第30話 intermission2
夏休みも半ばを過ぎた。
今日はメイド喫茶のバイトはシフト上の休みだ。
公太も今日はバイトが入ってない。
偶然じゃない。公太の休みの日に合わせて休みを入れた。
「今度の休み、遊ぼう」公太は鈴原と会う約束を入れているかもしれないと思いながらも誘ってみる。
「いいよ。みんなで遊ぶか」みんなと言うのは、幼馴染5人と言うことだろう。
と思っていたら由紀ちゃんも来ていた。
公太が呼んだのだろうか? 公太を見る。
「?」公太は何? って顔をした。公太じゃないらしい。
「私が呼んだんだよー」たまちゃんが言った。
「いつの間に、連絡先交換していたの?」
「俺も知ってるよ?」とけいくん。
「僕も」とかずくん。
公太を見る。
「俺も知ってる。俺が教えた」と、公太は悪びれずに言った。
公太もみんなも、由紀に甘すぎない?
近くの公園。けいくんがフリスビーを持ってきていた。
幼馴染立ちと遊ぶときは動ける服がいい。わかっていたのでキュロットのズボンを穿いてきた。
由紀ちゃんもズボンだ。たまちゃんは制服着ているとき以外はズボンしか見たことない。
みんなで円になってフリスビーで遊ぶ。
ただ円盤を投げてとるだけなんだけど結構な運動になる。
……幼馴染たちの遊び方がおかしい。
ディスクの飛ぶ速度が私や由紀ちゃんとは次元が違う。
私や由紀ちゃんに向かって投げるときは手を抜いているようだけど、それでも速すぎる。
そのうち動作も速くなってきた。ディスクをキャッチしてから投げるまでの予備動作が無くなる。取った瞬間に手首だけで投げてる。
さらには飛んでくる円盤の速度を殺さず、つかんだ腕をそのまま振り抜いて軌道を変えて投げ返す。腕だけでなく体を回転させてディスクの軌道を変える。
ここまでなら、幼馴染たちは体力あるなー、て感想だったけど……。
かずくんが高く逸れたディスクをジャンプしてキャッチ、着地する前に一回転して投げ返すというトリックを決めた。
ここから幼馴染たちのトリック合戦が始まる。
けいくんがディスクに背を向けて通りすぎてからキャッチしてそのまま腕を振り抜いて投げ返す。
たまちゃんが低い軌道のディスクをつんのめるようにキャッチしてそのまま低空で前方に宙返りした反動で投げ返す。
公太が横に逸れたディスクに飛び付いて、側転宙返りしながら投げ返す。
フリスビーってエクストリーム競技だったっけ?
私と由紀ちゃんはキャッチしてから、予備動作つきで投げてたけどね。
派手なトリックを連発して飛んでいく方向が荒れる。更に派手なキャッチが入る。
だんだんと疲れてきた。
まず公太のトリックが雑になり始める。そしてたまちゃとけいくんが疲れ始める。
たまちゃんとけいくんの二人は息がぴったりで、お互いを見もせずにディスクのやり取りをしていた。
それがついにたまちゃんがディスクを取りこぼした。
私や由紀ちゃんは何度も、特に由紀ちゃんは頻繁に取り損なっていたけど、幼馴染四人が取り損なったのは初めてだった。
彼らは派手なトリックを連発してたから、それは疲れてミスもするよね。と当たり前の事を思った。
でも幼馴染たちの反応は違った。みんなが信じられない、といった顔で呆然と固まった。
たまちゃんとけいくんが見つめ合ったまま動かない。
たまちゃんが取り損なったのはけいくんが投げたディスクだった……。
かずくんがたまちゃんに近づいて落ちたディスクを拾う。「ドンマイ、たまちゃん」と優しく声をかけた。
たまちゃんは泣きそうな表情でけいくんから視線を外す。
そしてけいくんはたまちゃんに視線を外されたことに傷ついていた。
いや、たかが遊びじゃん!
お互いを見ずにディスクをキャッチできる方がおかしいよ。
と言おうとして思い止まった。
それは言ってはいけない事に思えた。
由紀ちゃんが沈黙に耐えきれずに何か言おうとした。いつの間にか由紀ちゃんの隣にいた公太が、彼女の肩に手を置いてそれを止めた。
公太も何でそこにいるの?
「もー、疲れたー! 休憩しよ!」私は体を伸ばしながら明るくそう言った。
「ごめんなさい……」たまちゃんが小さな声で謝った。
それからコンビニで買ったアイスとジュースとスナック菓子で菓子パをした。
公太がレジャーシートを持ってきていた。
箱入りのパーティーアイスはちょうど6本だった。
たまちゃんはかずくんにくっついて甘えている。かずくんはたまちゃんを充分に甘やかしている。
かずくんに甘やかされて、たまちゃんは少し元気を取り戻したようだ。
けいくんはそんなたまちゃんを見てほっとしている。
この三人の関係は複雑だ。恋愛と友情に優先順位をつけない。
「恋人ができても変わらない友情って素敵ですね」由紀ちゃんが言った。吹っ切れた彼女は空気も読まない。
「由紀ちゃん、敬語はやめて」とけいくんは違うことを気にした。
そして、「変わるよ? 少なくとも俺はかずくんに遠慮している」と続けた。
「遠慮は不要だよ?」かずくんが返す。
「そんなわけいくか」
「あ、それで最近けいくんは一緒にお風呂に入らなくなったんだ?」たまちゃんが爆弾を落とした。
由紀ちゃんは、驚いている。
幼馴染たちは特に驚いてない。
「そうだよ。気づけよ」
「え……、付き合うまでは一緒にお風呂は入ってたみたいに聞こえるけど……」由紀ちゃんが何か勘違いしてるのかという風に尋ねる。
「そうだよ?」たまちゃんがあっさりと肯定する。
「あ、公太が私とお風呂は入らないのも鈴原と付き合ってるから?」公太に尋ねる。
「付き合ってなくても入らねーよ!」怒られた。
「前は一緒に入ってたじゃん」
「小学生の時な」
高校生にもなったらお風呂は一緒に入らないらしい。
「一緒に寝ることが減ったのも?」たまちゃんが私たちの会話を無視してけいくんと話を続ける。
「それもどうかと思うけどね」
「……駄目なの?」たまちゃんがかずくんに尋ねる。
「いいよ?」
「いいのかよ!」けいくんがツッコむ。
「家族が一緒の布団で寝たからと言って、嫉妬しないよね?」かずくんが軽く返す。
由紀ちゃんは納得いかない顔で聞いている。
「いくちゃんとこうたくんも同じだろ?」かずくんが私たちに話を振ってきた。
「私と公太は兄弟じゃないよ?」
「一緒に寝ることもあるよね?」
「今でもたまに一緒には寝るけど」
「寝るんだ?!」由紀ちゃんが驚く。
「じゃあ、けいくんと二人でツーリング行ってもいい?」
「いいよ」かずくんはあっさりと許可する。
「いいって」たまちゃんがけいくんに言った。
「いや、でもな」
「私がかずくんと付き合う前から、夏休みにツーリング行く約束してたよ?」
「泊まりの旅行? バイクで?」由紀ちゃんがツーリングの意味を尋ねる。
「バイクで旅行することだよ」けいくんが答える。
「別の部屋取れば問題なくない?」
「いや、テント」
「テントで旅行するの?!」
「いいのかよ」けいくんがかずくんに念押しする。
「いいって言ってるよね?」
こうして二人は次の日にバイクにタンデムして旅立った。
「学校始まるまでには帰ってくると思う」そう言い残して。
あの二人は結構お金持ってるから旅費には困らなさそう。
「……俺のバイク……」公太が呟いた。
「一緒にバイト頑張ろう!」
読んでくれてありがとうございます。




