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第48話 宮野と鈴原peace1

 

 公太が停学から復帰した。

 実際公太は停学中にバイクで旅行に行っていただけだ。


 公太と鈴原が朝の教室に入ってくる。

 微妙な空気になった。


 文化祭で公太の評価は改善した。せっかく改善した矢先の停学だった。


 無抵抗な生徒を6人、無言で砂にした。

 それだけが広まった。


 公太は怖いけどケンカを売らない限り手を出さない。そう言う評価に変わりつつあったのに。


 事実じゃない。確かに鹿島達は公太にケンカを売っていない。でも公太は誰かのためにケンカをする方が圧倒的に多い。

 それと鹿島達は無抵抗だったとは思えない。公太が強すぎて抵抗できなかっただけだ。


 公太は微妙な空気の教室を無頓着に横切り、鈴原の席まで彼女を送り届ける。


「おはよー、公太くん」いつものように由紀ちゃんが挨拶する。

「おう」公太もいつものようにえらそーに挨拶を返す。

 文化祭前と同じいつもの朝の一幕。

 由紀ちゃん以外の誰も公太に話しかけない。


 加藤達も困惑した表情で公太を見ているが、話しかけることはなかった。

 加藤達は公太のケンカの理由を知らない。公太が加藤達を守るためにケンカをしたことを知ったら、態度は変わるだろうか?

 良くも悪くも変わる。公太はそう思っているから、沈黙を守る。

 物理的に守るだけじゃなくて、加藤達の自尊心も守りたいのだ。公太は。


 本当の事を言いたい!

 公太が誰かを守るために孤立するなんて我慢できない。

 公太が可哀想過ぎる!


 私は公太達のところに行く。

「鈴原さん、おはよう」

「……おはようございます」

 鈴原と他愛ない雑談をする。それこそ天気の話題から。

 公太のやり方ではいつまでたっても、鈴原は公太から自立できない。



 昼休み。鈴原も含めて5人で昼食を取るのが恒例になっている。

 公太がどこかに消えてしまうのも恒例だ。


「ねえ、鈴原さん。公太と付き合うようになったきっかけって何? どっちから告白したの?」食事が終わった頃合いに、私は恋ばなを装って鈴原に訊ねる。いや、恋ばなで間違ってないけど。

 鈴原は固まる。コミュ障の鈴原が話しかけられて固まるのはいつもの事だけど、顔を青くする。


 照れるのじゃなくて青くなるのか。


「育ちゃん」由紀ちゃんが口を挟む。静かな口ぶりだけど明らかに顔を青ざめさせている。

 触れては行けない話題なんだろう。


 わかってて話題にした。

 いつまでも私を除け者にしないで。


「鈴原さん、プライベートな話題だから無理に答えなくていいよ」由紀ちゃんが青ざめた鈴原に助け船を出す。そう言った由紀ちゃんも青ざめていた。


 かつて由紀ちゃんはいじめられていたところを公太に助けてもらった。

 由紀ちゃんの公太への好意は、過去のトラウマとセットだ。


 由紀ちゃんの前ではこの話題は失敗だった。

 私は話題を変えた。


 ごめんね、由紀ちゃん。

 私も余裕ないんだよ……。




 私は余裕がない。だから幼馴染みに愚痴を言っても良いよね。

「いくちゃんも好きな人の事になると途端に可愛くなるよね」けいくんがからかってるような口ぶりで言った。

 揶揄するつもりは微塵もないのはわかる。場が深刻にならないように気を遣ってもらってるんだ。


 放課後、けいくんの家のガレージ。幼馴染み達に集合をかけた。

 公太だけが鈴原を家に送るため寄り道しているのでいない。公太に聞かせたくないので呼んでもいない。


「いくちゃんはこうたくんの事になると、小学生のときから乙女だよ?」たまちゃんが答える。

 たまちゃんはからかってるわけでも気を遣っているわけでもなく、素で思ったことを言っただけだろう。


「いくちゃんはどうしたいのさ?」かずくんが言った。かずくんは私の愚痴を聞いて終わりにするつもりはないらしい。

 私は別に愚痴を聞いてもらえるだけで良いんだけどね。


「公太を解放したい。公太は同情だけで鈴原と付き合ってる。鈴原に縛られて可哀想。公太が本当に好きなのは私なのに!」

「うわ……、凄い自信だね」けいくんが呆れたように、そして、

「流石、いくちゃん」たまちゃんが感心したように言った。

「公太は私と結婚するって言った!」

「いつ?」これはかずくん。

「幼稚園のとき!」

 幼馴染み達に可哀想な子を見る目で見られた。



「鈴原が公太を好きだとは思えない。公太をいいように利用しているのよ」

 公太が優しい目で鈴原を見るのも、彼女に距離を取られて寂しそうな目で鈴原を見るのも、私はどっちの公太も見たくない。


「いくちゃんはさ、鈴原さんがこうたくんをたぶらかす悪女だと思ってるんだね?」けいくんは真面目な顔をして尋ねてきた。

 ?

「……うん」鈴原が悪女なら力ずくで公太を取り返せるのに……。そんな思いからつい肯定してしまった。一瞬罪悪感が生まれる。そして私は黙ってしまった。

 幼馴染み達は私の沈黙を別の意味で捉えた。


「わかった。鈴原がこうたくんをたぶらかす悪い女なら、こうたくんを助けよう」けいくんが冗談とは思えない口調でそう言った。「二度とこうたくんに手が出せないように絞めるか」


「こうたくんが停学中はいくちゃんが鈴原の送り迎えしていたんだよね。何とか理由つけてこうたくんから鈴原を離せる?」かずくんが私に訊いてくる。


「……え?」


「鈴原を袋にして、二度とこうたくんに近かづかないように脅すんだよ」かずくんが当たり前だろ、て顔で言った。


「こうたくんに、ばれないようにしないとね」けいくんは思案顔になる。


「こうたくんは繊細だからね。鈴原に利用されてたと知ったら傷つくよね」たまちゃんが悲しそうに言った。

「こうたくんはケンカ弱いし、繊細でお人好しで……。私たちの可愛い弟分だから守ってあげないとね。うちの可愛い末っ子を傷つける奴は、ただじゃ済まさない」いつもにこにこしているたまちゃんの顔は別人のようだった。


「……待って、そんな事したら公太に怒られる」私はそんなつもりじゃ……。


「僕たちのボスはいくちゃんだ。こうたくんじゃない」かずくんは冷たい目でそう言った。


「待って……。待って!」何なのこれ?


「もう一度鈴原と話する。鈴原が公太の事をどう思ってるかちゃんと確認するから……。だから待って」


 私は愚痴を聞いて欲しかっただけなのに……。何でこんな事になるの?




読んでくれてありがとうございます。

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