第16話 友達の作り方another
飯島由紀は良くも悪くも普通の女の子だ。
見た目は可愛い方だ。もちろん私ほどじゃない。
学力もそこそこ。性格も普通。
つまり仲の良い子や、私みたいに目立つ子には愛想が良い。
そして嫌われていたりいじめられていたりする子には近づかない。
積極的に鈴原をいじめたりしないけど、不必要に近寄ったりしない。周りに合わせて鈴原をシカトする。
公太を怖がって目を合わせようとしない。
普通の子だ。
私が彼女とよく一緒にいるのは単に席が近いだけ。
幸い彼女は女の子の友だちが多い。だから、彼女に混ざって女の子達と他愛の無い話で盛り上がっておく。
あまり男の子と絡まないのも都合がいい。私目当ての男の子が寄って来て、彼女たちの反感を買う未来しか見えないから。
彼女に彼氏がいないのもポイントだ。友達の彼氏を奪ったとか言われなくてすむ。奪ったことなんて無いんだけどね。だって私は公太一筋だから。
私は由紀が善人でないことを知っている。私は由紀が私の嫌いなタイプの人間だということも知っている。
それでも私は一人でいたくない。
「もう暗くなっちゃたね」
カラオケ屋さんから出たら、もう辺りは暗くなっていた。
由紀ちゃんと彼女の友達の二人、四人で遊んでいた。せっかく誘ってくれたのだから、断るわけにはいかない。
「育ちゃんって歌上手なんだね」
「育ちゃん、歌い方可愛すぎ」
由紀ちゃんの友だちが、何故か私を持ち上げてくる。私の取り巻きになりたいのかな?
いるよね、そういう子。
私を男の子を引き寄せる餌にできるから。私のおこぼれで満足できるのかな?
でも、私が引き寄せるのはイケメンばかりじゃないよ。タチ悪いのも引き寄せることがある。
「お、マブい女。おごってやるから付いてこいよ」
「お前らも数合わせに遊んでやるよ」
ほら、こんな感じで。
明らかに柄の悪い男たち4人。
「間に合ってます」はっきりと断る。さっさとやり過ごそうとするが回り込んでくる。
手を捕まれた。
「離して!」振りほどく。殴りたい。
「嫌!」後ろで悲鳴が聞こえた。振り返ると、由紀ちゃんの友だちが手を捕まれていた。
トロいな!
「何々どうしたの?」
「お、可愛い子捕まえたじゃん!」
更に4人の男が近づいてくる。二手に分かれてナンパしてたらしい。
これは面倒だ。
「誰か!助けて!」こんなときは取り敢えず叫んでおく。
夜だからといって人通りがないわけではない。通報を恐れて引いてくれないかな?
「ウェーイ、次の店行こうぜー!」
私の声を書き消すかのように騒ぎだした。酔っぱらいが騒いでるだけのような体で押しきるらしい。
これは本格的にヤバい。
肩を捕まれた。
連れ去られそうになる。
肩をつかんだ男に殴りかかる。
腕を捕まれた。
私はケンカが強くない。
公太の顔が浮かぶ。
小学生の頃、私がケンカを始めるといつも公太が加勢に来てくれた。
公太、助けて!
「おい、手を離せよ!」
誰かが男達の行く手を阻んだ。
……公太じゃなかった。
かずくんが立っていた。制服を着ている。
かずくんの目は何故か楽しそうだった。
かずくんは一瞬私を見るが何も言わずに男達を睨みつけた。
「K高のガリ勉くんかぁ? ケガしたくなけりゃ去ね!」
「塾帰りかぁ? モヤシくんは家帰って勉強してろ!」
かずくんの通うK高校は進学校で有名だ。
かずくんはいきなり近くにいた男を殴り付けた。
ワンパンで殴られた男が沈む。
そこからのかずくんは楽しそうだった。
この前に仲間外れにされたのがよっぽど嫌だったのだろうか?
私もカバンを振り回して、私の手を掴んでいた男を殴って解放される。
由紀ちゃんの友だちを掴んでいた男も殴っておく。
気付いたら3人の男がうずくまっていて、後は逃げ出していた。
「帰ろっか?」かずくんが素敵な笑顔で言った。
幼馴染の中で一番強いと聞いていたけど、ここまで強いとは……。
面倒なことになる前にその場を離れる。
由紀ちゃんとその友達も付いてくる。
「かずくん、何でいたの?」
「塾の帰り。良かったよ、たまたま通りかかって」
「育ちゃん、知り合い?」由紀ちゃんが小声で尋ねてくる。
「あ……うん。小学校のときの」
「えー、カッコいい! K高だよね?」
由紀ちゃん達が口々にかずくんにお礼を言う。お礼と言うか……何かアピールしてる?
由紀ちゃん達と別れた。
かずくんと二人で夜道を歩く。私たちの家は近所だから同じ帰り道だ。
「ごめんね、いくちゃん」
「何が?」
「こうたくんじゃなくて」
「……」
「助けに行って、あんなにあからさまにガッカリされるとは思わなかったよ」かずくんは楽しそうに言った。
「……ごめん」実際、助けて欲しいと思ったときに、思い浮かべたのは公太だった。
「いいよ」かずくんは何も気にしていないようだった。
「いくちゃんの友達、危機感無さすぎだね。あんな目に合った先から、口説かれるとは思わなかった」
「いや、ホントごめん」うん、私も呆れた。
「おんなじ事やってるのにね……」ホント、呆れる。
公太もかずくんも同じ事をやってるのに、何で結果が変わるの?
「こうたくんの事?」
「公太ももっと報われてもいいのに……」いや、女の子に人気でるのも嫌だけど。
「かずくんよりは弱いけどさ……」
「ん……、こうたくんは強いよ?」
「それは無い」
「いや、強いと思うよ。僕より」
本気で言ってる?
「僕なんかヘタレだから勝てるとわかってるケンカしかしないけど」
8人相手にするのは勝てるケンカなんだ……。
「でも、こうたくんはケンカ弱いのに一歩も引かない」
かずくんは立ち止まって、真顔で言った。
「こうたくんは強いよ」
うん。私もそう思う。
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