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第45話 文化祭count8

 

 文化祭二日目の第一シフト。

 幼馴染み達は、私たちの休憩までどこか見て回ってくると言って教室を出た。


 その後は昨日とあまり変わらなかった。

 鈴原が写真を撮らせてくれと頼まれて断り切れないのを、私か公太が代わりに断るという余計な仕事はなくならなかった。


 私も写真を頼まれるが全部断った。公太に、「一回許可すると、長蛇の列ができて切りがない」と言われたから。

 確かにその通りだと思った。私は可愛すぎるからね。


 シフトの終わりがけに幼馴染み達が帰って来た。何故か由紀ちゃんもいる。

「由紀ちゃんを呼び出したから」とたまちゃんが言った。

「呼び出された」と由紀ちゃん。

 幼馴染み達は由紀ちゃんが気に入ったみたいだった。

 メイド服を脱ぐ前に幼馴染みに鈴原と由紀ちゃんを交えて記念写真をクラスメイトに頼んで撮ってもらった。もちろん廊下の看板の前で。


 その後、幼馴染み5人だけでも写真を撮ってもらった。


 教室の一角のバックヤードを仕切った更衣室で服を着替える。後を斉木くんと由紀ちゃんに任せた。


 今度は幼馴染み達がいるので公太も一緒に文化祭を回る。鈴原という余計なのがいたけど、公太が鈴原を一人にする筈がないので仕方ない。


「たこ焼きと焼きそばを買いに行こう!」とりあえず昼ごはん食べたい。

「粉もんばっかかよ」公太が文句を言うけど、高校の文化祭に他に何かある?


 たこ焼きと焼きそばとフランクフルトを適当に買って、休憩所になっている空き教室に入る。

 六人席を作って座る。

 公太が鈴原の隣に座ったので、更にその隣に座る。

「こうたくんは両手に華だね」かずくんが公太をからかう。

 そういうかずくん達はたまちゃんを真ん中に、両脇にかずくんとけいくんが座った。

「たまちゃんも両手に華だね」お返しにたまちゃんをからかう。

「いいでしょ?」たまちゃんは素で自慢してきた。「ね、こうたくん」

 公太は苦笑した。私と鈴原に挟まれて居心地悪いのかな?



 公太は買ってきたたこ焼きをにつま楊枝を刺して鈴原に差し出す。

「食べるか?」

「……はい」

 公太は明らかに鈴原の口元にたこ焼きを差し出しているのに、彼女はつま楊枝を公太から受け取って自分でたこ焼きを食べる。

 公太はシュンとする。

 私はムッとした。


「公太、一つちょうだい!」私は口を開けてねだる。

「お、おう」公太はもう一つ入れてあったつま楊枝でたこ焼きを一つ取る。

「あーん」私は公太の手からたこ焼きを食べる。「美味しい」ありきたりのたこ焼きを美味しそうに食べてみせて微笑む。ありきたりのたこ焼きも公太に食べさせてもらうと、なんとなく美味しく感じる。

 公太は寂しそうに微笑み返した。

 鈴原はこっちも見る事もなく、買ってきた焼きそばを食べ始めた。


 その後展示を見て回る。

 鈴原はほとんど喋らない。なにか喋りたいときは公太を見る。

 公太は身をかがめて耳を彼女の口元に近づける。

 そして公太は顔を上げると、彼女に微笑むか、困った顔を向ける。


 調理部で公太が手作りクッキーを買う。

 公太は袋からクッキーを一枚取り出すと彼女の口元にも差し出して、「食べる?」と微笑んで尋ねる。

「……ありがと……」彼女はそれをつまんで食べた。


「あーん」公太の前で口を開けてみせる。

 公太はクッキーを一枚、私に寂しそうな表情のまま食べさせてくる。


「いくちゃん、みっともないよ」けいくんが呆れて言った。

「それは鈴原さんでしょ」私は拗ねて返す。

 公太は困った顔をした。

 鈴原は聞こえてないのか黙ったままだった。


 私たちはいく先々で怖がられた。T中カラーギャングの悪名は思ったより浸透していた。

 みんなが私が何故一緒にいるのか? って顔で見てくる。鈴原は公太の女ってことでみんなは認識している。

 関係ないのは鈴原だけなんだけどね。


 最後のシフトに入った。

 幼馴染み達は帰った。

 私と公太と鈴原は衣装に着替えた。


 特に問題なくクラス展示は終わった。


 クラス全員でクラス展示の片付けを始める。

 集合写真を撮った後、私はみんなと記念撮影をした。

 公太が鈴原との記念写真を由紀ちゃんに撮ってもらっていた。

 無表情な鈴原の横で嬉しそうに笑う公太を見て胸が痛んだ。


 私も由紀ちゃんに頼んで、公太とツーショットを撮ってもらう。

 正面を向いて一枚撮る。

 私は公太を見上げて笑いかけた。公太も笑い返す。シャッター音がした。


「お疲れ、育」

「うん」公太の優しくねぎらいの言葉を掛けられて、不覚にも泣きそうになる。

 シャッター音がした。


 由紀ちゃんに返されたスマホのデータを確認する。

 最後の写真の中で、私は公太を見上げて涙を流していた。

 これは私らしくない写真だ。

 この写真は宝物にする。


 一般公開が終わりそして片付けが終わると、キャンプファイヤーがある。

 フォークダンスのパートナーが決まっていない人たちが焦り出す。


「育ちゃん!」斎藤くんが動いた。

「ん?」

「好きです。俺と付き合ってください!」

 教室内に感嘆の声があがった。

「おい! 抜け駆けかよ!」

「あ、俺も!」

 加藤くんと藤原くんの焦った声がする。

 いや、早い者勝ちでもないし。


 斎藤くんが頭を下げで右手を差し出す。

 わたしはその手を取れない。

 公太を目で探そうとして押し留めた。それは誠意がないと思った。


 私は表情を正し、斎藤くんに正対する。

「ごめんなさい」頭を下げる。「私は公太一筋だから」

「でも、宮野は鈴原と付き合ってるじゃないか」

「それでも私は公太が好き。だからお付き合いできません。ごめんなさい」

 斎藤くんは差し出した手を下ろした。


 加藤くんと藤原くんは誘ってくるだろうかと思ったが、二人は黙ったままだった。今のを見れば、断られるのはわかるだろうからね。


 私は振り返って公太を見る。公太と鈴原は私を見ていたが、感情は見えなかった。


 キャンプファイヤーの時間。

 アナウンスはフォークダンスの一曲目がマイムマイムであることを告げていた。みんなで手をつないで大きな輪を作るダンスだ。


「行こう」私は公太と鈴原に声をかける。

 戸惑う鈴原に左手を差し出した。

 鈴原はためらってから私の手を取る。

「みんな、行こう!」2年B組の生徒達に声をかけて、キャンプファイヤーに向かって駆け出した。

 鈴原が私に引っ張られてついてくる。

「待てよ、育」公太も駆け出した。


 フォークダンスの輪に入る。

 鈴原の右手は私がつないでいる。公太は鈴原の左手をつないだ。

 由紀ちゃんがちゃっかりと公太の空いている左手をつなぐ。私は振り返る。

 クラスメイト達が私の右手を誰が取るかで牽制しあっていた。

「斉木くん」私は斉木くんに声をかけた。

 これくらいしか答えることができない。

 彼は遠慮がちに私の手を取った。


 実行委員のダンスの説明の後、音楽が始まる。

 公太の手は鈴原と由紀ちゃんとつながっている。公太が鈴原とつないだ反対の手を取っても良かったのだが、そうすると鈴原は誰かと公太と反対の手をつながなければならない。鈴原には公太と私以外友達はいない。私が鈴原の手を取るしかなかった。


 曲が終わる。次の曲はコロブチカだった。実行委員がダンスの説明をする。

 固定されたペアで踊るダンスだった。


 公太は当然のように鈴原を選ぶ。私は斉木くんにパートナーを申し出た。

 ダンスの間、隣で踊る公太に気を取られていた。公太はずっと優しい微笑みで鈴原を見ている。

 私はずっと張り付けた笑顔で感情を殺した。


 最後の曲はオクラホマミキサーだった。実行委員がダンスの説明をする。これはパートナーが順番に変わっていくらしい。


 鈴原がパートナーが公太から代わると聞いて不安そうな顔をした。

「鈴原さん、最後まで楽しもう!」

 彼女は頷いて、ダンスの輪にとどまった。


 私の周りに2年B組の生徒が固まっている。斉木くんに、「後でね」と言って、クラスの集団の先頭に走った。

 先頭の女の子に斉木のくんのパートナーを代わってもらうように頼んだ。彼女はすぐに理解して代わってくれた。

 女子は後ろにずれていく。私が先頭で始めたらクラスの男子全員と踊れる筈だ。

 私は文化祭で頑張ってくれたクラスのみんなと踊りたい。残念ながら女子とは踊れないけど。

 クラスのみんなも、私みたいな可愛い子と踊れた方が嬉しいよね。


 パートナー交代の前に腰を折って挨拶する動作が入る。私はみんなに笑顔で挨拶した。

 途中で公太ともパートナーになった。私は笑顔で公太に挨拶した。

 公太も笑顔を返した。



 こうして文化祭最終日は終わった。




読んでくれてありがとうございます。

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