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第19話 エスケンgame2

 

「あの、連絡先交換しませんか?」


 さんざんエスケンで遊んだ後、育の友達の飯島由紀はかずくんに話しかけた。


 かずくんは公園のタイヤを半分地面に埋めた遊具の上に座っていた。

 由紀はその前に緊張した面持ちで立っていた。

 育と由紀は制服のままなので、そこらの汚れたところには座れずに立っていた。


 俺もかずくんの近くのタイヤに座っていた。育は俺の前に立ったまま俺と話をしている。

 けいくんとたまちゃんは少し離れてブランコの周りを囲む柵に並んで座って話をしている。


 つまりかずくんと由紀があぶれた状態だった。由紀にとってはチャンス到来と言うことか。


「いいよ」かずくんはあっさりと承諾する。

 ま、由紀は育の友達だからね。

 そのまま連絡先を交換する。


「あの……」由紀が思いつめた顔をしてうつ向く。

 え? 何?

 俺は育から意識を外してかずくんたちを見る。

 育も気づいてかずくんたちを見た。

「えー、いきなり?」育が驚いたように呟いた。


「山下さん。……好きです。付き合ってください……」

 急展開だな。由紀ってこんな性格だったんだ?

 俺のなかで彼女の好感度が上がった。今までちゃんと話したこともなかったけどな。


「むぅ……」育が不機嫌そうに唸る。

 育は俺とは異なる感想を由紀に持ったみたいだ。


「由紀ちゃんと会ったの二回目だよね?」かずくんが面白そうに言う。

 あ、かずくん、名前呼びしてる。みんな一度友達認定するとすぐ距離感縮めるよな。


「昨日の山下さん、カッコよかったです」

「うーん。由紀ちゃんも単純だね」そう言って笑うかずくんは嬉しそうだった。


「でもごめん。僕、好きな娘がいるんだ」笑い顔を引っ込めて真面目な顔をする。


「え!?」育とたまちゃんが驚いた声を上げる。

 たまちゃんも聞いてたんだ。

 たまちゃんの横で、けいくんが突然声を上げたたまちゃんに驚いていた。


「かずくん好きな人いるの?!」たまちゃんがちょっとな必死さで食いつく。

「かずくん彼女いなかったんだ」育が違う驚きかたをした。

 かずくんモテそうだよね。


「……そうですか……」由紀がうなだれる。

「ごめんね、由紀ちゃん」かずくんは申し訳なさそうな顔をした。


「ねえ、かずくんの好きな人って誰?」たまちゃんがグイグイ行く。かずくんの近くに駆け寄る。

「同じ学校の子?」育も尋ねるが、明らかにたまちゃんよりは温度が低い。


「えっと……」かずくんが困ったように二人を見る。たまちゃんを見る目が少しムッとしている感じがした。


 あ、そうか。

 俺はけいくんを見た。けいくんは涼しい顔で傍観していた。

 ええ? いいのか?


「たまちゃん」かずくんが視線を二人から外し、少し照れたように頭をかきながら答えた。

「何?」たまちゃんが呼ばれたと勘違いしたのか返事をした。

 うん、ここで笑っちゃダメだよな。


「いや、僕が好きな娘だろ? だからたまちゃんだって」かずくんがたまちゃんにため息混じりに答えた。

 たまちゃんも育も、置いてきぼりの由紀もハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。


 それから意味を理解したたまちゃんがゆっくりと振り返ってけいくんを見た。

「……どうしよ?」

「好きにすれば?」けいくんは優しい顔で答えた。


 たまちゃんはかずくんに向き合い、そして目線を下げて、握った右手を口許に持っていって考え込んだ。

 なんか子供っぽいたまちゃんも久しぶりに見たな。

 みんながたまちゃんを注目している。


「えっと、相棒はけいくんだけだよ?」たまちゃんは困ったように上目使いでかずくんを測るように見上げる。

「うん、そうだね」

「コンビは解消する気無いよ?」

「いいよ」かずくんは微笑んで答えた。


 かずくんの笑顔に困惑して、たまちゃんは助けを求めるようにけいくんを見た。

「いいの?」

「たまちゃんの好きなように」けいくんは優しく答えた。


「けいくんとかずくんがピンチになったとき、私はけいくんを助けに行くけどいい?」申し訳なさそうにかずくんに向かい合う。

「いいよ。相棒のピンチは最優先だろ?」かずくんは何の屈託もなく答えた。そして、「僕はひとりで何とかできるから」そう言いきった。

 そりゃあ、かずくんなら何とかなるよな。


「けいくんに誘われたら、けいくんを優先するよ?」

「義理堅いところもたまちゃんの魅力だよね」

 たまちゃんが誉められて顔を赤らめる。


「こんなんだけど、いいの?」

「いいよ」

 たまちゃんはもう一度助けを求めるようにけいくんを見る。

「たまちゃん、昔からかずくんの事が好きだったからよかったね」

「何で言うかな?」すねたようにけいくんに文句を言う。

 けいくんは笑った。


「たまちゃんをもらってもいいかい? けいくん」

「たまちゃんがいいならいいよ。でも、たまちゃんを泣かせたら殺すからな」

「僕の方が強いよ」

「それもそうか」けいくんは笑った。「浮気するなら、俺を殺す覚悟しとけよ」けいくんは嬉しそうだった。

 かずくんも嬉しそうだ。

 けいくんは立ち上がりかずくんのところまで近付く。

 けいくんの出した右拳に、かずくんが拳を合わせた。

 そして二人で笑い会った。


 何か当事者のたまちゃんが蚊帳の外だけど、ま、たまちゃんも嬉しそうだからいいか。


「私がいない間に何が……」育が唖然としたように呟いた。

「けいくんとたまちゃんは近すぎたからね。家族に恋愛感情は芽生えないだろ?」

 俺と育みたいにな。

「私は違うから」育が俺の心の中を覗いたように、ムッとした顔で俺に言った。


「由紀ちゃん」たまちゃんが呆然と成り行きを見守っていた由紀に声をかける。「ごめんね」すまなさそうに謝った。

 由紀は泣き笑い顔でそれに答えた。


「由紀ちゃん、もっと良い恋があるよ」育が由紀に近づいて手をとった。

 俺も由紀に近づいて肩を叩いた。「ドンマイ、由紀」

 由紀が驚いた顔で俺を見た。

 え? 俺が慰めたのがそんなに意外か?



 しばらくしてかずくんとたまちゃんは連れだって帰った。二人でちゃんと話をする時間が必要だろう。


 二人を見送るけいくんが少し寂しそうに見えた。




読んでくれてありがとうございます。

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