第26話 夏休みDAY1
夏休みに入った。
私はとても暇をしていた。
全部公太が悪い!
公太が夏休みのほとんどにアルバイトを入れたせいだ。
「公太くん、この夏休みのアルバイト代でバイク買うつもりだからね」けいくんが作業の手を止めること無く言った。
私はけいくんの家のガレージにいる。
暇潰しに散歩しているときにけいくんの家を覗いたらガレージに彼がいるのを見つけたから寄った。
私はパイプイスに座って、バイクの部品をいじっているけいくん相手に不満と言うか、愚痴と言うか……、愚痴を言っていた。
幼馴染みは嫌がることなく私の愚痴に付き合ってくれている。
けいくんは油にまみれた白の作業つなぎを着て部品をいじっていた。
「いくちゃん、暇なら手伝う?」彼が訊いてくる。
「何で私が?」機械の整備なんかできない。そもそも何で私がそんな事しなきゃいけないの?
「これ、こうたくんのバイクなんだけど」
「え? もう買ったの?」
「お金はまだ貰ってないよ。こうたくんがバイト代入ったら引き渡すつもり。それまでに整備終わらすから」
「新車じゃないんだ」
「新車高いよ?」
「中古でもバイク屋さんで買うんじゃないの?」
「ちゃんと整備された中古は高いからね」
「ちゃんと整備されてない中古仕入れたんだ?」
「そう。だから俺が整備してる」
「一人で?」言外にたまちゃんは何しているのか訊いた。
「……、たまちゃんはかずくんとデートだよ」
「……いいの?」
「たまちゃんが幸せならそれでOKだな」
……納得いかない。
「……寂しいね、けいくん」
けいくんの作業する手が止まった。手元をじっと見たまま動かない。
……言わなくてもいいことを言った……。
「いつまでも兄弟ごっこしてる年でもないしな」そう言って私を見る。そして寂しそうに微笑んだ。
「……手伝うよ」
「うん。この部品、全部ウエスで拭いて」
大量の油まみれの部品を渡された。
「私と公太は兄弟じゃないわよ」部品を拭きながら言う。
けいくんは笑った。
夕方、ばらされた部品を集めて片付けをしているときにかずくんとたまちゃんがやってきた。
「あ、いくちゃん、やっほー。来てたんだ?」たまちゃんは楽しそうに挨拶してきた。
たまちゃんはいつも楽しそうだけど、かずくんの隣の彼女はいつもより楽しそうだった。
「うん。お帰り、たまちゃん、かずくん」
「ただいま。娘さんをお返しするよ」かずくんが冗談めかして言った。
「誰がお父さんだ」けいくんも軽く返す。
「デートでどこ行ったの?」参考までに訊いてみる。
「んー、カフェ行って、カラオケ行って、ラブホ行ったかな」
「は?」最後、何て言った?
かずくんが苦笑している。
ストレートすぎるノロケ聞かされてる?
けいくんは無表情のままスルー。
「ラブホは初めてだよ。いつもはどっちかの部屋でしてるから、面白かったよ?」
いや、具体的に聞きたかったわけじゃない。
「待って、たまちゃん」慌ててたまちゃんの口を手でふさぐ。
「ふん?」
「報告しなくていいから」興味無さそうなふりしてるけいくんに効いてるから。
「こうたくんは?」かずくんが話題を変えてくる。
「バイト。夏休みになってからずっとね」
「最近遊んでないな」
「いくちゃんも遊んでないの?」たまちゃんが無邪気に訊いてくる。
ちょっと黙らそうかな?
たまちゃんがビクッとする。
「いくちゃん、こわいこわい」かずくんがたまちゃんをかばうようにおどけて言う。「バイトも毎日じゃないでしょ?」
「ううん、毎日だね。一日中」
「会ってないの?」
「夜は話するけどね……」部屋の窓越しに。
「明日もバイトみたいだから、明日もここに来るよ」けいくんに明日も暇潰しに付き合ってもらおう。
「私も明日は来るね!」たまちゃんも来るらしい。
私はかずくんを見る。
「ごめん。塾があるんだ」かずくんは申し訳なさそうな顔をした。
夏休みになってから、みんな忙しくって幼馴染み全員が揃うことはなかった。
「かずくんはバイトしてないんだ?」
「してないね」進学校だものね。
「けいくんとたまちゃんは?」
「バイトしてないけど、バイクの整備や改造で小遣い稼ぎしてるよ」
二人はお金とれるレベルなんだ?
「たまちゃんなんて、一回で7,8万は稼ぐよ」
「何日で?」
「2,3時間」
「そんだけで7万稼ぐの?」
え? バイクの整備の話だよね? そんなにお金もらえるの?
「たまちゃん、ヤバいバイトじゃないよね?」
「バイクだよ? それに準備に100時間とかかかってるから、そんなに割り良くないよ?」
「新製品のマフラーとか出たときに、それを最適化するプログラムを組んでるんだよ。一回セッティングするまでに時間かかるけど、二回目からは出来上がってるプログラムを移植するだけ」
「一回目のセッティングが大変なんだよ? 今回のセッティングは100時間は夜中に峠走ったよ?」
「ひとりで?」
「俺はプログラムは得意じゃないからな」けいくんが言った。
峠はたまちゃんが一人で行ったらしい。
「バイクのレンタル代とか、サーキットの走行会とかで、費用もかかってるから8万円はそんなに高くないと思うけど? それだけのパフォーマンスは出てるし」たまちゃんは楽してお金もうけしてると思われるのが嫌らしい。
それもそうか。
「と言うことがあったのよ」私は昼間の事を公太に話していた。
夜の窓越に。
「かずくんも評判いいよ、走り屋に」
「そうなの?」
「たまちゃんほど効率良く稼げないけど。データじゃなくて、実物を扱ってるからね」
手作業だもんね。
「……、え? そんな二人からバイク買うの? 高くならない?」
「友達価格で売ってくれるらしい。……ほぼ仕入価格で……」
「……いいの?」
「良くはないんだけどね。実際に払えるお金が貯まってない……」
「それで夏休みはバイト詰めてるの? 鈴原は放っとかれてるんだ?」
私も放っとかれてるけど。
「いや、鈴原とは毎日会ってる」
「え? いつの間に?」
「早番のときは夜に、遅番のときは午前中に」
「?! 一日中バイトじゃなかったの?!」
「そんなわけあるか」
「……卑怯! 酷い! 嘘つき! 公太の浮気者ー!」バイトだと思って公太と遊ぶの我慢してたのに何それ?!
「いや、浮気じゃないから」
読んでくれてありがとうございます。
良いねくれた方、ありがとうございます。言ってみるもんですね。




