第8話 友達の作り方case2
スマホの呼び出し音が鳴る。
部屋のカーテンを開けた。向の育の部屋のカーテンは閉まっていた。
電話に出る。
「どうした、育?」
『玄関にいるから開けて』
チャイム鳴らせよ。でもピンポンダッシュはやめろよ。
玄関の扉を開けるの。
育があからさまに落ち込んだ顔でうつ向いて突っ立っていた。制服のままで、通勤用のデイバックを持っていた。
「入れよ」
彼女は立ちすくんだままだ。
「どうしたの?」ほんと、どうしたんだ? 玄関で突っ立ってられても困る。
「友達とカフェ行ってきた」
「うん」
「……」
「楽しくなかったの?」
「楽しかった」
「……」
いや、楽しかったなら良いじゃないか?
何が言いたいのかわからん。
「公太……」
「ん?」
「彼女さん……」
「?」
「別れろ」
「は?」
「私と付き合ってるのに二股とか、許せない」
「いや、付き合ってない」
「お嫁さんにしてくれるって言った」
「幼稚園児に契約能力無いから無効だろ」
「そんな話じゃない」
「うん、そんな話じゃ無いな」
育はそんな話をしたいのじゃないだろう。
何か飲み物を出すためにキッチンに通す。
「何か飲むか?」
「お菓子食べたい」
「チョコレートとか?」
「なんか作って」
えー。
めんどくさいときのホットケーキミックスでチョコレートケーキを作る。
自分で食べるときはこんなに甘くしないよな、てぐらい甘くしておいた。
紅茶もポットで淹れた。
「ほら、食べろ」
「ありがとう」
「おかわりもあるぞ」
しばらく育は大人しくケーキを食べていた。
二つ食べた後、やっと落ち着きを取り戻したようだ。
「公太、今日のパシリくん。お金払ったの?」
「買いに行って貰っただけだからな」当然払った。
「まわりくどいやり方よね」
「手間をかけたくない」
「彼女さんが侮辱されたときは、躊躇無く殴ってたよね」
「彼女だからね」
「何で彼女さんを守ってるの?」
「彼女だから」
「何で彼女さんを守る事になったの? 彼女だから、以外で答えて」
「……、言いたくない」
「言えないこと?」
「……、胸くそ悪いから話したくない」
「……」
「そう言うことだ」
たまちゃんに呼び出された。
「いくちゃん、おまたせ!」
放課後の駅前。
たまちゃんは工業高校の制服のままだ。私も制服のまま来ている。
「来てくれてありがとう、いくちゃん!」
「……公太に言われた?」
「うん!」
隠さないんだ。
公太の家で泣き言を言った、次の日。早速たまちゃんに呼び出された。
まあ、そう言うことだよね。
「こうたくんが、女の子同士で遊んであげてって」
「むぅ。自分はめんどくさがってるだけよね」
「まあ、いいじゃない」
カフェ行って、ゲームセンター行って、カラオケ行って、もう現実逃避もいいとこ。
たまちゃんはずっと笑っていた。
「公太の彼女って、会ったことある?」
「ない!」
「ホントに付き合ってるのかな?」
なんか嘘っぽいと思っている。いや、希望とかじゃない。
「知らない。会ったことないし」
「彼女を守るために、付き合ってるフリしてるとか?」
「そうかも!」
「そうよね!」
「違うかも!」
どっちよ。たまちゃんなんで楽しそうなの?
「こうたくん、ケンカ弱いからね」
「え?」話が飛びすぎ。
「誰彼かまわずケンカ売れない」
「だから彼女を守る事に集中してるって事?」
「知らない!」
なんていい加減な……。
「公太、ケンカ強そうだけど?」
「んー、一度に2、3人しか相手できない」
「十分強いでしょ?!」
「かずくんならもっと相手できるよ?」
頭良い上に、ケンカも強いのか、かずくん!
カラオケ終わって街に出る。もう外は暗くなっている。遊びすぎた。
暗くなってから女の子だけで繁華街を徘徊するのはやめた方がいいよね。
変なのに絡まれたりするから。
「ねえねえ、君たち、可愛いね。俺たちとカラオケ行かない?」
こんな風にね。
なんかガラの悪そうなのが三人。
「カラオケ行ってきた帰りだから、いいかなー」たまちゃんが軽くあしらう。
私はちょっと怖いかな。
「いいじゃん」
腕を捕まれた。
ノータイムでたまちゃんが、私をつかんでいる男の手をはたく。
「おさわり禁止!」
「何しやがる、こらぁ!」手を叩かれた男が、激昂して、たまちゃんの髪の毛をつかむ。
たまちゃんは平然とつかんできた手を自分の頭に押さえつける。そして手首をホールドして関節技をかけた。
男が間接に逆らえず膝をつく。
たまちゃんは何のためらいもなく膝蹴りを顔面に入れる。男が耐え切れず髪の毛をつかんでいた手を離すまで、何度も膝蹴りを入れる。
「おい、やめろ!」別の男がたまちゃんの手をつかむ。
少し遅かった。最初の男は耐え切れずに手を離した。たまちゃんはフリーになった。
信じられない。
あっという間に三人の男が地べたに這いつくばる。
たまちゃんは、にこにこしたまま倒れてる男を蹴り続ける。
「たまちゃん! もうやめて!」
私は怖くなって叫んでいた。男たちに同情した訳じゃない。
純粋な暴力に恐怖していた。
「親分がやめろって言うからやめるね!」
たまちゃんは私を見て微笑んだ。
これって、私が始めた事なの……?
読んでくれてありがとうございます。
戦闘シーン自重した。