第53話 秋山と鈴原act2
放課後、私は由紀ちゃん達と鈴原を誘って遊びに行った。
最近一緒にお昼ごはんを食べる美少女5人組で。もちろん一番の美少女は私だ。
鈴原を誘ったとき、公太ににらまれた。鈴原は戸惑いながらも私の誘いを受けた。
公太が寂しそうな目で鈴原を見ていたのには罪悪感を覚えた。そんな私を由紀ちゃんが不機嫌そうに見ていたけど、彼女は何も言わなかった。
私はもう立ち止まるつもりはない。
公太は鈴原を救えないことに傷ついて泣いていた。だから私が鈴原を救う。公太のために。
公太が背負っているものから解放してあげる。その事で私が公太から恨まれても構わない。
私が公太に、鈴原の事は私に任せて、と言ったのだ。
公太との約束は守る。
みんなでショップを冷やかしてゲームセンターに行ってファーストフードでお茶をした。
思い付く限りの普通の高校生の放課後。
私は積極的に鈴原に絡みに行く。
彼女はあまり喋らないけど。
由紀ちゃんが呆れた顔で私を見てくる。三和ちゃんと浩子ちゃんは鈴原との距離がつかめずに戸惑っていた。
夕方解散した。由紀ちゃん達と別れてから、鈴原を家まで送っていく。
「鈴原さん、楽しかった?」
「……はい」鈴原は私を見ずに返事をした。
「良かった! 明日も遊びに行こ!」私は嬉しそうに笑って見せた。
鈴原の返事を額面通りに受け取っておく。
「休みの日とか何してるの?」
「……特には……。本を読んだり……」
「そうなんだ。ねえ、今度の休みは私と遊ぼ!」
「え……」
「友達だもんね! もっと鈴原さんと仲良くなりたいな」私は彼女の手をとって笑いかける。
「あ……はい」
トモダチダカラネ。
夜の街を歩く。鈴原を送っていったあと、駅前に寄った。単に人通りの多い道を選んだだけだ。
仕事帰りの人たちに混じって学校の制服を着た人達も多かった。近くに大手の学習塾がある。塾帰りの学生か。
「いくちゃん」声をかけられた。
かずくんだった。
「今日は一人?」
「うん。かずくんは塾終わったとこ?」
「そう」
かずくんはM高の制服を着ていた。そう言えば周りもM高の制服を着た人が多い。
「今から帰り?」
「いや、巡回中」
「何それ?」
「うちの高校、いいとこの子が多いから小銭持ってるからね」
ああ、そう言う事。
「いつもそんな事してるの?」
「してるよ? 役に立つよ? こないだもいくちゃん、助けられたしね」
前に由紀ちゃん達といたときに、強引なナンパで拉致られかけたときか。
急いで帰る用事もないのでかずくんとぶらぶら街を歩く。
「たまちゃん、遊んであげなくていいの?」
「遊んでるって」
「こんなところでぶらぶらしてるのに?」
「そう言う、いくちゃんは?」
「デートしてたよ?」
「? こうたくんはどこ?」
「……鈴原と」
「……え?」
「……何か変?」
「いや。いくちゃんがする事に文句なんか無いよ」
「文句あるんじゃん」
「無いよ。凡人に理解できない何かがあるんだろ?」
「公太の負担を減らすために、私が代わりに鈴原を愛してあげるだけ」
「うん。さっぱりわからないや」
「何でわからないの?」
「何でわかると思うのかがわからない」
「やっぱり文句あるんじゃん」
「無いって。いくちゃんがする事に僕がケチつける事はないよ」
「……私の事何だと思ってるの?」
「いくちゃんだろ?」
幼馴染みの私への信頼が重いんだけど……。
「こうたくんがそれで納得するとは思わないけどね」
そうだろうね。
「後、たまちゃんも……」かずくんが話を続けようとしたところで彼のスマホの着信音に邪魔された。
かずくんは話の途中に関わらず、即座に応答する。
「山下だ。……場所は?……すぐ行く」それだけ言うとすぐに通話を切った。
「いくちゃん、ついてきてくれる?」
かずくんは軽い感じでそう言ったが、私の返事も聞かずにいきなり走り出した。
また、これか!
公太にも前にこれをやられたな。春ちゃんの事件のとき。
かずくんは速度を落とさず人ごみを縫って走る。
公太もそうだけど、かずくんも足が速くなったんだね。
昔は私が一番速かったのに……。
街灯の灯りが届かない路地裏に飛び込む。
予想どおりの現場だった。
かずくんと同じM高の制服を着た男子生徒が一人、5人の柄の悪い男達に囲まれていた。
高校生よりは年上か?
ヤンキーというよりは、半グレか……。
「おい、うちの生徒に何の用だ」かずくんが男達の数歩前で立ち止まる。
追い付いた私はかずくんの後ろに立つ。
かずくんに置いていかれないように、全力で走ったので肩で息をしている。
かずくんはすでに呼吸を落ち着かせていた。
「ぁあーっ!? ガリ勉くん、お前も俺達に奢ってくれるのかぁ?!」
かつあげね。
「貸したお金の取り立てだよ。そいつから巻き上げた金、今すぐ返せ」かずくんは楽しそうにそう言った。
「ぁあー?! なめてんのかぁ?!」
絡まれていた男子生徒に一人残して、後の四人がこっちに来る。
囲まれていた男子生徒は助かったと確信したのか、ホッとした表情でかずくんを見ている。
「持ってて」かずくんが背負っていたバックを私に渡す。そして、「あの子、保護してあげて」と言った。
え? 私が?
かずくんは私の返事を待たずに歩を進める。
いや、何で幼馴染み達は私が誰かを守れると思うかな?
公太も、由紀ちゃんや、停学中は鈴原を私に守らせようとしたし……。今回はかずくんが私に男子生徒を助ける役目を押し付けてくるし!
幼馴染み達の私への評価が高すぎるんですけど?!
「おい!」半グレの一人が驚いたように立ち止まる。
つられて後の三人が声をあげた男を振り反る。
「こいつ、T中カラーギャングの山下じゃねーか!?」
後の三人が驚いて再度かずくんに振り返る。
そのときにはかずくんは走って一気に距離を詰めていた。
一番手近の男を殴り倒す。
私も遅れて走り出す。かずくんが相手している四人の半グレの脇をすり抜け、一気に保護対象の男子生徒に近づく。
走ってきた勢いでかずくんから預かったカバンをハンマーのように振って、男子生徒を捕まえていた半グレの顔にぶつける。
かずくんのカバンは結構重たくって、半グレはそれだけで吹き飛んだ。
男子学生の手をつかんで私の背にかばう。
そのときにはかずくんが相手していた四人の半グレは地べたに這いつくばっていた。
流石かずくん、一瞬だね。
半グレ相手に呆れる強さだ……。公太が学校で、なんちゃってヤンキーを相手にしてるのとは訳が違う。
かずくんは平然と私たちのところまで歩いて来た。
「ねえ、いくら取られた?」かずくんば男子生徒に尋ねる。
「まだ取られてなかったです」
「ふーん。今まででいくら取られた?」
「……1万ちょっと……」
結構取られたことあるんだね。
かずくんは振り返って、転がっている半グレの一人に蹴りを入れた
「おい、こいつが貸した2万円返してよ」
「え?……、こいつからは取ってない……」うずくまっている半グレはびびりながらも言い返す。
かずくんはもう一度蹴りを入れた。
「借りた金は返さないとダメだろ」
半グレは震えながら財布を差し出す。
かずくんは財布を受け取ったがチェーンがベルト通しと繋がっていた。チェーンが繋がっている腰の辺りを蹴りながら、チェーンを引きちぎる。
財布の中から札を抜いて、財布を捨てた。
「1万2千ね……。足りないな」
かずくんは少しはなれたところに転がっている半グレを蹴飛ばした。
「後1万足りない」
蹴られたやつが財布を差し出す。
中から1万円札を抜き出して財布を捨てる。
「はい、返してもらったから」
かずくんは抜き取った全額を男子学生に渡した。
「こんなに取られてない……」
「利子だろ?」
どっちがかつあげしてたのか解らない。
カラーギャングと言われるわけだ……。
男子学生を帰してから、転がっているやつらを捨てて表通りに戻る。
M高の制服を着た男子学生二人が近づいてきた。
「山下くん、ありがとう」
「うん、僕こそありがとう。また何かあったら電話してね」
かずくんはにこやかに二人にお礼を言った。
多分この二人がかずくんに電話をしたのだろう。
二人と別れてから、かずくんは手を出してきた。
「カバン持ってもらってありがとう」
「あ、カバンで殴っちゃった」
「いいよ」かずくんは面白そうに笑う。
二人で帰路につく。
「どうして私を連れてったの?」私じゃケンカの役に立たない。
「ああ。女の子がいると正当防衛が認められやすい。女の子を置いて逃げれなかった、と言えるから」
私をだしにしたのか……。
「あの男子も助けてもらうの手伝ってもらったしね」
「いやいや、何で私がケンカの役に立つと思ったのかな?」
「だって、いくちゃんだろ?」
何でそう思うのかな!
「実際、役に立ってたよね」
たまたまだよ!
家が同じ町内なので一緒に帰った。
そう言えば電話で呼び出される前に何か話をしていたような?
何だったかな?
読んでくれてありがとうございます。




