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第23話 友達の作り方extra1

 

 何日か穏やかな日々が続いた。

 学校では育も由紀もあまり話しかけてこない。『あまり』って言うところが問題なんだけどな。


 育よりむしろ由紀の方が頻繁に話しかけてくる。挨拶程度だけど。


 ケンカもあまりしない。こっちも『あまり』なんだけどな。



「鈴原と話させて」

「これ以上鈴原を悪目立ちさせるな」

「挨拶するぐらい問題ないでしょ?」

「育と話するだけで目立つんだよ」

「そんな事……」

「自分が一挙一動注目される美少女だってこと忘れんなよ!」育の反論を被せるように抑えた。

 育はビックリした顔をしてから、嬉しそうな顔をした。


 誉めてないから。

 いや、誉めたか?


 夜の窓際。

 お互い自分の部屋にいながら直接話ができるから便利な距離だよな。

 そろそろ虫とか入ってきそうな季節だが。


「それより由紀にあまり俺に話しかけないように言ってくれ」

「言ってるよ? 私の男に馴れ馴れしくするなって」

「……何言ってんの?」

「何か生暖かい目で見られるんだよね……」

 うん。可哀想な子にしか見えない。


「いや、育と仲いいだけでも目立つんだよ。俺とも話してたら悪目立ちもいいとこだろ」

「ふーん。由紀に名前で呼ばれて嬉しそうにしてたじゃん」育がジト目してくる。

 いや、ま、それはね……。


 だからこそ由紀にも、もちろん育にも俺のせいでトラブルに巻き込まれてほしくない。


「自分で言えば?」

「由紀には電話でもメールでも言ってるだけど、全然聞いてくれない」

「……電話やメールしてるんだ……」育の目が冷たい……。

「えー」そこで不機嫌になるのかよ。



「そっちに行っていい?」

「何でだよ?」

 育はたまに俺の部屋に来る。この前一緒に寝てから味をしめたようだ。


「飛び移るよ?」育が窓枠に片足をかける。

「わかったから止めろ!」

 質の悪い脅しを覚えやがった。

 いや、本気で拒否しない俺も悪いんだけどな。




 飯島由紀の事は気を付けていたつもりだ。


 周りから見たら育の取り巻きに見えないこともない。揚げ句、不良をバックにしてる。

 いや、俺は不良じゃない!


 由紀は危ういところに立っていた。

 由紀はそれを自覚しながら改める気はないように見えた。

 いったい何が彼女をそうさせたのか?


 ……育だな……。


 迷惑なカリスマだよ、育は……。




 言い訳をするなら俺は手一杯だった。

 鈴原は守らなければいけない。これは最優先だ。

 そして喧嘩っぱやくて影響力が強い割に喧嘩が弱い育を守らなければいけない。


 それに加えて何か吹っ切れた由紀までも守るなんて俺には荷が重すぎた。


 異変に気づくのが遅れた。

 昼休み。

 多分由紀はトイレに立ったのだと思う。

 その割に戻るのが遅い。

 育は能天気に友達と談笑している。


 由紀の事は気を付けろとあれほど言ったのに……。

 俺達の親分は大物過ぎる。


「少し外す。教室からでるなよ」鈴原に声をかける。彼女は読んでいた本から顔を上げてうなづいた。


 早足で廊下を歩く。

 雰囲気の悪いところは目立つ。

 廊下端のトイレのところが不自然に人が避けている。


 躊躇無く女子トイレに入った。

 入り口にいた女子が慌てて俺の進路をジャマしようとしたので手で払った。壁にぶつかってから床に倒れるが、捨てておく。


 女子が三人、目に入った。

 ドアの閉じられた個室の前に固まって立っている。掃除用のホースを持って。

 ホースから出た水は個室の上部から中へ飛ばされていた。


 そいつらは勘に障る笑い声をあげていて、俺に気づいていない。


 一気に距離を詰める。

 直前でやっと俺に気づいて驚いた顔をした。


 ホースを持っていた女の襟首をつかんでトイレのドアに押し付ける。

 手からこぼれたホースが床に水をぶちまける。


 俺は女の襟首を引き寄せ、一旦女の体とドアの間に隙間を作る。

 改めて女の体をドアに叩きつけた。


 胸と背中を強打された女から悲鳴にもならない声が漏れる。

 あとの二人をにらむ。

 恐怖に固まっている。

 そいつらに向けてつかんでいた女を投げつけた。


 投げられた女の体に押されて、二人は床に倒れる。


 個室のドアを開ける。

 中にずぶ濡れの由紀がうつ向いて立ちすくんでいた。


 重なって倒れている三人に近づいて見下す。


 巻き散らされたホースの水が三人の服を濡らしている。


「おい。今度由紀に手を出したらこんなもんじゃ済まさない」


 三人は声も出せずにうつ向いている。


「陰で嫌がらせしてもムダだぞ。証拠の有り無しに関係なくお前達に仕返しをする。お前達が関係ないとわかっていても仕返しする」


 理不尽に思えるかもしれないが構わない。

 こいつらは由紀に理不尽な仕打ちをした。こいつらは自分が理不尽な目に合わないと、自分が何をしたかもわからないだろう。


 それにこう言っておけば誰かが由紀に手を出そうとするのを止めるだろう。

 こいつらがどれだけ役に立つかはわからないが。


「言っておくが俺は本気だ。俺は自分の発言は絶対に守る」


 もうこいつらに興味はない。

 由紀のところに戻る。

 ずぶ濡れの由紀はうつ向いたまま自失していた。濡れていてわからないが泣いてはいないようだった。

 俺はシャツを脱いで由紀の頭から被せた。

 由紀の肩を抱くようにトイレからでる。

 入り口で座り込んでいた女が恐怖に震えて端に寄った。

 トイレの前には遠巻きに人だかりができていた。


 野次馬たちはトイレで何が起きているか薄々わかっていたはずなのに何もしなかった。


 ホント、下らない奴らだ。


 俺がにらみつけると奴らは目を反らして通り道を開けた。


 とりあえず保健室に連れていった。

 保健室に入るまで由紀には頭からシャツを被せていた。ずぶ濡れの由紀を晒し者にするつもりはない。


 外は騒ぎになっていた。

 保険医はすぐに理解して由紀を引き取ってくれた。


 由紀はずっと喋らなかった。

 俺も何も声をかけられずにいた。


 育に何と説明しよう?

 憂鬱になった。




読んでくれてありがとうございます。

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