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第38話 文化祭count1

 

「メイド喫茶がやりたい!」


 育が元気にかました。


 ホームルーム。今日は文化祭のクラスの出し物を話し合っている。

 育は挙手と同時に立ち上がって発言した。司会のクラス委員長の発言許可を待たずに。


「お、いいねー! 育ちゃん、メイドやってくれんの?!」三バカの加藤がノータイムで食いつく。

「やるよー!」育が笑顔で答えた。「クラシカルなメイドならやったことあるから任せて!」


 クラスがざわつく。育がメイドをやったことあるって言う発言にか、育がメイドやってくれるって言う発言にか?

 育位の美少女がメイドやるって言うのだからみんな浮わつくのは当たり前か。


 俺には関係ない。文化祭なんて参加するつもりはない。サボって走りに行くか、鈴原と遊びに行くか、二択だな。

 鈴原が文化祭に参加しないのは俺の中では確定事項だ。


「メイド服着てみたいって子、結構いるよね?」

 育の発言に同意する雰囲気がある。

 由紀は、げ、って顔をしていた。

 鈴原は俺の後ろの方の席だから顔が見えないが、きっと興味無さそうな顔をしてるんだろうな。


「で、男子は執事ね!」

「やるやる!」加藤はお調子者の面目躍如ってとこだな。

 俺は、……イヤな予感がする。


 育が俺の顔を見て、にっ、て笑う。

 悪い顔してるなー。

 絶対やらないからな!


 男女ともやりたい、て声が上がる。


「じゃあ、メイドと執事の喫茶店、て事で。他に意見ありますか?」委員長がまとめに入る。

「では、決定で。で、メイドや執事やりたい人?」

「まって、迷ってる人もいるだろうから、役割は今度決めない?」育が即決に異議を唱える。

 俺が執事に名乗りあげる筈がないことを見越しての事だな……。

 育に説得されてもクラスの出し物に参加するつもりはないぞ?

 俺が参加しても、他の奴らも困るだろ。


「僕は生徒会の実行委員に入るから、クラスの実行委員を決めたいのですが、……発案者の秋山さん、お願いしていいかな?」

「いいよ!」


 育が責任者になったしまった……。これはまずいな……。




「やらないからな」

「わたしもやらないから」

 俺が鈴原を送ってから家に帰ると、育と由紀がやって来た。

 俺は紅茶とおやつを用意しながら、執事をやるつもりがない事をはっきりと育に伝えた。

 由紀も俺の手伝いをしながらメイドをやらない事を育に伝える。


「うん。由紀ちゃん、実行委員の手伝いはしてくれる? 私一人じゃ大変だから」育は俺達が拒否することは想定内のようだ。

「……、もう……、仕方ないわね」由紀はしぶしぶ受けた。

「あと、三バカにも手伝わせる」

 三バカって言った……。ひどいなこいつ……。俺は思ってても口に出さないぞ。


「で、公太。メニューはどうしたらいい?」

「俺は実行委員を受けてないからな」

「私の相談に乗って」

 実行委員に入らなくていいから、育個人の相談に乗れってことか……。断れないな。

「コーヒーメーカーをレンタル。一度に20杯位作れる奴な。作り置きを保温できるポットもいる。紅茶はちゃんとしたのは諦めてティーパックな。フレッシュはポーション、砂糖もスティックを業務用で。レモンティーとかも無しで。食器は使い捨てにしろ」


「ケーキやおやつは作れる?」

「作れるか! 調理室は調理部が使う。大量に作れる場所がない。業務用の冷凍ケーキと、どこかのクッキーを用意しろ。衣装は男女5着ずつレンタルして交代で着回す。これで200人客が入れば何とか黒になるだろ」


「なるほど」育が納得する。

 由紀が呆れたように俺を見ている。

「何?」

「……ううん、……訊かれる前から答えを用意しているのね」

「……」いや、予想できたし……。


「人の配置はどうしたらいい?」

「衣装着るのはホール8人、客引き2人。衣装着ないのは受付会計2人、バックヤード2人。時間差で1日3交替」

「えっと、……14人掛ける3回で42人必用? そんなにいないよ?」

「違う、3班じゃなくて3回交替するだけだ。メイド、執事をやりたい奴が少なければ1日2回入れる。そんな感じだ」


「おお、……シフト表めんどくさくない?」

「部活参加の奴らには時間調整も必用だな」

「……ムリ」

「育がしなくていい。設営、仕入れとあわせて、シフト管理担当も作れ」

「……、公太やって!」

「やだよ!」

「むー」可愛くふくれてもやらないからな。


 ローテーブルに座って3人でお茶にする。もちろん俺が紅茶を注いだ。

「公太くんの入れる紅茶は美味しいね」

「でしょ?」

 由紀の感想に何故か育が得意気に答える。

「公太くんがマスターやれば、美味しいって評判にならない?」

「イケメンマスターでも評判になるよ!」

 育がいちいちうるさい。

「機材が足りないから無理だよ」育を無視して由紀に返事する。


「公太、かまってよー」育が拗ねだした。

 可愛いので頭を撫でる。

「公太、相談ぐらいはさせてね」頭を撫でられて育は嬉しそうに言った。

「はいはい」しょうがないな、育は。


 由紀が呆れた顔をして俺達を見ていた。


 今日の育は可愛い。

 ……育が可愛いだけの美少女では無いことを忘れていた。

 結構いい性格してるんだよな、育は……。




「クラス実行委員に指名されました、秋山です。頑張って文化祭盛り上げよう!」

 次の日のホームルーム。教壇に立った育は笑顔で言った。今日も彼女は元気だ。

 クラスの反応は好意的だ。


「私と一緒にしてくれる実行委員を指名させてね」

 そう言って反論がないことを確認する。

「斉木くん!」

「え? 俺?」三バカの一人、斉木を指名した。一度、俺の家に連れてこられた借りてきた猫だ。

「加藤くんも藤原くんも手伝ってね」

「え? おう、任せろ」やはり三バカの一人、加藤は快く受ける。育に指名されて舞い上がってるな。

 同じく三バカの藤原も追従する。


「女子は飯島さん!」

 由紀が指名されて固まる。だが拒否もしない。昨日やるって言ってしまったからな。

「川野さんも高木さんも手伝ってね」

 三バカの時と同じく、由紀の友達も一緒に指名する。

 最近、距離があった二人だ。育はこの機会に由紀の友達関係を修復したいのだろう。

 川野も高木も動揺しているが、由紀の手伝いを要請されただけで委員に指名されたわけではない。拒否しにくい。


「私はメイドを喫茶でバイトしたことあるけど、もう一人経験者に手伝ってほしいです」

 おい!

「宮野くん、私の、手伝いをお願いします」

 俺も実行委員に指名されたわけではない。確かに育の相談ぐらいは乗ると言ったな。


 クラスがざわつく。

 育は平然と俺を見て悪い顔をした。


 育は可愛いだけの美少女ではなかった。


 やられた……。





読んでくれてありがとうございます。

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