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第43話 文化祭count6

 

 ハロゲンライトがアスファルトを照らす。


 高速コーナーの入り口、スロットルを合わせてシフトダウン。体を起こし空気抵抗を使ったエアブレーキとギアを下げたエンジンブレーキでコーナー旋回速度を調整し、ノーブレーキで侵入する。

 体重を内側に入れて遠心力を相殺する。


 タンデムシートの育も俺の体重移動に合わせてシートからお尻を下ろす。

 峠に入るまでは育は俺の腰に抱きついていたが、峠に入ってからは左手でシートベルトをつかみ、右手を俺の右肩に置いている。

 肩に手を置くのは俺の体重移動を触覚で読むため。

 左手で前席と後席の間にあるシートベルトをつかんで転落を防止する。シート横のタンデムバーでは自分の腕がジャマでスムーズな体重移動ができないから、股の前にあるシートベルトを掴む。


 育は積極的に峠攻めを楽しむようになった。

 けいくんとたまちゃんのタンデム走行を真似している。

 俺は育を乗せたまま限界走行をするつもりはないが、それでもペースは上がった。

 育に危険がない範囲で、育にもワインディングを楽しんでもらう。


 高速コーナー出口からシフトアップしアクセルを開ける。

 この峠では長い直線で下り勾配。高速コーナーからの長い直線なのでアクセル全開で回転数をレッドゾーン手前まで上げる。


 後付けのスピードメーターはけいくんが設定した理論値を指した。


 次のコーナー。

 体を起こしフルブレーキ。オーバーレブしない速度まで減速してからギアを落とす。

 育が同じタイミングで体重を移した。



「楽しー」バイクから降りてヘルメットを脱いだ育が開口一番そう言った。

 空が暁に染まり始めた展望台。

 今日はいつものA峠ではなく、少し遠いPロードに来ていた。

 海岸線を走る高速コーナーの多いワインディングロード。観光道路でもある。

 頂上に観光客用のレストランや展望台がある。

 夜明け前なのでレストランは開いていない。

 誰もいなかった。


 育と並んで展望台の欄干に手を掛ける。

 東の海から太陽が昇り始めていた。


「スッゴク早かった。何キロ出てるの?」

 最高速度を教える。

「そんなに!? そんなに出るものなの!?」

「色々と変えてあるからな。スピードメーターも変えてある」

「直線道路ならもっと出る?」

「いや、ギア比と回転数の上限だ。これ以上はレッドゾーンに入るし、レブリミッターもかかる」

「ふーん」

 良くわかってないらしい。


 俺は左に立っている育の顔を覗き込む。

「ん?」育がこっちを見る。

 俺は右手を伸ばして育の左頬に触れる。



 育は緊張した表情を浮かべてから、目を閉じてあごを少し上げる。

 ……。


「キス待ち顔するんじゃねー!」


「お?」育が驚いたように目を開けてから笑った。

 わざとだな。


 育の左頬をさわる。青あざは目立たなくなっていた。

 良かった。


 育は俺が殴って青あざを作ったところを気にしているのを、わかっていて冗談で流したのだろう。




「鈴原とは仲直りできた? ちゃんと謝った?」

「んー、どうだろう? 謝ったのは謝ったけど、何で殴られたのかよくわからなかったし……」

「帰りに話したんでしょ?」

「んー、俺が干渉しすぎみたいな事は言われたけど……、それだけで殴るかなー?」

「ん……」

 育は何か心当たりがあるようだったけど、何も言わなかった。


「公太、文化祭が終わったらツーリングに行こ? テント持って」

「ああ。……鈴原が良いって言ったらな」

「たまちゃんとけいくんは二人で行ったよ?」

「鈴原が、かずくんほど物分かりが良いとは限らないだろ」

「ん……」普通なら許さないよね。公太には悪いけど、鈴原はダメだと言わない気がした。



「走ってくる」

「ん、待ってる。気をつけて」

「ああ」




「おはよう、公太くん」

 朝の教室。教室に入ってきた公太と鈴原に由紀ちゃんが声をかける。

「おう」いつものように公太はえらそーに返事する。


 昨日あんなことがあったけど、いつも通りの朝。いつも通り公太が教室に入ってくると空気が変わるけど、今日はそれに好奇心も含まれている。公太と鈴原がいつも通りなのがみんなの好奇心を拍子抜けさせていた。


 私は二人のもとに向かう。

「おはよう、鈴原さん」

 公太がにらんでくるが、口を挟まない。

「……おはよう……ございます……」小さい声で鈴原が返事を返す。


「ねえ、鈴原さん、今日は一緒にお昼ごはん食べない?」

「え?」鈴原の目が泳ぐ。

「おい」公太が口を挟もうとする。

 鈴原は公太を見た。

 昨日の事があるので公太は手を出さず、顔を下げて鈴原の顔の前に耳を近づける。

 公太の耳元で鈴原は何かを言った。

 公太は顔を上げると心配そうな顔で頷いた。

「……はい……」鈴原と一緒にお昼ごはんを食べることになった。




 そんなわけでお昼休みは、私と鈴原と由紀ちゃんと三和ちゃんと浩子ちゃん。5人で机を囲む。

 美少女5人のグループの出来上がり。

 私が一番の美少女だけどね。


 公太は一人でどこかに行ってしまった。多分この前の美術準備室だろうか?


 三和ちゃんと浩子ちゃんと一緒に食べるのは久しぶり。由紀ちゃんが二人と仲直りできて良かった。具体的にケンカしていたわけではないけど。

 鈴原がいるのが違和感になっている。

 三和ちゃんと浩子ちゃんは少し居心地が悪そう。

 一番居心地悪そうなのは鈴原だけど。


「育ちゃん、公太くんに謝った?」

「謝ったよ」

 由紀ちゃんは何も気にせずに話をしてくる。


「殴られた育ちゃんが謝るの?」三和ちゃんが納得行かないって顔で訊いてくる。

「謝ったよ?」

 三和ちゃんは道理がわかってない。


「鈴原さんは、公太くんに謝ったの?」由紀ちゃんは鈴原にも訊ねる。いや、当然謝ったよね? ってニュアンスだった。

「……」鈴原は黙って固まる。


 公太は鈴原にビンタされた理由が分からないと言っていた。でも私は何となく分かる。

 鈴原は、私と公太がケンカしたことに嫉妬したんだね。これは私のケンカだと、言ったことに反発したんだと思う。

 鈴原がその事に気づいているかは分からないけど。

 口では公太を譲ってもいいと言っていたけど、本心は違うよね。


「由紀ちゃん、公太はそんな事望んでないよ」私は由紀ちゃんを咎める。

 由紀ちゃんは不満気な顔をした。


 由紀ちゃんは公太のために言ったのだろうけど、私は公太の負担を減らすために鈴原と友好的になりたいんだから。

 ジャマしないで。


 私と由紀ちゃんの間に険悪な空気が流れる。

 後の三人は意味がわからず戸惑っていた。


 これは前途多難だね。



 

読んでくれてありがとうございます。


公道では交通法規を順守し安全運転を心がけましょう。

一般道路でのバイクの理論値は時速50キロです。

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