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第22話 友達の作り方return3

 

「むー」窓辺で育が膨れっ面をしている。


 俺の部屋の向かい側の家の窓。俺の部屋と育の部屋はほぼ向かい合わせになっていて、飛び移れそうな位の距離しかない。


 今日は育とその友達に家に押し掛けられた。まあ、昼御飯を作らされただけだったが。

 食事の後にお菓子も出したが、早々に育たちは育の家に帰った。

 育の友達の二人が居心地悪そうだったので気の毒だから帰らせた。


「何であの子達、他人の噂信じて自分の目で見ないかなー」向かいの部屋窓の棧に頬杖をついて育は何度目かのグチを口にした。

 夏が近づいて日も長くなってきた。夕食後の薄明かりの中、窓越しに俺たちは話をしていた。


 育はあの子達呼ばわりの時点で上から目線な事に気づいてないよな。


「だから余計なことはするなって言ったろ?」

 ああいう態度とられると俺だって傷つくんだけど……。

「ごめん。今回は私が甘かった」

「うん。いいよ」


「……て言うか、由紀と仲良すぎなかった!?」何故か急に育は不機嫌な声をあげる。

「は? 普通だろ?」

「ずっと由紀ちゃんと楽しそうに料理してた!」

「いや、育も誘っただろ。嫌がったのは育だ!」

 昼御飯も、その後のお菓子も由紀と作った。育も誘ったのにどっちも手伝わなかった。

 なのに何で非難されなきゃいけないんだ?


「私以外の女の子と仲良くするのイヤ」

「……、たまちゃんは?」

「……たまちゃんは許す」

「何でだ?」

「うちのクラスにろくな奴いないって言ったのは公太だよ」

「……、おい、由紀は育の友達かもしれないけど、俺の友達でもあるんだ。……ダチの悪口言うな」

 まあ由紀とは今までまともに話した事無かったからな。

 会って二日目でかずくんに告白して、一瞬で玉砕するとか面白すぎる。


 育は黙ってしまった。

 拗ねている育はめんどくさくて、そして可愛かった。

「育、拗ねるなよ」

「……公太、たまに怖いんだけど……」

「はあ? 俺が?」

 怖いもの知らずの育が俺ごときを怖がるだなんて、何の冗談だか?


「むー、公太」

「何?」

「そっち行く」

「もう夜だから」

「そっちで寝る」

「自分の部屋で寝ろ。子供じゃないんだから」

「飛び移る」育は窓枠に片足を掛けた。

「おい! 危ないからやめろ!」

「むー、じゃあ玄関から入る」

「……はいはい」拗ねてる育に逆らうとめんどくさいから言うことを聞いておく事にする。



「おじゃましまーす」育はパジャマにカーディガンを羽織っただけの軽装で家にやってきた。

「いらっしゃい、育ちゃん」両親が返事する。

「泊まってくね」

「パパとママには言ってきた?」母が一応確認する。

「言ってきた」

「ごはんは食べた?」

「うん」

「お風呂は?」

「入ってきた」

「おやつあるけど食べる? 手作りクッキー美味しくできたから」

 おい。俺が作ったお菓子だよね。何で自分の手柄みたいに言うの?

「食べる」


 育はうちの両親と一緒にお茶しながらテレビを視ている。

「風呂入ってくる」この間に風呂に入ることにする。


「あ、一緒に入る?」育が立ち上がろうとする。

「育、風呂入ってきたんだろ?」

「いいじゃん。公太と一緒に入る」

「二人で入ると狭いから嫌だ」

「むー」


「そう言う理由なんだ……」父が呆れたように呟いた。

 いや、狭いだろ。




「もう暑くなってきたね」

 布団の中で育が言った。


「暑いならくっついてくるな」

 育はホントに泊まっていくつもりだった。今、俺のベッドで一緒に寝ている。

 一緒に寝るのは育の引っ越し以来だ。


「ねえ、夏休みになったらどっか行く?」

「海とか遊園地とか?」

「んー泊りがけの旅行とか」

「んー、夏休みはバイトするから泊まりはなー」

「バイトするの?」

「ん、バイク欲しい」

「いいね。タンデムできるのにしよ!」

「いいよ」

「買ったら、二人でツーリングに行きたい。連れてって!」

「買ったらな」

「日本一週!」

「いや、沖縄は無理だろ」

「沖縄以外で」

「楽しそうだな」

 いや、そんな時間もお金も無いだろ。

 そんな無粋なことは言わないけど。


「育もバイクの免許とる?」

「ん……、公太のタンデムシートでいいや」

「そう」

 バイク買ったらちゃんと練習しよ。育に怪我させないように。




 スマホのアラームで目が覚める。


 育に抱き枕にされていた。

 動けない。


 目の前に育の寝顔があった。

 黙ってると可愛いよな……。いや、喋ってても可愛いけど。


「育」声をかける。

「ん……」育がもぞもぞしだして、しばらくしてから目を開けた。

 俺が目の前にいることに驚いた顔をする。

「おはよう。育」

「……ん、おはよう。公太」


 育は起きると自分の家に帰っていった。


 帰り際に、「一緒に登校しよ!」と言ってきた。

 いや、女の子の朝の準備は時間がかかりそうだから待ってられない。

 俺は寄るとこがある。

「先に行くから」

「また学校で!」

「……学校で話しかけるな」



 朝の教室に入る。

 俺と鈴原が教室に入ると空気が変わった気がする。いつもの事だけど。


 鈴原を席まで送った後、自分の席に着く。

 育は由紀やその友達と話をしていた。育は俺を見てくるが話しかけては来なかった。


 昨日俺の家に来た由紀の友達も育と一緒にいる。こちらを見てくるが、俺と視線が合うと目を反らされた。

 地味に傷つくよな……。


 育と一緒にいるもう一人、由紀と目があった。

 学校では話しかけない方がいい。俺は目を反らして前を向いた。


「由紀ちゃん?」視界の外で育の驚いた声が聞こえた。

 育に何かあったのか?

 俺は育の方を見る。


 目の前に由紀が立っていた。


「おはよう。公太くん」

「……おはよう。由紀……」


 俺の言うことを聞かないバカが一人増えた。


 顔がにやける。

 由紀も悪い顔でニヤッとした。




読んでくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 顔がにやける。 にやける(若気る) 男性が女性のようになよなよとして色っぽい様子。 鎌倉・室町時代に男色を売る若衆を呼んだ言葉で、「男色を売る」の意味から「尻(特に肛門)」も意味す…
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