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第24話 友達の作り方extra2

 

 昼休みの校舎がざわつきだした。

 私は友達の美和と博子とまったりとした昼休みを過ごしていた時だった。


 誰かが公太の名前を口にした。


 興奮して教室に入ってきた男子が公太の事を周りのクラスメイト達に吹聴している。


「何かあったの?」私は席から立ち上がって、尋ねた。

 胸騒ぎとかイヤな予感とか、そんなふんわりとした雰囲気ではなかった。


 公太が女子トイレで何人か女の子を殴ったらしい。そしてずぶ濡れの女の子をどこかに連れ去った。


 そう男子が興奮を隠さずに話した。

 自分に関係ないできごとを面白がっている話ぶりだった。


 鈴原を見る。


 鈴原は自分の机に座ったまま、呆然としていた。


 この女は自分の彼氏のトラブルにもただ立ちすくむ事しかできないのか。


 私は走り出していた。


 女子トイレの前には人だかりができていた。

 既に事は終わっていた。もう当事者は誰もいない。


 人だかりは先程まで行われていたショーの余韻を楽しんでいる観客のように見えた。


 会話の中から公太の名前を拾う。


 公太は生活指導室に連れていかれたらしい。


 階段を駆け下りる。生活指導室がどこにあるのか知らない。そんな場所は私には縁がなかった。


 多分、職員室の近くだろうか?

 わからなければ職員室に押し掛けて訊くまでか。


 生徒指導室は職員室の隣だった。


 廊下を走ってきた勢いのままドアを開けて室内に飛び込む。


 公太と生徒指導らしい強面の体育教師が机をはさんで座っていた。

 二人が驚いたように私を見る。


「公太!」

 無意識に叫んでいた。

 いや、相手が違う。

 私は教師をにらみつける。


「どういう事ですか! 何で公太がこんなとこに呼び出されるのですか! 公太が何をしたっていうの! 公太は悪くない!」無意識に教師の襟首をつかんで締め上げていた。

「見た目や噂で判断しないで! 公太は絶対に悪くない!」


 何があったのかは知らない。公太が何をしたのかは知らない。

 でもそんなことはどうでもいい。


 理は公太にあるに決まっている。

 非は全部相手にある。


 教師は驚きすぎて言葉を失っている。強面の癖に私に気圧されている。


「公太に責任をとれと言うなら私がとる! 公太がしたことは全部私の指示だから!」

 止まらない。


「責任なら私がとる!」


「育、落ち着け」立ち上がった公太が冷静な顔をして、私と教師の間に手を差し込んだ。


 私は教師から手を離した。

 教師はホッとしたようにイスに体重を預けた。


 全力で走ってきた私は息が切れていた。深呼吸をする。


 公太は開けっ放しのドアを閉めた。


「転校生と知り合いなのか?」教師が公太に尋ねる。転校生とは私の事か。


「小学校の時からの幼馴染みです」公太は普通に答えた。


 ……、あれ?


「えっと……」教師は私に何か言おうとして言い淀む。

「秋山です」公太が私の名前を教師に伝えた。


「秋山、落ち着け。宮野が悪くないことはわかっている」


 ……やらかした……。


「こいつは筋のとおらないことはしない。……やりすぎる感はあるがな……」

「大した事無いですよ」

「相手に怪我させている。問題が大きくなったらどうするつもりだ?」

「なりませんよ。出るとこ出ても、相手は傷害罪。僕は正当防衛の要件を満たしてます」


 教師は呆れたようにため息をついた。


「ねえ、公太。何があったの?」


「知らずにあんだけの啖呵切ったのか?」教師が呆れた目で見てくる。


「……、由紀が保健室にいる。行ってやってくれ」


 由紀?!


「由紀ちゃんを助けたの?」

 公太はうなずく。


 ……。

 由紀は危うい。さんざん公太にそう警告されていた。


 これは私のミスだ。どこか甘くみていた……。


「ごめん。公太……」公太の顔を見れない。


「謝るのは俺にじゃない」いつもと違って、暖かみの無い声。

「そうだね」謝るのは由紀にか。どこか由紀を軽くみていた。


 もう一度教師に向き合う。

「公太に処分があるなら、代わりに私が受けます。子分の責は親分である私がとります」

 公太が頭を抱える。


「何を言ってるんだ、秋山?」教師が理解しがたい、て顔をする。


「ごめんね、公太。由紀を守れなかったのは私のミスだから。公太は気にしないで」


 困り顔の公太をおいて生活指導室を出る。

 保健室に向かう。


 ……保健室ってどこ?




 由紀は保健室にいた。保健室で借りたジャージを着ていた。うなだれてベッドに腰かけている。


 濡れた制服はハンガーにかけて干してあった。


「ごめん、由紀ちゃん」座っている由紀の頭を抱いた。


「ごめん、由紀ちゃん」もう一度言う。「由紀ちゃんの事、軽くみていた。公太に、由紀ちゃんから目を離すなって言われてたのに軽く考えていた」

 由紀は黙って私の胸に顔を埋めている。


「公太が間に合わなかったのは私のせいだから。公太は悪くない。恨むなら私を恨んで」


「……恨んでないよ……。育ちゃんも……、公太くんも……」


 由紀の母親が迎えに来るまで、ずっと由紀を抱きしめていた。




 家に帰ってからずっと部屋に引きこもっていた。

 カーテンを開けられない。カーテンを開けると公太の部屋が見える。

 公太に合わせる顔がない。


「育ー、ごはんよー!」階下から母親の声がした。

 親に心配かけるわけにはいかない。

 居間に降りた。


 テーブルに両親と一緒に公太が座っていた。

「公太?」

「あー、遊びに来たら食事に誘われた」


 えっと、合わせる顔が……。



 公太は普通に両親と馴染んでいた。子供の時と変わらずに……。



「公太くん、泊まってく?」母が勧める。

「あ、はい。……、一回家に帰って寝間着に着替えてきます」公太は特に考えずに答えていた。


 もう子供じゃないから一人で寝ろとか言ってたよね?



 明かりを消した部屋。

 二人で一緒の布団に入っている。

 何を話していいかわからない。もう寝てしまおうか?


「育」公太が静かに話しかけてきた。

「何?」

「ありがとう」

「……何が?」

「教師から俺をかばってくれて」

「……」いや、私の先走りだったよね?


「凄い啖呵だったよ。流石親分、男前だね」

 もうやめて……、恥ずかしいから。


 暗くて顔を見られる筈がないのに、布団を被って顔を隠した。




読んでくれてありがとうございます。

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