第6話 新学期DAY2 after & 週末
俺が帰宅して部屋に入るとすぐに電話がかかってきた。
カーテンと窓を開ける。
向の部屋から育がこっちを見ていた。
「お帰り、公太」
「ただいま、育」
「そっち行っていい?」
「玄関からな。鍵開いているから。入ったら鍵しめろよ」
「わかった」育が窓から離れる。
どうせ来ると思ってたから、玄関の鍵は開けておいた。
今のうちに部屋着に着替える。
ベッドをイスがわりに座って待っていた。
「来たよー」扉を無造作に開けて育が入ってくる。当たり前のようにベッドに寝転んだ。
「遅かったね」
「寄り道してたからな」
「毎日寄り道してるの?」
「ああ」
彼女はベッドの上に座ると、後ろから首に抱きついてきた。いや、首を絞めてきた。
「おい」
「公太ー。今日、何でにらんできたのさ!」お怒りのようだ。
「にらんでないよ。余計なこと言うなって、目でお願いしていただけだろ」
「余計なことって何?」
「俺と知り合いって事」
「むぅ」
「苦しいから離れろ」
彼女は首から離れて、再びベッドに寝転んだ。
「知り合いじゃない。彼氏彼女でしょ?」
「いや、付き合ってないから」
幼稚園児の口約束とは言え、申し訳ない。
「せめて友達と言って」
「ごめんって」
「学校で友達って言っていい?」
「やめろ。色々とめんどくさい」
「むぅ」
「ほら、機嫌直して。何かして遊ぶか?」
「おやつ食べたい」
「一緒におやつ作るか?」
「作る」
台所に降りて、台所を漁る、ホットケーキミックスがあったので、チーズケーキを作った。
一緒に作ると言ったが、彼女は隣で見ていただけだ。
「公太、お菓子作れるんだ?」
「育は作れないのか?」
「作れるよ」
「じゃあ、今度作って」
「……今度ね」
作れないのか? めんどくさがってるだけか?
紅茶を淹れてティータイム。
「明日、T中カラーギャング集合ね」
彼女がチーズケーキを食べながらそう言った。明日は土曜日だ。
「……何それ?」
「とぼけるな」
「いや、知らん」
「公太が中学校でチーマーやってたって聞いたよ?」
「そんな変な名前つけるな」
「呼び出しといて」
「育が呼び出せよ」
「なんで私が?」
「親分だろ」
「……はあ?」
土曜日の昼下がり。小学生のときにいつも遊んでいた町内の公園に集合した。
かずくん、けいくん、たまちゃん、それに俺と育。
「何? 毎週週末は集会するの?」たまちゃんが楽しそうに言った。
「集会言うな」けいくんが突っ込む。
「それより、何すんの?」がずくんが当然の疑問を提示した。
「だるまさんが転んだ!」たまちゃんが提案した。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」即座に承認されて、かずくんの合図でじゃんけんする。
負けたのは育だった。
「育、よっわ」俺が笑ってからかう。
「もー!」彼女は地団駄を踏んだ。
「ちょっと待って!」
育が遊びを止める。
「こんなことで集まったんじゃないの!」
いや、だるまさんが転んだ3セットやってから何言ってんだ?
「私はみんなに話があんの!」
「……じゃあ、菓子パにするか」かずくんが言って、みんなでコンビニに買い出し。
途中俺は家に戻ってレジャーシートをとってくる。
公園の木陰にレジャーシートを広げた。
「カンパーイ」紙コップについだコーラで乾杯する。
車座の真ん中には大量のジャンクなお菓子が広げられていた。
わいわいとお菓子を食べる。
「ちっがーう!」育が叫んだ。
みんなが驚いて育を見る。
「私は転校してからの事を聞きたかったの!」
「……何? 特に変わったことなかったよな? いくちゃんがいなくなっても続けていたよ?」けいくんが当たり前と言った感じで言った。
「高校に入ってからは、みんな学校が違うからバラバラでやってたけどね」かずくんが仕方ないよね、って顔をする。
「私とけいくんは一緒の学校だけどね」たまちゃんとけいくんは一緒のM工業高校だ。
「ねえ、何を続けていたの?」育がそれを教えろって感じでちょっとイラついている。
「だから、正義の味方、ごっこ? だろ」かずくんが、ごっこ、って言った。
うん、ごっこだね。
「……え? 何それ?」
「覚えてないか?」
「育は物忘れが激しい」おバカだからな。
「学校でいじめがあったとき、いくちゃんが激怒していじめられてた子をかばって、いじめてたやつとケンカしたんじゃないか」
「そうそう、それで俺たちがいくちゃんに加勢してクラス全員しめた」けいくんも補足する。
懐かしいな。
「……」育が固まっている。
覚えてないのか?
「いくちゃんが転校してからは、僕が親分代行で活動を継続したんだよ」
そう、かずくんは頭良かったからリーダー向きだった。
「待って、私が転校して、かずくんが親分代行って……」
かずくんが代行なのが不服か?
「まるで、それまでは私が親分だったみたいじゃない?!」
「いや、親分だろ。みたいじゃなくて」俺は育の突っ込み係か?
「中学になってからはよその不良ともケンカしまくってたよね」
「……、待って、私が聞いたのは、なにもしてない普通の子も殴られたって……」育が真っ青な顔をしている。
「何もしてない、ね……」かずくんはうんざりしたような顔をする。「いじめてた奴って、いじってただけとか言うよね」
育は呆然としている。顔色悪いな。
「今もその活動やってるの……?」
「学校違うから別々にね」
「……公太も?」
俺はうなずく。
「……私が始めたの?」
その質問にもうなずく。
「私、転校してから、ケンカなんかした事無いよ?」
「いくちゃん、私たちの中じゃ一番ケンカ弱かったからね」たまちゃんが面白そうに、「なのに一番威張ってたから親分だったよね」と言った。
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