表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/59

第33話 夏の終わりLAP3

 


 海岸沿いの山道を走っていた。整備された観光道路。

 バイクを納車した次の日。日曜日。今日も幼馴染達は全員が集まっていた。

 山の麓が直ぐに海。海を見ながら峠道を走る。



 堤防にバイクを停める。

 階段状の堤防が波打ち際まで続いている。


 俺達幼馴染5人は階段状の堤防で海を見ていた。


 たまちゃんは波打ち際で階段に腰かけて海を見ている。

 かずくんがたまちゃんの座っている所より少し離れた一段上に座った。

 けいくんはたまちゃんを挟んでかずくんと反対側の少し上の段に立って海を見ていた。

 海を見ているのか、たまちゃんを見ているのか……。


 俺は彼らから離れた場所に立って海を見ている。

 育が俺から少し離れた場所に座った。


 誰もが波の音だけを聞いていた。


 育が何か言いたそうに俺を見たが、結局は何も言わずに海に視線を戻した。


 バイクに乗っているときは、身体は密着させているのに話ができない。




 帰り道、飛行場に寄った。

 陸自のヘリコプター飛行場。フェンス横の道路にバイクを停める。


 野外でヘリの整備が行われていた。

「観測ヘリかな?」

「そうだな。珍しいの見れたな」

 けいくんとたまちゃんがフェンスにかぶりついてヘリを見ている。

 かずくんはバイクに跨がったままそんな二人を見ていた。


 俺と育は俺のバイクの横に立って空を見上げていた。

 1機のヘリが飛び立つ所だった。

 細長いヘリで両脇に増槽のようなポットを付けていた。

「燃料タンクかな?」

「そうなんじゃないかな?」


「武装ポットだよ。攻撃ヘリだから」離れていたのに聞こえていたのか、たまちゃんが振り返って教えてくれた。

 実際は彼らほど興味はないので、ふーん、としか言いようがない。


 けいくんとたまちゃんはずっとヘリの整備を見ている。

 彼らが飽きるまで俺達はずっと待っていた。


「そろそろ帰る?」やっとけいくんがフェンスから手を離した。

 たまちゃんがかずくんのところに歩いていって、「ごめんね。退屈だった?」と聞いた。

「いや、大丈夫だよ」と彼氏は答えていた。

 そうとしか答えようがないよね。


「ヘリコプター好きなの?」

「んー、整備してみたい!」

「航空業界に就職するの?」

「違うよ。……自衛隊」

「……そうなんだ」

 そのまま二人の会話は途切れた。


「整備は得意だしね。誰かを守る仕事につきたい」けいくんがかずくんに言った。

 主語は言わなかった。

 この二人は既に話し合って、同じ道を選んだのだろう。


 戦えないやつを守る。それは育が始めた正義の味方ごっこだった。


 育が不安気に俺を見た。

 育は自分がどれだけ周りに影響を与えているか自覚していない。




「たまちゃん、かずくんに言ってなかったのかな?」

「言ってなかったんだろ? あの様子なら」


 いつもの窓際。

 電気式の蚊取り線香を窓際において蚊が入ってくるのを阻止している。

 そろそろ夜は肌寒くなる。窓を開けて話できる季節ばかりではない。


「みんなちゃんと将来の事考えてるんだ……」

「そうだな」

「かずくんの志望知ってるの?」

「裁判官か検察だろ?」

「知ってたんだ」

「決めたのは育だろ」

「……。子供のときに言ったことを真に受けられても……」

「そうだな。子供のときの結婚の約束を持ち出されても困る」やっと俺の困惑が理解できたか?

「いや、その約束は生きているから」

「何でだよ?」


「けいくんとたまちゃんも私が言ったから?」

「……どうかな?」多分そうなんだろうな。

 育は黙ってしまった。


「バイク代、バイトして返すから」俺は話題を変える。

「要らない」

「そうはいかないだろ」

「ん……、公太がバイト詰めたのって、私がバイクに乗りたいって言ったからだよね」

「いや、もともとバイクは買うつもりだったから」こんなに無理して買うつもりはなかった。


「返すとなったら、またバイトばっかしになるんでしょ? 公太……」

 そうなるな。

「ごめん。公太の負担になるつもりはなかった」

「負担じゃない。気にしすぎだ。俺がバイクほしかったから買っただけだから」

「言い訳、必死すぎない?」

「……」

「受け取らないから」

 黙るしかない。



「ねえ、公太も将来やりたいことあるの?」育は話を打ち切った。

「まだ決めてないな」

 俺にはかずくんみたいに正義を守る仕事や、けいくんやたまちゃんみたいに命を守る仕事に就くような、そんな大それた夢や志はない。


 俺は育のヒーローになりたかっただけ、だった。


「育は何かなりたいものあるのか?」

「公太のお嫁さん」即答だった。




 月曜日の朝。

 日が昇る前に玄関のドアを開けた。

 夏の日の出は早い。学校に行く前にやりたいことがあった。


「おはよー」育がいた。

 ライダーズジャケットを着ている。

「……おはよう」驚いた。

「公太、どうせ朝一で走りに行くと思って」そう言って笑った。

 バイク買ったばかりで、毎日でも走りたい。確かにわかりやすい行動だけど……。

「いつから待ってたんだ?」

「公太の部屋の明かりがついてから出てきたよ?」

 俺が起きる前から起きて待ってたのか?


「どこに走りに行くの?」

「A峠」土曜日に行った峠だ。


 俺はバイクを駐車場から押して道に出す。それからバイクに跨がった。

「乗っていい?」育が許可を求めてくる。

 このバイク代の一部は育が出している。それでも勝手に触ることすらしない。

「乗って」

 育はタンデムシートに跨がって嬉しそうに腰に抱きついてきた。


 裏道からA峠をのぼる。

 レーダーサイトを越えて、風車郡の駐車場にバイクを停めた。

 育を下ろす。育はヘルメットを脱いだ。

「気をつけて」

 俺はうなずく。ギアをローに押し込んでパワークラッチを繋いだ。




読んでくれてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ