第14話 幼馴染の彼女after
「だから、ごめんって!」
俺は何度目かの謝罪を口にする。
いい加減飽きた。
育が俺の家のリビングでブーたれている。
分かりやすくほっぺを膨らましているので、怒ってるフリをしているのだろう。
とりあえず謝っておく。
「たまたま手が顔に当たっただけだろ?」
まあ、ぶん殴ったけどね。
「女の子の、しかも顔殴るなんて、サイテー!」
「育、どの口が言うかな? 殴られた回数は俺の方が圧倒的に多いぞ?」
「子供のときの話じゃない!」
「うっわ、ガキ大将、開き直りですか?」
「子供のときの話をしてない。今は繊細な乙女なんだから!」
「……」乙女?
「いや、マジな顔で引かないで……」
なら引くようなこと言わないで。
「そもそも殴りかかってきたのは育だろ?」
「殴ってないー! 押そうとしただけ!」
「だから押そうとするなよ」
「そんなことより、おやつまだ?」
「今作ってるだろ?」
アップルパイを作成中だ。
「何でパイ生地から作るのよ?」
「その方がうまいからだよ!」
「早く食べさせろー」
「後1時間もかからないから待て」
多分、インスタントラーメンで料理ができると言い張る奴だな、育は。
「ほら、出来たぞ」小さめの円形パイを四つに切った。
育に合わせて、やたら甘くした。
「あーん」育が口を開ける。
「はあ?」何言ってんだ、こいつ。
「自分で食え」
「ケガ人だから、優しくして」
「ケガなんかしてないだろ」
「ほら、今日、殴られたし」
「……」うっわ、うっぜ。
フォークで小さくアップルパイを切り取る。息を吹きかけて冷ます。焼きたてだから熱い。
唇につけてみる。うん、大丈夫。
「ほら」フォークを育の口に運ぶ。
彼女はそれにかぶりついた。
「美味しい……」
「そう、それは良かった」
「ムカつく」
「何で?」
「彼女にも食べさせてあげてるの?」
「あーんして欲しがるのは育だけだろ」
「作ってはあげてるんだ」
「……」
「ねえ、彼女はアップルパイが好きなの?」
「……さあ?」
「食べさせてあげてんでしょ?」
「……何食ってもうまいとしか言わない」
「のろけ? 彼女の胃袋つかんでるの? オカン?」育がからかうように言ってくる。
全く目が笑ってない。
「あーん」二口目をねだってきた。
俺は一つのフォークで二つのパイを二つの口に運んだ。
「育も作ってみれば? 教えるよ?」
「いいかな。公太が作ってくれるでしょ?」
いつまでも作ってあげられるわけはない。
「なあ、育」
「何?」
パイの後の紅茶を飲んでいる。
「ばらすなって言ったよな?」
「同小ってことはいつかばれるよ? 地元だし」
「連れだって事までばらす必要はなかった」
「隠す意味がないでしょ?」
「育のためだよ」
「余計なお世話よ」
善意であっても届かない事もある。
「知り合いだってことはバレたけど、今は仲は良くないって事で行けるだろ。……殴ったし」
「計算して殴ったみたいな事言って」
反射で殴っただけだけどな。
「でも、使える」
「彼女には、公太が私の男だって言ったよ?」
「何でそんなデタラメ言うんだ……?」
「デタラメじゃない。ねえ、彼女には私の事言った?」
「言った」
「何て? 別れるって?」
「……」
「……、物分かりのいい彼女さんだね……」
「……別れない……」
「おはよう、育ちゃん」
「おはよう、由紀ちゃん」
朝の教室。中島由紀はいつも通り挨拶をしてきた。
「殴られたとこ、大丈夫だった?」
「大丈夫、大丈夫。当たっただけだから」
「宮野、同じ小学校だったんだ?」
「ん……」
「もう、あいつと関わっちゃダメだよ?」
「……」
「あいつらと関わったら、ケガするよ? わかったでしょ?」
心配してくれるんだ。
彼女は悪い子には見えない。
ただ、自分で本当の事を見ようとしないだけだ。
「公太はこわくないよ……」
「あんなのといたら、友達いなくなるよ?」
それって脅し?
それでも私は黙ってしまった。
公太と鈴原が教室に入ってきた。
誰もがいないものと扱う。それでも空気がピリつく。
公太は私を見ない。
鈴原が自分の席に着く。そして、一瞬こっちを見た。
私と目が合うと慌てて目を伏せる。
由紀は話題を変える。どうでもいいような話に。さも公太の話題なんかしていなかったと言うように。
私も話を合わせる。
彼女は話題が多い。沢山の友達と話を合わせることが出来るように、引き出しが多い。それは彼女の才能であり努力なんだろう。
そして私もそれなりに話を合わせることが出来る。
それは努力だ。
転校が多いとこれぐらいは楽勝だね。
……イラツク。
読んでくれてありがとうございます。




