第39話 文化祭count2
早速、2年B組文化祭実行委員の初会合を開いた。
「だから何で俺の家でやるんだよ!」公太が文句を言う。
公太の家のキッチンの中から。
怒鳴りながらもお茶の用意をしている。
公太の隣で由紀ちゃんが呆れたように微笑みながら公太の手伝いをしている。
これはもう様式美かな?
集まったメンバーは実行委員長の私。委員の由紀ちゃんと斉木くん。それと手伝いの由紀ちゃんの友達二人と斉木くんの友達二人。私の手伝いの公太を入れて8人の大所帯になった。
公太の家のキッチンもリビングも私の家より大きい。食事にこだわる宮野家らしい間取りだ。
それでもこの人数は流石に手狭だ。
「育ちゃん、宮野の家でなくてもいいだろ? どっかのファミレスでいいんじゃね?」加藤くんが文句を言う。どうやら公太ともめたくないのか、私に言ってきた。
「毎回ファミレスじゃ、おこずかい足りなくなるよ?」
「教室でよくね?」
よく気づいたね。三バカのクセに。
「お茶もお菓子も出るから」私はにこやかに答える。
「俺んちは喫茶店じゃねー!」公太がキッチンから怒鳴ってくる。
「そこらの喫茶店より美味しいものね」
「お?」
由紀ちゃんがノータイムで返して、公太が虚をつかれたような間抜けな声を漏らした。
由紀ちゃんは私の公太に何をアピールしてるの?
「育ちゃん、そんな怖い顔するくらいなら手伝えば?」
むー、何か煽ってる?
「由紀、育ににらまれてよく平気な顔できるな……」
「え? やきもち育ちゃんも可愛いよね」
「育はいつでも可愛いけどな」
何を言ってるの、この二人は!
「おい、お前ら! いちゃこらすんじゃねー!」加藤くんが怒鳴って立ち上がる。
「座れば?」
私は座るように言う。加藤くんは素直に座り直した。
「大体、前から気に入らねーんだよ! 」加藤くんは大人しく座りながらもまだ公太に吠える。
「あぁ?! うるせーぞ加藤!」公太もやり返す。紅茶を淹れながら。
「お前のせーで、クラスのフイキ悪くなってんだろ!」
「それはお前らだろ! 下らねー話を大声でべちゃくちゃ喋りやがって!」
「大体何で文化祭参加してんだ! お前みたいな不良が参加するなんて迷惑なんだよ!」
「俺もやりたくねーよ!」
「だったらでしゃばんな!」
「うるせー! くず!」
「黙れ! バカ野郎!」
何か子供のケンカになってない?
公太は怒鳴ってる間にもお茶の準備をしている。
高い場所から丁寧にティーポットにケトルでお湯を注ぐ。
平行してコーヒーをドリップする。
8人分のコーヒーと紅茶を一度に手際よく淹れる。
由紀ちゃんはお菓子やカップを用意する。ちゃんとカップをお湯で暖めている。
由紀ちゃんは手伝いをしているが、紅茶もコーヒーも淹れるのは公太に任せている。
その方が美味しいからね。
由紀ちゃんがカップとお菓子をテーブルに並べた。
お菓子は公太の作り置きのクッキーとスコーン。
砂糖とミルクも用意されている。
「女はべらして鼻の下伸ばしてんじゃねー! このナンパ野郎!」
「あぁ?! 誰がナンパだってんだ?! モテねー野郎がひがんでんじゃねーよ!」
「ざけんな! 育ちゃんのお隣だなんて、宮野のクセに生意気なんだよ!」
「たまたまだろ! 意味わかんねー因縁つけんな!」
「うるせー! とにかく気に入らねーんだよ、テメーは!」
「あぁ?! ザコは黙ってろ!」
「やんのかコラぁー! 表出ろや!」
「いいぜ! やってやるよ!」と言いながらも、公太はテーブルの前に座った。
「冷めないうちに飲んでからな!」
みんなでお茶をした。
加藤と由紀ちゃん以外は借りてきた猫のように、一言も喋らなかった。
みんな公太怖いのかな?
今日の公太は機嫌良くって楽しそうなのに?
お茶を飲み終わってから、ケンカの続きが始まる。
「宮野! やるかぁ?!」加藤が公太にメンチ切る。
「いいぜ」公太が静かにそう言って立ち上がった。
あ、これ本気だ。
加藤くんが一瞬固まる。
本気でケンカする気は無かったのだろうか?
まあ、公太に勝てるわけ無いもんね。
公太に続いて、加藤くんが緊張した面持ちで部屋から出る。
由紀ちゃんも面白そうな顔をして後に続く。
みんなも外に出た。
宮野家の駐車場。今日は公太パパとママは仕事で車が無い。
公太と加藤くんが向かい合ってにらみあう。
私たちは離れて観戦する事にする。
由紀ちゃん以外は不安そうな顔。女の子達は明らかに怖がっている。
結果は取り立てて言うほどの事はない。
あっさり公太が勝った。
加藤くんが大振りのパンチを出すのに合わせて、公太が受け流しての最短軌跡のカウンターパンチ。
鳩尾を殴られて加藤くんがコンクリートのたたきの上に沈んだ。
顔殴らないだけ、公太は手加減してあげたみたいだった。
「おい大丈夫か?」三バカの斉木くんと藤原くんが加藤くんを気遣う。
「きゃー! 公太くん、カッコいいー!」由紀ちゃんが黄色い歓声を上げる。
えぇ? 由紀ちゃん、こんなキャラだった?
公太は由紀ちゃんの歓声に困ったような、恥ずかしそうな顔をした。
三和ちゃんと浩子ちゃんは怯えたような顔をしていた。
バカだね、男どもは。
加藤くんは少し回復して、自力で地べたに座った。
もう少し回復するまでみんな待っている。
その間に藤原くんが駐車場の端っこに停めてある公太のバイクに興味を示した。
彼はバイクに近づき、手を伸ばす。
「触るな!!」
怒鳴り声にみんながビクッとして、怯えた目で私を見てきた。
え? ちょっと注意しただけだよ?
どうしてそんなに怯えた目をしてるの?
……公太まで怯えた目をしていた……。
「公太が大切にしているバイクだから、勝手に触らないでね」私は取り繕うように笑顔で諭した。
「あ……、ああ」藤原くんは青ざめた顔のまま、何とか声を絞り出した。
公太は黙って家に入る。そしてすぐに出てきた。
手にバイクの鍵を持っていた。
ハンドルロックとチェーンロックを外す。
「乗ってみる?」公太は藤原に声をかけた。
三バカは免許を持ってなかったのでバイクを走らせることはしなかった。
跨がってエンジンをかけただけだった。
「おお。いい音する!」バイクに跨がった藤原くんがアクセルを開けながら楽しそうに言った。
「近所迷惑だから、あんま吹かすなよ」公太は満更でもないように注意していた。
「公太くん、今度乗せてくれる?」由紀ちゃんが公太にねだる。
公太は、え? て顔をしてから私を見た。
由紀ちゃんが公太の視線を追って私を見る。
「あ、後ろのシートは育ちゃん専用か」そう言って面白そうに笑った。
「ごめん」公太が由紀ちゃんに謝る。
「妬いている育ちゃんは、可愛いね」
「えぇ……、怖くないの?」
怖くないよ?
読んでくれてありがとうございます。




