第28話 夏休みDAY3
「いくちゃん、今日も暇なんだ?」遊びに来たかずくんが訊いてきた。
ケンカ売ってる?
「にらまないで、こわいから」ケンカの強いかずくんがこわがるフリをする。……あんまりフリには見えなかった……。
今日もけいくんの家のガレージに来ている。今日は初めから汚れてもいいくたびれた服を着てきた。
こんなみっともない服装は人には見せられない。幼馴染みを除いては。
まあ、私ぐらいの美少女になれば、どんな汚い服着ていても美しさは隠しようがないんだけどね!
夏休みの1日。
私とけいくんとそしてたまちゃんが、けいくんの家のガレージに集まって公太のバイクの整備をしていた。
私は部品の拭き掃除位しかできないんだけどね。
そこにかずくんが顔を出した。
幼馴染みで、ここにいないのは公太だけだ。
クーラーの無いガレージは暑い。全開のシャッターや窓から入る風は大して涼しくもなかった。
今日も暑い1日になりそうだ。
「かずくん、塾は?」
「今から行くところ」
「大変だね、優等生は」
「うん、いくちゃんの期待に応えるのは大変だよ」
「……、は?」私とかずくんが塾に行くのと何の関係が?
「覚えてないの?」かずくんは苦笑した。
「親分は思い付きで理不尽な命令してくるからね」たまちゃんはわかっているらしい。
何の事?
「子供の頃に言った事だからね。仕方ないよ」けいくんが私をかばう。
いや、何の話かわからない。
わかってないのは私だけ?
「いくちゃんが言ったんだよ。かずくんは頭いいから、悪い奴らを裁判で全員有罪にしちゃおうってね」
……、そんな頭の悪そうなこと言った?
「警察官って選択肢もあったけど、司法試験の方が頭良さそうかなって」かずくんが言う。
頭悪そうな発言。その発想が充分頭悪い。そんな発想したのは……私か!
「ちょっとくらい頭が良くてもなれるもんじゃないけどね」
「かずくんならだいじょうぶだよ!」たまちゃんが能天気に言う。
いや、そんな簡単なもんじゃないよね?
でも、かずくんはたまちゃんの根拠の無い励ましにほっとしたような表情を浮かべた。
あ……、かずくんにとってこの無条件の全肯定がたまちゃんの魅力なのか……。
そうは見えなかったけど、かずくんは誰かに大丈夫って言ってもらいたいくらいには追い込まれていたのか?
「実際、大学や司法試験に落ちることより、いくちゃんの期待に応えられない方がこわいからな……」かずくんは呟いた。
……かずくんを追い込んでいたのも私か……。
かずくんが塾に行った後も私達三人は整備を続けていた。
「公太のバイクって、材料費以外とらないの?」
「そのつもりだよ?」けいくんは当たり前と言う風に言う。
「いいの? これに何時間かけるの? その間、バイトできないよね?」
「整備の実習にもなるしね」
「……、技術者としてのプライドはいいの?」技術者として技術を安売りできるのだろうか?
「……俺のプライドよりも、友達が喜んでもらえる方が嬉しいかな」
「私も!」たまちゃんも同意する。
私の幼馴染みたちは人が良すぎる。
「二人で何時間くらいかける見込み?」
「いいよ、いくちゃんにも手伝ってもらってるし」
「いいから教えて」
「……50時間くらいかな?」
「ごめん、明日から手伝えない。時間ができたら来るけど」
「俺達はそんな事望んでないけど……」
「私は、私の男が友達に借りを借りっぱなしってのが気に入らないの」
「……いくちゃんだよね……」たまちゃんが呆れたように呟いた。
「今日から夏休みの間バイトに入ってくれる、育さんです」
オーナーが育を紹介した。
「よろしくお願いします」メイド服の育が頭を下げた。
「聞いてねー!」思わず叫んでしまった。
「公太くん、育ちゃんの友達なんだよね。前に来たことあるよね」
「何、この娘。可愛いー!」
「天使はいたんだ?!」
同僚たちが浮き足立ってる。だからあれほど自分の影響力を自覚しろと言ったのに!
「公太は私の彼氏だから手を出さないでくださいね」あざとくアピールした。
「違うから」
「公太、うるさい」
「あれ? いつも来ている奈々ちゃんは?」同僚の一人が鈴原の名前を出した。
「鈴原が俺の彼女ですから」
「公太、うるさい」
スタッフに迷惑行為をするストーカーをつまみ出していいだろうか? バウンサーとして。
育はドヤ顔で、俺に笑いかけた。
育の微笑みには勝てない。
「何でいきなりバイト始めたんだ?」
いつもの窓際。
「欲しいものができたから」
「何?」
「内緒」育はイタズラっぽく笑う。
「……、俺と同じバイトにしなくてもいいだろ?」とは言ったが、目の届くところにいてくれた方が安心か。
「だって、夏休みずっと忙しいからって遊んでくれないじゃない」
「……ごめん」いや、バイク早く欲しいんだよ!
バイクに乗せろって言ったのは育だろ……。
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