でぎゅっと手を握ると、ラリエットは、自分の中では一番高慢に見えると思える顔をして背を少し反らせた。


 「お菓子だけじゃ、私の欲求は満たせない・・・ことよ。私は、とっても欲張りで、わがままで・・・・あとは、えーっとですね。食い意地が張っているんですのよ。」


 虚勢を張った割に、着地点がしょぼくなってしまったが、気にせずラリエットはふんぞり返っていた。ただ、ふんぞり返っている割に体が小刻みに震えていて、なんともしまらないのではあるが。リカルドは、目をぱちぱちしてから、面白そうに笑って、ラリエットの言葉を続けさせた。


 「なるほど、なるほど。欲張りで、わがままですか。・・・して、ラリエット姫はどのような望みをお持ちですか?」


 「お出かけいっぱいして、お買い物もいっぱいして。それに、それに、ウサギ族の領地には頻繁に、それこそ、毎月のように行きたいです!」


 どうだ!という顔をしたラリエットを相変わらずの微笑みでリカルドは見返した。


 「もちろんよいですよ。ラリエット姫の望むままに。あぁ、でも、領地に頻繁に戻られているときに何かあっては心配なので、私ももちろんご一緒させてください。」


 「ご一緒・・・。あ、・・・で、でも、ここからウサギ族の領地に行くまでの道はすごく悪いんですよ。がったんごっとんとすごくて、私の体が浮き上がっちゃうくらいで、もう、大変なんだから。」


 「確かに。今までは交易がなかったから街道整備をしていませんでしたね。これは申し訳ないことをしました。・・・ふむ、早急に街道整備をはじめるとしましょう。ラリエット姫の往復が楽になるよう、転移陣を設置するのもよいかもしれませんね。」


 ぐぅ。となったラリエットが可愛く、リカルドは笑いが止まらない。必死になっているラリエットは、リカルドが笑っていることにも気が付いていない。


 「そ、それだけじゃありません・・・ことよ!私は・・・お金がかかるです・・・のよ!宝石もドレスもいっぱい、いぃっぱい欲しいって言うし。一度つけたら、同じものなんてつけられません・・・ことよ!」


 「それはもっともなお望みですね。明日の朝食後に商人を手配していたのですが、ちょっと遅かったですね。気配り足りず、申し訳ないことです。お詫びも兼ねておりますので、明日は、好きなものをたくさん選ぶとよいですよ。母が贔屓にしている服飾店も併せて呼んでおきましょうか。ドレスもたくさん注文しましょうね。」


 「え、手配済み!?・・・・そんないっぱいは・・・勿体無いです・・・。」


 「ラリエット姫を美しく彩れるのであれば、勿体ないことなどありませんよ。それに、私財の範囲ですから、誰にも否やは言わせませんよ。」


 しゅーんとしたかと思うと『くぅ。お金持ちめ!』と心の声が漏れているラリエットを見ることが、リカルドには楽しくて仕方なかった。すると、ラリエットは、ツーンとそっぽを向いた。


 「わ・・・私には、トラ族のドレスは似合わないです・・・わよ!仕立ては、ウサギ族でなければ。」


 『あんなセクシーなドレス無理に決まってるじゃない。私が着たら、ずりずりのだらだらよ。それにしても、猛獣の獣人族ってみんな色気がすごいんだもの。ふ、不公平だわ。』と心の中でラリエットはぷんすこ怒っていた。


 「確かに、ラリエット姫の愛らしさ生かすにはトラ族のドレスでは役立たずだな。・・ふむ。夜中に領界に転移陣を敷設させましょうか・・・さすれば、明日、一度、ウサギ族の領地に赴き、仕立て屋を連れてくることも可能かもしれませんね。」


 そっぽを向いていたラリエットは、ばっとリカルドの方に振り返った。『えぇ!そんな猛獣の領地に連れてきたら、恐怖で仕立て屋さん死んじゃうかもしれない。ウサギのナイーブさをなめんなよ!心臓バクバクしすぎて、死んじゃうことだってあるんだから。』と、ラリエットは、慌てていた。


 「しかし、今後のことを考えると、トラ族の領地で店舗を構えてもらうことも必要ですね。やはり、転移陣や街道の整備は急ぐ必要がありますね。今からでもすぐに計画書を出して開始しましょう。」


 リカルドはポンと手を打つと、席を外していたレイモンドが部屋へと戻ってきた。レイモンドにリカルドが指示を出すのをラリエットは茫然と見ていた。


 そしてラリエットは、婚姻の撤回を手に入れるどころか、なぜか、トラ族とウサギ族の街道整備と交易を手に入れたのだった。なんとも、よくわからない状況に陥ったラリエットだった。

 後日談ではあるが、ラリエットは、父である領主からこの外交手腕を大層褒められた。おかしい・・・


次で完結します。

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