第12話 幼馴染の彼女round4
河川敷の道路橋の下。
ヤンキー7人が転がっている。
幼馴染達がワイワイはしゃいでいる。
何これ?
「公太、大丈夫?」私は公太の前にしゃがむ。
先に公太の前にしゃがんで、彼の頭をナデナデしていたたまちゃんが手を引っ込めた。
「育、来るなって言ったよな?」
「言ってない」そうは言ってない。そんなニュアンスの事は言ってたけど。
「何々? どうしたの?」たまちゃんが楽しそうに訊いてくる。
「先に帰らしたのに、戻って来やがった」
「放っとけないよね!」ちょっとムカついた。
「いくちゃんだねー」たまちゃんが笑った。
公太がムッとしてたまちゃんをにらむ。
「あー。せっかくこうたくんが犠牲になったのに、いくちゃんが戻ってきたらやられ損じゃん。……て事だね」たまちゃんが公太の言葉を代弁した、
「公太、ごめん。でも、嬉しくない」
「育はケンカできないだろ」
「公太だってそんなにケンカ強くないんでしょ?」
「っ! おま……」公太が顔を真っ赤にする。
あれ? マジで怒った?
「お前らケンカすんな」けいくんが呆れたように仲裁に入る。
「いちゃついてるだけでしょ?」さらにかずくんが茶々を入れる。
いや、いちゃついてないし。
「こうたくん、歩ける? 乗ってく?」けいくんがバイクを指す。
「私は?」たまちゃんが言った。タンデムシートはたまちゃん専用なのかな?
「歩いて帰れ」
「ぶー」たまちゃんはほっぺを膨らませたけど、本気で言ってるわけではなさそうだった。
「土手の上まで歩ける?」けいくんが自分だけバイクに跨がる。
「ここから乗せたあげたら?」公太は歩くのも辛そう。土手を登らせないで、バイクに乗せてあげたらいいのに。少し、けいくんを非難する口調になってしまった。
「いや、勾配キツいから2人乗りはトラクションが後ろにかかりすぎる」
「?」
「前輪浮いて登れない」
「……」そうなんだ?
「肩、貸そうか?」かずくんが公太の右腕を肩に担ぐ。
「けいくんも肩貸してあげなよ。バイクは私が上げるね」そう言ってたまちゃんはバイクの運転をけいくんと交代した。
「ねえ、この人達ここに置いてくの?」私は地べたに転がっているヤンキーを指差す。
「3人は気絶してるフリだから大丈夫でしょ」たまちゃんがにこやかに言った。
じゃあ、いいか。
「うおー!」かずくんとけいくんが公太の両肩を担いで土手をかけ登った。
たまちゃんはバイクに立ち乗りして、ハンドルの前に上半身を乗り出し土手を上がる。
何故か途中でウィリーターンして降りてきた。降りるときはシートに座っていた。
たまちゃんはバイクを私の手前で停止させる。
「……」
どうしたの? たまちゃん?
たまちゃんは、メットのバイザーを上げて土手の上を見上げる。
「登れない!」
「お前、軽すぎ!」土手の上からけいくんが言って、一人で土手を降りてきた。
「歩けるか?」けいくんがメットを脱ぎながら言った。
「ああ」俺はタンデムシートから降りて、メットをけいくんに返す。
けいくんにバイクで家まで送ってもらった。
身体中痛む。
家には誰もいない。両親はまだ仕事だ。
俺は居間のソファーに倒れるように座った。
けいくんもソファーに座る。
「おい、大丈夫か?」
「何とか……。今日はありがとうな」
「いやいや、どういたしましてだ」
俺は目を閉じた。
疲れた。あと、痛い。
……そして、育を危険な目に遇わせてしまった。
「こうたくん、気にすんなよ。十分にいくちゃんのヒーローやれてたよ」
「……ごっこ、な」
「ああ、ヒーローごっこな。いいじゃないか、ヒーローごっこ」
「……いや、カッコ悪いだろ」結局ボコボコにされて、育に助けに入られた。いや、育は何の役にもたってないけど。
「みんないくちゃんにカッコいいとこ見せたくってヒーローごっこしてたもんな」
「育はケンカっぱやすぎ。弱いくせに」
「いやいや、守ってあげたくなるお姫様だろ。更にキレイになって本当にお姫様みたいになったよな」
「あんな好戦的なお姫様がいてたまるか!」
けいくんは楽しそうに笑った。
「こうたくんは、十分いくちゃんの王子様やれてたよ」
なんだそりゃ。さっきはヒーローって言ってたよな。違わないか?
「ケンカ弱いのに頑張ったよ」
……弱い言うな。俺は弱くねー!
お前らが強すぎるだけだろ……。
育達が家にやってきた。
「けいくん、手当てぐらいしてあげなよ」たまちゃんが勝手に家の常備薬の箱を取り出した。中学のときはよくたまちゃんに手当てしてもらってたからな。
……、中学のときもケガするのは俺だけだったか……。
「こうたくん、服脱いで」
「おい、やめろ!」
抵抗するがあっさりと服を脱がされる。パンツだけに剥かれた。
何すんだよ!
「おい、たまちゃん!」けいくんが、たまちゃんの手をつかんで止める。
けいくんの何かを恐れるかのような深刻な表情に、たまちゃんもハッとする。
たまちゃんは恐る恐る振り返った。
振り返った先には育がいた。
この中で一番ケンカの強いかずくんも顔を青ざめさせて目をそらしている。
「……」たまちゃんは無言で薬箱を持って育のところに歩いていく。そして、薬箱を差し出した。
「……いくちゃん、後はお願い。……殺さないで……」
育は人を殺しそうな目でたまちゃんをにらんでいた。
「……殺さないよ?」育は笑った。顔だけで。目はイッていた。
「……ごめんなさい、親分……」
たまちゃんが可哀想になった。
読んでくれてありがとうございます。
トライアルバイクでの山登りは、ちょっとアクセル空けると前輪浮いて、いつの間にかウィリーターンしてますよね?




