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第44話 文化祭count7

 

 文化祭が始まった。

 初日から私たちのクラスのメイド喫茶は大盛況だ。

 私ぐらいの美少女がメイドさんやってたら話題になるのは当然だよね。


 文化祭は二日ある。クラスの実行委員長の私は二日とも三交代の最初と最後のシフトに入っている。準備と片付けをしないといけないから。

 公太と鈴原も私と同じシフトだ。二人とも私が面倒を見る。


 公太は準備には役に立った。準備には……。

 接客は何の問題もないのだけど……。ただ学校の中では有名すぎて、学内の生徒には接客させられなかった。

 みんな公太を怖がるから。


 学外の一般客の接客をしてもらう。公太は女性の一般客には受けが良かった。

 だって、公太はカッコいいもの!


 それに引きかえ鈴原は役に立たなかった。決定的に接客に向いてない。

 声小さい。

 仕方ないので入り口近くで看板娘をやってもらった。見た目は可愛いからね。

 私ほどじゃないけど!


「鈴原さん、もうちょっと大きな声だしてみようか? せっかくのお祭りなんだから楽しまなきゃ損だよ?」

「……はい……」

 いや、だからね!


 男子生徒が二人来て入るかどうか迷っている。メイド喫茶、初心者には入りにくいよね。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」私は必殺美少女営業スマイルで元気に挨拶する。

「さ、入って!」ためらってるなら、とりあえず入れば?

「鈴原さん」小声で鈴原を促す。

「……おかえりなさいませ……」

 声ちっさ!


 鈴原は看板娘としてだけは優秀だった。

 危なっかしくて一人にしておけなかったので、私か公太がいつもついていた。そのためホールの役に立たないどころか、マイナスだったけどね!


 シフト交代で由紀ちゃんと斉木くんに任せて休憩にはいる。


 公太を誘って回ろうかと思ったら、鈴原といつのまにか消えていた。

 一緒のシフトに入っていた加藤くんや三和ちゃん達と回ることにした。

 ムカつく。明日こそは公太と回りたい。


 初日の最後のシフトはちょっと忙しかった。

 鈴原が写真を撮らせてくれと付きまとわれて、私や公太がやんわりと追い払ったりしていた。鈴原が無許可で写真を撮られたときは、撮ったやつと公太がどこかに消えてしばらく公太が戻ってこなかったりと、バタバタした。

 鈴原にメイドをさせた私が言うのも何だけど、彼女は手が掛かりすぎる。


 ちなみに公太の助言に従ってホール内は撮影禁止にしてある。

 友達と記念撮影したければ廊下に出て撮るルールだ。


「写真くらいいいじゃん」

「君、可愛いから一緒に撮ろうよ」

 まあ、ルールを守らない客もいるけどね。


 私の場合はにっこりとお断りすると、大体はあっさりと引き下がる。何故か怯えた顔で謝られる。


 私以外の女の子が絡まれると、バウンサー公太の出番だ。


「旦那様、申し訳ございませんが当店では撮影はお断りしております」

「あー、いいだろ写真ぐらい!」

「俺たちは客だぞ! サービス悪いなーこの店は!」


 二人の高校生ぐらいの男子。学外から来た客だね。この学校で公太にケンカ売るとメンドクサイ事になるのを知らない生徒はいないからね。


 二人まとめて公太がつまみ出した。

 まあ、こんな感じで文化祭一日目は終わった。




「いやー、疲れたねー」育が窓の桟に載せた腕を枕にぐったりしている。

「お疲れ」

 いつもの窓際。

「バイトの時より疲れるよ」

 バイトはシステマチックでみんなプロだからな。


「鈴原に手が掛かりすぎる……」

「育がさせたんだから文句言うな」

「今まで公太が過保護にしてたせいでしょ?」

 あ、うん、まあな……。


「鈴原が盗撮されたときの公太の切れっぷりは怖かったね……」

 育のお断りの仕方も大分怖かったぞ。


「騒いでた客もいたしね」

 いたな。

「あっさり二人つまみ出してたけど、暴れられなくて良かったね。よっぽど公太が怖かったのかな?」

 あれな。手をつかむとき、誰にも見られないように肘で数発入れといたからな。


「明日も大変そう……」

 明日、俺と育がいないときのシフトは、斉木と加藤たちか……。あいつらケンカ弱いし、ムダに大騒ぎしそうだからな……。大丈夫かな?




 文化祭二日目。

 今日もオープニングは私がシフトに入る。公太と鈴原もセットだ。


 文化祭の一般入場が始まってしばらくした頃、学内がざわつき出した。


 学外の不良達が来ているとの情報だった。

 公太と揉めた事のある不良が仕返しに来たのではないか?

 そんな憶測が飛び交う。


 ちょっとまずいかな。文化祭の準備で公太は居場所を作り始めていた。

 怒らさない限りは自分からは手を出さない。と言った程度の認識のされ方だったが。

 ここで派手に暴れることになったら、また公太が孤立するかもしれない。


 揉める前に公太をどこかに隠そうか?

 そう思っていたら次の続報で拍子抜けした。


 やってきた不良とは、T中カラーギャング達との事だった。

 何だ、幼馴染み達が遊びに来ただけか。


 ただクラスの皆の緊張はとけない。公太がT中カラーギャングだと言うことはみんな知っている。彼らの目的地が公太のいるこの2年B組だと言うことは想像できる。

 T中カラーギャングの悪名はみんなを怖がらせた。


 ......ま、いっか。



「やっほー、いくちゃん! 遊びに来たよー」たまちゃんが手をふりながら声をかけてきた。かずくんもけいくんも一緒だ。

「みんな、来てくれたんだ!」私も笑って迎える。

「いくちゃん、可愛い!」たまちゃんがほめてくれる。

 知ってるけどね。

 鈴原は人見知りを発揮して黙ったままだった。


 幼馴染み達をテーブルに案内する。

 たまちゃんとかずくんが並んで座って、たまちゃんの向かいにけいくんが座った。


「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」公太がテーブルまでやってきた。

「こうたくんがガチだ」そう言ってけいくんが驚く。

「こうたくんもカッコいいよ!」たまちゃんが公太をほめる。

 それも知ってる。


「こうたくんがコーヒー淹れてくれるの?」

「いや、別のスタッフが淹れる」

 公太の返事にかずくんは残念そうな顔をする。

「じゃあ、僕はコーヒーのセットで」

「俺は紅茶セットな」

「私も紅茶セットで!」

 かずくんがコーヒーで後の二人は紅茶を注文した。

 公太がバックヤードに注文を伝えに行って、すぐに戻ってきた。


「ねえ、こうたくんの彼女さんって、あの子?」たまちゃんが鈴原を見ながら公太に訊いた。

「よくわかったね?」

「いくちゃんくらい可愛い子だって言ってたから」

 たまちゃんが私の質問に笑顔で答えた。

 私の、次に、可愛い子ね。


「こうたくん、紹介してよ」かずくんが楽しそうに言った。

 公太はちょっと照れた顔をしてから鈴原の方を向く。


「鈴原! ちょっと来い」公太が鈴原を呼ぶ。

 鈴原は入り口にいて少し離れていたので、公太はちょっと大きな声を出した。

 ? 店の中で大きな声を出すなんて、公太らしくない。


 突然呼ばれた鈴原が戸惑った顔をする。知らない人ばかりで、人見知りしているのかな?


「早くしろ!」公太が怒鳴る。


 たまちゃんが、クスクスと笑いをこらえる。つられてかずくんもけいくんも笑い出す。

「たまちゃん、笑わさないで」かずくんが笑いをこらえきれずに、たまちゃんに抗議する。


 鈴原が公太の後ろに立つ。半分公太の影に隠れるように立ったが、完全に隠れなかったのは頑張った方かな?


「俺の彼女の鈴原だ」公太が鈴原をみんなに紹介する。

 鈴原はちょっとだけ会釈をするが黙ったまま。


「やっほー、鈴原さん。……て言うか、こうたくん、照れすぎ!」たまちゃんがこらえられずに笑い出した。

「照れ隠しのレベルがヒドイ」かずくんも、笑いを我慢できなかった。

「おまえら、笑いすぎだろ」と注意するけいくんも我慢できてない。

 公太は照れたようにそっぽを向いている。


 何でこんなに笑ってるの?


「ごめんごめん、鈴原さん。こうたくんはいつもこうなの?」かずくんが笑いを抑えて鈴原に話しかけた。

「照れ隠しで怒鳴られるって、鈴原さん、可哀想だろ」けいくんも笑いながら公太をからかう。

「ごめんね。こうたくんは照れ屋さんだから、許してあげてね」たまちゃんが鈴原に謝る。


 鈴原はたまちゃんの言葉にうなずいた。


「お前らうるさい」公太は真っ赤になって抗議した。


 ……、公太が鈴原にエラソーだったのって、照れ隠しだったんだ……。

 私の知らない公太の一面……。

 7年間の空白は私と公太の間に溝を作っていた。


 ソンナノワタシノセイジャナイ……。



 幼馴染み達は鈴原に簡単な自己紹介をした。

 鈴原は小さな声でなにか返事をしていたが、私の耳には入らなかった。


「もういいだろ。鈴原、仕事に戻るぞ」そう言って公太は鈴原を連れて入り口に戻った。


 お茶が運ばれてきたので私も席を外す事にする。

「いくちゃん、笑顔、忘れてるよ」いたわるような、けいくんの口ぶりだった。

 幼馴染み達はもう笑っていなかった。


 ドウジョウナンカイラナイ。




読んでくれてありがとうございます。

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