第36話 新学期episode3
「何だよ、鹿島。よそのクラスの事に口だすなよ」
ビックリした。
いや、本当にビックリした。
三バカの一人、斉木がこんな行動起こすなんて思っても見なかった。
事件が起きたのはいつもの教室。授業と授業の間の休憩時間。公太にとっては日常なんだろうな。よそのクラスのヤンキー君が公太に粉かけて来るなんて。
多分同じ2年生の柄の悪そうな男子が何人も引き連れて私たちの教室に押し掛けてきた。
「お前のせいで彩香が退学させられたんだよ! どう落とし前つけんだよ!」
「あー? 知るか!」公太はいつも通りの対応。
「彩香って誰?」私は由紀ちゃんに小声で尋ねる。
由紀ちゃんは真っ青な顔をしていた。
あ、由紀ちゃんに手を出して公太に絞められた奴か。いつの間にか一人退学していた女子がいたね。
このヤンキーは彩香って女の彼氏なのかな?
公太はいつものように鈴原の机に座ったまま、よそのクラスのヤンキー君相手にメンチ切ってる。
公太を囲んでいるのは6人。公太一人で相手するのには多すぎる。
公太の後ろで鈴原が青ざめている。
鈴原の事はどうでもいい。
でも由紀を怖がらせたことは許さない。
由紀ちゃんは自分のせいで公太がピンチに陥っていると思っている。確かに原因ではあるけど、それは由紀ちゃんのせいじゃない!
「大勢で押し掛けて、公太一人にビビってんの?」思わず言ってしまった。
「ああ?!」リーダーらしい柄の悪い男が私を威嚇する。
怖くて足が震える。でも引けない。私の友達の由紀ちゃんが怖がらせられて黙っていられない!
由紀ちゃんも、公太も、私が口を出したことに驚いている。
私もビックリだよ! でも我慢できなかったんだから仕方ないよね?
私は啖呵切ってから、そこから続かなくなった。
どうしよう?
私を威圧してきたヤンキーもそこから続かない。私を見て固まっている。他の取り巻きも動揺している。
何でかな?
公太は硬直からすぐに抜け出して、何か言おうとした。
それより早く斉木が、「何だよ、鹿島。よそのクラスの事に口だすなよ」と言った。
ケンカ腰ではない。できたらナアナアで済ませたいという弱腰さだ。
「ああ?! 斉木、何か文句あんのかよ?!」鹿島と呼ばれたリーダー格のヤンキーが斉木をにらむ。
斉木はビビって口をつぐむ。
「よそのクラスの事まで口挟むなよ、鹿島!」
三バカのもう一人、加藤が斉木に加勢する。
三バカの最後の一人、藤原が驚いた顔をしていたが、加藤に乗っかって鹿島をにらむ。
この時点でよそのクラスのヤンキーと5対6になった。
いや、私はケンカできない。実質4対6か?
公太はケンカが強い。ヤンキー達は6人で囲めば何とかなると思ってたんだろうけど、こうなれば話が変わる。
たまちゃんは、公太は一度に3人ぐらいしか相手にできない、と言っていた。でもそれは、ケンカ慣れした相手ならだろう。
高校に通ってる半端なヤンキー相手なら6人ぐらい相手にできると思えた。
実際、公太は6人に囲まれていても顔色ひとつ変えていなかった。
「ちっ。帰るぞ」鹿島は加藤たちをにらみつけてから教室を出ていった。公太を見なかったのは、優位が無くなった状態で公太とケンカしたくなかったからだろう。
三バカはほっとしたように顔を見合わせた。
それから私のところにやって来た。
「育ちゃん、ビックリしたよ」
「危ないから、ケンカ売らないでよ」
「育ちゃん、カッコいいな!」
三バカが緊張から解放されたテンションで私に話しかけてくる。
「みんな、助けてくれてありがとう」私は笑顔を添えてお礼を言った。これは本心だ。
公太を見る。唖然とした表情で私たちを見ていた。
「育、危ないことはやめてくれ」俺は窓越しに育に言った。
いつもの部屋の窓越しの逢瀬。
育はニヤニヤしている。
何か腹立つ。
「公太、嬉しそうだよ?」
「はあ? なわけあるか!」
予想外の出来事に驚いているだけだ。
育が加勢してきたことには驚いたが、まあ育だからな。
加藤たちまで加勢してきたことは予想外だった。いや、俺に加勢してきた訳じゃなくて、育に加勢しただけだろうけど。
でも、結果的に俺に加勢した形になった。
あいつらが?
「あいつら、育にいいカッコしたかっただけだろ」
育だからな。親分のカリスマ性には驚かされてばっかりだ。
「公太の正義がみんなに伝わったんだよ」育は嬉しそう。
でも、悪いけど絶対違う。
「公太は私のヒーローだから」
恥ずかしいこと言うのやめろ。照れるだろ!
「明日、加藤たちにお礼言おうね」
えー、嫌だ。
「公太」嫌そうな顔をしたら、育が叱るような口調をした。
「……、ああ……」
親分には逆らえない。
次の日の朝の教室。
俺は加藤達のところに行った。
彼らは緊張したような、怯えたような表情で俺を見る。
「おい、お前ら……。ありがとう」
俺が礼を言うと、彼らは気味悪がるような表情をした。
ほらな。だから嫌だったんだ。
育を見る。
育は保護者面して満足そうに微笑んでいた。
うっぜ。
鈴原のところに戻る。
彼女は何か話したそうだった。
俺は彼女の口元に耳を寄せる。
「良かったね」彼女は俺にしか聞こえないくらいの小さな声で言った。
そうだな。
俺は耳を離して、彼女に笑いかけた。
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