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第47話 文化祭after2

 

 俺は生徒指導室で、強面生活指導の体育教師と対面していた。

 教師はうんざりした顔をしている。


「また秋山が怒鳴り込んでくるのかな?」彼がうんざりしている理由は育らしい。

 多分来るだろうな。育だし。


 バンッ!


 生活指導室のドアが勢い良く開いた。

「公太!」予想通り育だった。


 前回と違って育はまだ落ち着いていた。ドアを閉める余裕があった。


「公太、大丈夫? ケガしてない?」

「うん。大丈夫。殴られてもいないし」


 育は教師をにらみつけて、「公太を連れて帰ります。こんなところに押し込められる謂れはないので」と言った。

「いや、事情を訊いているだけだから」

「公太は悪くない。聞かなくてもわかりますよね」

「いや、そんなわけには行かんだろ」


「今度は誰を守ったの?」

 俺は照れ臭くて返事をしなかった。

「誰?」育は教師に尋ねる。

「加藤達だ」

 育が俺を見る。

「今度は手を出す前に止めた」

「そう……。ごめん、気づいてなかった」

 俺達の親分は雑だからな。


「今回も、公太はお咎め無しですよね」育は当たり前って感じで教師に言った。

「いや、今回は先に手を出しているし、何も無しって分けには……」教師は最後まで言えなかった。

 いきなり育が教師の襟首を掴んで壁に押し当てたからだ。

「ふざけないで! 公太は何も悪くない! 何も悪いことしてない生徒を罰するの? あなた教師でしょ! ちゃんと生徒を守って!」

「待て待て、秋山。生徒は宮野だけじゃないんだ」

「公太が処分を受けるなら、私も責任を取る。子分の責任は親分の私が取る」

「何もしてない秋山を代わりに処分できるわけ無いだろ」

「なら今から何かする」

「秋山、ケンカなんかできないだろ」

「……子分達連れてきてカチコミかける」

「……子分って?」襟首を捕まれた教師は目だけ俺に向けて尋ねる。


「T中カラーギャングと世間では言われてますね」

「何で秋山が?」

「秋山がリーダーですから」

「……えらい奴が転校してきたな……」


 教師は育を見る。

 怒ってにらみつける育から目をそらさないなんて、流石生活指導教師は胆が座っている。

「宮野は悪いようにしない。何も無しって分けにはいかないが、形だけの処分で終わらせる」

「相手と釣り合いの取れない処分だったら、私が手を出すから」

「宮野が筋の通らないケンカをしないことは、教職員全員が知っている」


 育が黙る。彼女と教師はしばらくにらみあっていた。

 そして育は涙を流した。……感情がたかぶりすぎたのか?

 教師が育の涙に戸惑う。


 育は教師から手を離した。そして教師の前に正対する。

 流れる涙を拭く事もせず、真っ直ぐに教師を見る。


「公太を守ってください。お願いします」そう言って育は頭を下げた。



 育は生徒指導室から出ていった。

 教師はそれをホッとしたような顔で見送った。


「教師は生徒を守るのが仕事か……」教師は俺に向かって苦笑した。

 気持ちが共感できたので、俺も苦笑を返した。


 育は苛烈だ。

 正論という暴力で是非を問う。

 容赦ないよな、育は。




 放課後私は教室でみんなと話をしていた。

 当然私が輪の中心だ。由紀ちゃんや加藤くん達が私を取り囲む。

 私は机に座っていた。机の主の鈴原は黙っている。私たちの話を聞いているのかいないのか?

 話しかけても、聞き取れないくらい小さな声で返事をするだけだった。


 公太は停学3日になった。相手の鹿島という生徒達6人も停学3日だ。

 私が釣り合いの取れない処分なら黙っていないという脅しが効いたのか、同じ内容だった。


 学校としては、原因は鹿島達にあるけど、公太が暴力を振るったのは許されないという事らしい。

 学校が戦場だと理解できない、頭がお花畑の大人の言い訳だ。


 公太が停学の間、私が公太の代わりに鈴原についている。公太に頼まれたからだ。

 公太の真似をして、休み時間は鈴原の机に座って過ごす。お昼ごはんもトイレもずっと一緒だ。

 鈴原の家まで送り迎えもしている。


 鈴原に何かあったら公太に顔向けできない。今度は失敗しない。



 帰り道、鈴原を誘ってカフェに寄った。私と公太がバイトしたメイドカフェだ。


「おかえりなさいませ、お嬢様。……育ちゃん! 久しぶり!」かつての同僚が満面の笑顔でお出迎えしてくれた。

「ただいまー!」

「奈々ちゃんも、おかえりなさい」

「……はい」


 鈴原はいつものように、私の嫌いなアプリコットティーを注文する。私はカフェラテを注文する。


 春ちゃんが給仕のついでに話をしていく。この前の事件以来、春ちゃんは公太になついていた。

「春ちゃん、あれから大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「バイトやめてから、全然様子見に来なくてごめんね」

「ううん、いいよ。公太くんはいつも電話で気を遣ってくれてるし」

 ……え?

「たまに奈々ちゃんと、お茶しに来てくれてるから」

 ……え?


「……あれ?」春ちゃんがまずい事言ったかな? て顔で鈴原を見る。

 鈴原は相変わらず表情にでない。


「今日は珍しい組み合わせね。公太くんは?」

「公太は停学中」

「え? 大丈夫なの?」

「大丈夫なんでしょうね。5連休とか言って、バイクで走りに行った」

 停学3日と土日合わせて5連休との認識らしい。けいくんにテントやシュラフといったツーリンググッズを借りて走りに行ってしまった。

 鈴原を私に押し付けて!


「公太くん、今どこかな?」

「知らない」

 鈴原はスマホをいじっている。

「……下北半島。多分最北端に向かってる」鈴原が小さい声ながら、はっきりと言った。

 私とはまともに会話しないのに、春ちゃんとはちゃんと会話するのね。


「いや、何で知ってるの? 私には連絡無いのに!」

「いや、奈々ちゃんは彼女だから」春ちゃんが困った顔をしてなだめてくる。

 そこが一番不機嫌になるところなんだけどね!


「GPS」鈴原がスマホの画面を見せてくる。

「……彼氏にGPSつけてるの……?」春ちゃんが恐れる。

「春ちゃんにもつけてたよね?」

「あの後、外したから」


「私にもついてる」鈴原が言った。

 公太と鈴原はお互いGPSで監視してるの?

 何? マウント取ってんの?

 今度、公太のスマホに私の位置情報入れてやる。


「育ちゃん、そこ対抗しないで……」春ちゃんが引いていた。





読んでくれてありがとうございます。

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