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第27話 夏休みDAY2

「私メイド喫茶って初めて」夏休みのある1日。

 私はメイド喫茶のドアの前で呟いた。

「私もだよ」私の隣で飯島由紀がそう返した。


 クラシカルな木製扉の前。

 昼下がりの午後。


 夏の日差しが暑い。早く扉を開けてクーラーの効いた店内に入ればいいのだけど、ちょっとためらった。


 何かメイド喫茶って入りづらくない?

 と、思っていたら、

「入ろ?」と由紀ちゃんがあっさりと扉を開けた。

 吹っ切れた由紀ちゃんは怖いもの知らずだ。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

 本当にそんな事言うんだ?


「初めてのご帰宅ですか?」

 何て違和感のある日本語なんだろう。


 中は普通にお洒落な喫茶店だった。クラシカルな内装。

 風俗営業ではなく、喫茶店の給仕がメイド服を着ているだけな感じ。

 そのメイド服もクラシカルなデザインだった。


 まともな店みたいで安心する。


「カウンター、いいですか?」由紀ちゃんはカウンターをリクエストした。


 バーカウンターみたいなのではなくて、ちゃんとしたオープンの厨房。

 キッチンスタッフはメイドではなく男性だった。


 カウンターに座ると、目の前の給仕服を着た男性スタッフににらまれた。


 いや、公太なんだけどね。


「公太くん、久しぶり」由紀ちゃんが小声で公太に話しかける。


「……、お嬢様。仕事中ですのであまり身内感は出さないでいただけますか?」


 公太は私に何のバイトをしているか教えてくれなかった。今ならわかる。こうやって押しかけられると恥ずかしいからなんだね。


 でも何故か由紀ちゃんは公太からバイト先を聞き出していた。


 公太、由紀ちゃんに甘くない?


 私と由紀ちゃんは普通に初めてのメイド喫茶を楽しむ。

 メイド喫茶と言えばこれだよね、て事でオムライスを注文する。

 可愛いメイドさんと美味しくなる魔法を一緒にオムライスにかけた。

 もちろんケチャップでのお絵描きつきだ。


「美味しい! でもいつもの公太のオムライスと違うね?」

 オムライスは厨房の公太が作った。


「店のレシピで作ってるからな」


「公太くんのオムライス食べたことあるの?」

「公太は色々作れるよ?」

「あ、私も食べたい。公太くんのオリジナルオムライス」

「食べに来るか?」

「うん、行く」


 何? 由紀ちゃん、私を通さずに直接公太の家に行く約束取り付けてる?


「育ちゃん、こわいこわい」由紀ちゃんは楽しそうにからかってくる。


 オムライスを食べ終わったあと、何も注文せずに長居するのは気が引けたので飲み物を頼むことにする。


「公太、お薦めある?」

「コーヒーかな。こんな店に珍しくドリップ式だから」


 公太は丁寧にコーヒーをドリップする。

「ガラスの玉みたいなの使わないんだ?」

「サイフォンな。失敗しないからいいよな」

「公太は使わないんだ?」

「普通、店じゃないと持ってないだろ?」

「公太くんはドリップの方が好きそうだね? やっぱりドリップだと違う?」


 由紀に話しかけられて公太は嬉しそうに微笑む。

「ドリップの方が淹れてる感あるだろ? 豆の種類や状態で淹れ方変えれるし、淹れる人の個性も出せる」


 ……由紀は男が喜ぶ質問の仕方がわかってるらしい……。


 コノ、ビッチガ……。


「……育。こわい」

 え? 公太には怒ってないよ?


 可愛いメイドさんにコーヒーが美味しくなる魔法をかけてもらう。

 ミルクと砂糖を入れただけなんだけどね。


「公太くんのお友達? こんな可愛いお嬢様、実在するの? 天使なの?」

 いや、私はここにいるけど……。このメイドさんちょっとテンション高くない?


「こんな店で働いてるだけあって、みんな可愛いものが大好きなんだ」公太がフォローをいれてくる。

「……育ちゃんの事、ちゃんと可愛いって思ってるんだ」隣の由紀ちゃんが呟く。

 私の事を可愛いと思わない人なんているの?


「公太くんのお友達って、可愛い娘ばかりなんだね」

 ? 今何て言った?

「ええ、職場も可愛い娘ばかりですしね」

 ……公太、社交辞令言えるんだ……。



 その後も由紀ちゃんと会話しながら公太の働いてるところを見ていた。

 結構忙しそうであまり話ができない。公太は常連を特別扱いしすぎないタイプの店員らしい。……私は常連でもないけど。


 公太が手慣れた様子でスイーツを飾り付けていくのを見とれていた。


「公太くん、写真撮っていい?」由紀がスマホを取り出す。

「……チェキ券方式なんだ」

 お金とるんだ。

 逆にいえばお金払えば写真とらせてくれるんだ。


「スマホとかでとられると女の子たちの写真が勝手に流出するからな」

 それでチェキか。


「買う」由紀があっさりと買った。

 メイドさんがチェキを撮ってくれる。

 公太と由紀ちゃんはカウンターから身を乗り出して顔を近づける。片手の親指と人差し指をハートの片側の形にして二人で一つのハートを作った。

 二人ともいい笑顔で写真におさまった。


「普通はメイドさんと写真撮るんじゃないの?」

「普通はな」

「公太もお客さんと写真撮ることあるんだ?」

 公太は返事をしなかった。

 あるんだね。


「私も公太くんとチェキ撮ったよ。上がってからだけどね」メイドさんも仕事が終わってからプライベートで公太とチェキしたらしい。

「公太くん、みんなに人気あるよ。ケンカ強いからみんな安心して働けるからね」

 どういう事?

「キッチンもできるバウンサーって、できる男だよね」



「バウンサーって何?」メイドさんが去ってから公太に訊いてみる。

「俺はキッチンスタッフで雇われている」と言ったきり教えてくれなかった。

「お店の用心棒らしいよ」スマホをいじっていた由紀が教えてくれる。ググってたな。


「トラブル多いの?」

「無いよ。たまに、はしゃぎすぎた旦那様をお送りするくらいだ」

 あるんじゃん!

「あと出待ちのストーカーを追い払うくらいかな」

 店の外にいるのは旦那様と呼ばないらしい。

「待ち伏せされると、みんなこわがって帰れなくなるからやめて欲しいよな」


 公太の上がりまで後一時間位。一緒に帰ろうって言ったら出待ち扱いされるのかな?

 ……今日もバイト終わってから鈴原に会うのだろうか?


「お帰りなさいませ、お嬢様」

 扉につけてあるベルの音とともに木製のドアが開く音がする。

 公太がドアの方を向いて優しく微笑む。


 え?


 私と、由紀ちゃんも振り返って入り口を見る。


 鈴原がいた。


 私服の鈴原はとても美少女だった。学校での彼女と違って可愛くしてきている。

 公太に会うため?


 鈴原は私達を見て驚いた顔をするが、すぐに視線を外す。メイドさんに案内されて窓際のテーブルに座った。


 公太は鈴原から視線を外すと紅茶を淹れ始めた。

 メイドさんがやってくる。

「いつもの」

「はい」公太は短く答えた。




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