第13話 幼馴染の彼女round5
育に乱暴な手当てを受けてから、ルームウェアを着た。
幼馴染達は帰っていった。
みんな育に遠慮したのだろう。
「7人相手にケンカ勝てるって、あの二人おかしい」育が恐れを抱いたかのように言った。
お前は、そのたまちゃんを泣かせかけたけどな。
いや、ケンカしたらたまちゃんの方が強いだろうけど。
「いつもこんなことしてるの?」
「いや、いつもじゃないな。……たまに……」
幼馴染全員が集まる事はあまり無い。
「何で学校であんなに嫌われてるの?」
「知らないよ」
「1年のときに暴れて何人か学校辞めさせたから?」
「あー、それ聞いたか」
「聞いた」
「それ、間違いだから。俺は辞めさせてない」
「暴れたのは?」
「まあ、そういう事もあったな」
「相手を病院送りにして、そのまま学校辞めたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど……。辞めさせたのは学校。俺はまだ学校にいるだろ。そういう事だ」学校にも警察にも事情を訊かれたけだで何もない。
「……鈴原がらみ?」
頷く。
育はうつむいて考え込む。そして、
「鈴原と話させて」
「いや、何話すんだよ?」
「……別れさす」
「いや、何でだよ?」
「絶対嘘じゃん。付き合ってるって」
「嘘じゃない」
「じゃあ、鈴原のいいとこ10個教えて」
「……顔?……」
「それから?」
「……スタイル?」
「それから?」
「……優しいところ?」
「いや、それ普通じゃん」
「残念ながら普通じゃない」
「あー、まっいっか。他には?」
「……一緒にいて楽なところとか?」
「どういう風に?」
「……あんまり喋らなくていいから」
「無口なだけだろ?」
「……そうだな……」
「じゃあ質問変えるね。私とどっちの顔が好み?」
「育」
「私とどっちがスタイルいいと思う?」
「育」
「優しいのは?」
「育?」
「どっちが一緒にいて気を遣わない?」
「……育」
「……どっちが好き?」
「育」
「もう私でいいじゃん!」
「お前、いなかっただろ!」
「そんなの私のせいじゃ無い!」
「……今付き合ってるのは鈴原なんだよ……」
「なら、鈴原は公太の事、好きなの?」
「……多分……」
「自信無いんだ?」
「……」
「本人に訊いてみよう。私、訊いてみるね」
「……、やめてくれ」
俺たちはどこにも届かない言葉を投げつけあった。
「鈴原さん、話があるんだけど」
朝の教室、私は席に着いたばかりの鈴原に声をかけた。
彼女と一緒に登校してきた公太が、ギョッとした顔でこっちを見る。
鈴原は私を見上げて、そしてすぐに怯えたように顔を伏せた。
私の顔、そんなに怖い?
怖いか……。
今の私はスゴい顔してるんだろうな。
「おい、やめろ」公太が近づいてくる。思い詰めた顔をして。
私が本気だとわかってビビッてるのかな。
「公太は黙ってて」
公太は焦った顔をする。名前で呼んだからね。
「黙れ!」公太が手を伸ばす。
「公太が黙って!」
教室が静まり返る。空気が固まる。
公太も固まる。
公太が混乱しているのは見てとれる。私と知り合いであることを隠したがっていたのに、もう無理だとわかったのだろう。
「おい! 育ちゃんに何してんだよ!」いつもの三バカの加藤が、いつものようにちょっかいをかけてくる。
加藤が公太に近づいて手を伸ばした瞬間に、公太に顔面を殴られて吹っ飛んだ。
バカな男どもは放っておく。
私は鈴原の肩をつかんだ。
「公太の優しさにつけ込まないで。これは私の男だから。返して!」
鈴原が驚いた顔で私を見る。やっとこっちを向いたか。
公太が三バカと乱闘を始めた。
公太が三バカを相手にしている間に、私は鈴原の腕をつかんで立ち上がらせる。
「来て」
彼女は逆らわずに着いてこようとする。
「育!」公太が、鈴原をつかんでいた私の手をつかむ。
やっと名前で呼んだね。もう隠せないと諦めたか?
三バカは何してるの? と思ったら既に三人とも倒されていた。
弱っわ。
「離してよ、公太!」
「嫌がってんだろ!」
「嫌がってないでしょ!」
鈴原は着いてこようとしていた。戸惑っていても、嫌がってはいない。
私は距離をとるため、つかまれていない手で公太の胸を押そうとする。
これがいけなかった。
公太は反射でカウンターを当ててきた。
顔面を殴られる。
公太は力をいれてなかった。単に殴られないように私の体を押そうとしただけだ。身長差があったので顔に当たっただけだ。
でも、公太に殴られたことがショックで座り込んでしまった。
鈴原をつかんでいた手を離す。殴られたところを手のひらで押さえる。
呆然と公太を見上げる。
公太は鈴原をかばうように背に隠している。
公太も驚いた顔をして、私を見下ろしていた。
視界が滲んで公太の顔がよく見えない……。
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