第20話 友達の作り方return1
朝、隣の家のチャイムを鳴らした。
公太ママがドアを開けた。
「お早うございます」
「育ちゃん、どうしたの?」
「えっと……、公太は?」
「もう学校に行ったわよ?」
「?!……え? こんなに早く?」
由紀をT中カラーギャングたちに引き合わせた次の日。
もう、学校で公太との関係を隠す気はない。公太が嫌がるのなんて知ったことじゃない。私は私のやりたいようにやる。
そんなわけで、朝は一緒に登校しようと隣の家に突撃した。公太はいつも学校にくるのが遅いから叩き起こす。
まだ寝ている幼馴染みの男の子の部屋に突撃するのは幼馴染みの特権だと、今まで読んだ少女マンガに書いてある。
と思ったらもう出たの?!
「公太、今日何かあるの?」
「え? 公太はいつも早いわよ?」
「えー?」
どういうこと?
公太は朝が遅いのだと思い込んでいた。
私の転校初日、私が登校する時間にまだ寝ていたからそう思い込んでいた。
でもあの日は転校の手続きで私が早すぎただけだった。
じゃあ、公太はこんな朝早くから何してんの?
考えられることは一つしかない……。
私は校門前で待っていた。
登校してきたみんながじろじろ見ていく。校門前で立っているだけなのに何でこんなに注目されるの?
同じクラスの子も何人か通り過ぎる。
「おはよー。どうしたの?」
「おはよー。うん、ちょっとね」
適当にごまかす。
「育ちゃん、何してんの?」三バカの一人、えっと……確か斉木……だったかな? が声をかけてきた。
「あー、おはよー。……ちょっとね」
三バカと公太を会わせるとめんどくさい事になる。早く行ってくれないかな?
「誰かと待ち合わせ?」
「いや、待ち合わせっていうか……」待ち伏せかな?
「教室に行こうよ」そう言って斉木は私の手をとって校舎に向かおうとする。
いや、待って。何なの? 何でジャマするかな?
「育ちゃんおはよう。どうしたの?」
飯島由紀だった。
「あ、おはよー、由紀ちゃん」斉木の手をふりほどく。
「なんだ。飯島と待ち合わせか?」斉木にはそう見えたらしい。
「?」由紀には何の事かわからない。
「じゃあ、教室行こうぜ」
「あ、斉木くん。由紀ちゃんと先に行ってて」
「え?」由紀ちゃんが困惑した顔をする。何で斉木と一緒に行かなければならないのか? て言う顔。
まあ、そうだね。ごめん。こいつ連れてって。
「あ、うん。先に行くね」由紀ちゃんは私の懇願顔を見て察してくれた。
「ん? 育ちゃんも行こうよ」
んー、しつこい!
イラッとする。そろそろキレそう。
そのとき公太と鈴原が連れだって校門にあらわれた。
やっぱり公太は鈴原を迎えに行ってたんだ。遠回りだから朝早かったんだね。
公太は私たちを一瞥しただけで通り過ぎようとする。鈴原はうつ向いていてこちらを見ていない。
「公太! 無視しないで!」私は怒りのあまり叫んでいた。うん。ちょっとイラついてたんだ。
公太はギョッて顔をした。
鈴原も由紀も斉木も驚いている。
公太は焦った顔で何か言おうとする。多分この場を取り繕いたいのだろう。私と知り合いだと思われないように。
でも私はもう公太と他人のふりをするつもりはない。
公太に他人のふりをさせる気はない。
「鈴原さん!」大きな声で鈴原を呼ぶ。
鈴原はビクッとして体をこわばらせる。下を向いたままこっちを見ない。
「育!」公太が私を止めようと声を荒げた。
私は止まらない。
「お早う」そう言葉を繋げた。
朝の校門は緊張した空気に支配されていた。
公太が校門前で声を荒げたから。
みんな怖がって校門に近づこうとしない。
公太ってこんなに怖がられてるの?
公太は鈴原の手をとりこの場から去ろうとした。ここで何を言っても不利だと思ったのだろう。
でも鈴原は手を引っ張る公太に抗った。
鈴原はこの場にとどまった。
公太が驚いたように鈴原に振り返る。
鈴原はオドオドしながらも顔を上げ私を見た。そして震えるように口を開ける。
勇気を振り絞るように、公太に捕まれていない手を胸の前で握りしめて。
「あ……、お……、おは」
「おい! 何やってんだよ、宮野!」
鈴原の言葉は怒鳴り声で遮られた。
三バカの残り二人だ。
加藤と藤原が連れだって登校してきた。
どうしていつもいつも私のジャマすんのよ!
公太は二人をにらみつける。
二人はビビって近づけない。
公太は無言で鈴原を引きずるように校舎に向かった。
今度は鈴原は逆らわずに公太についていく。
何か言いたそうな目を私に向け、そして目を反らした。
「育ちゃん、宮野に絡まれてたの?」
「大丈夫だった?」
朝の教室。いつも由紀と一緒にいる女の子たちに囲まれていた。
いったいどんな伝わり方したら、私が公太に絡まれていたって噂になるのよ……。
「朝の挨拶しただけなんだけど……」
公太と鈴原を呼び止めて、おはよう、と言っただけだ。
強いて言うなら絡まれてたのは斉木にかな?
「小学校のときの知り合いかもしれないけど、今はヤバい奴だからかかわっちゃダメよ」
これは何を言ってもダメかな……。
由紀は複雑な表情を浮かべて黙っていた。
「宮野くん、育ちゃんを巻き込みたくないのよ。学校では他人のふりして欲しいのよ」
周りに誰もいなくなってから、由紀は小声で私に言った。
そんな事はわかっている。だけど私はそれを承知しない。
「由紀ちゃんはT中カラーギャングたちが悪い奴に見えた?」
「……そんな事は無いけど……」
イラツク……。
読んでくれてありがとうございます。




