第10話 幼馴染の彼女round2
教室では鈴原と話するのは無理だとわかった。
周りの目がうっとうしすぎる。
今日は由紀ちゃんの誘いを断る。できれば断りたくない。私がいない間にどんな話されるかわからないから。
それでも今日は断った。
やる事がある。
鈴原と話をつけたい。公太にまとわりつく悪い虫を追い払わなければ。
公太が優しいから、その優しさにつけんで彼女に収まろうなんて、なんて計算高いの?
公太は鈴原に恋人のフリをさせられているに決まっている。
放課後、鈴原の後をつけて一人になったところで話しかける。
帰るときも鈴原は公太と一緒だった。
二人で校門を出る。どこかに寄り道をするのだろうか?
公太たちは繁華街を抜けて住宅街に向かう。私や公太の家からどんどん離れていく。
公太は鈴原を家まで送っていくつもりなんだろうか?
人通りが少なくなっていく。二人をつけるのが難しくなっていく。私は距離を離して歩いている。二人が角を曲がって見えなくなるとダッシュして、置いていかれないようにする。そしてまた距離をとる。
二人はたいして話をしない。時折公太が話しかけて、鈴原がなにか答えている。鈴原はほとんど話をしないし、笑い顔も見せない。
やっぱりあの二人が付き合っているとは思えない。
住宅街のマンションの敷地にはいる。入り口で立ち止まり、一言二言話をしている。
鈴原が公太に軽く頭を下げて、一人でマンションの建物に入っていった。
公太は踵を返して元来た道に引き返す。
まずい。こっちに来る。
私はあわてて角を曲がり、更に次の角を曲がって隠れる。
公太をやり過ごしてから帰ろう。
しばらく道端の角に隠れながら、地面をじっと見ていた。
やっぱり鈴原は公太を利用している。あれは恋人同士なんかじゃない。
どうしたら良いんだろう?
鈴原に話をして別れさせる?
それはよい手には思えない。公太が怒りそう。それはだめだ。
「育、何してんの?」
思考をじゃまされた。
顔を上げると、公太がいた。
!!
驚きすぎて、心臓が飛び出るかと思った。実際、体がビクッとして数センチ飛び上がったかもしれない。
「育。これってストーカーって言うんだけど、知ってた?」
「……」むー。驚きすぎて声が出せない。
いつから気づいてたの?!
「違う……、ストーカーなんてしてない」
「じゃあ、何してたの?」
ヤバい。汗がすごく出る。
「……鈴原が一人になるのを待ってた……」
「何で?」
「話がしたかったから」
「何の?」
「……恋ばな?」
公太がため息をつく。
いたたまれない……。
「帰ろっか?」
「うん」
帰路は一旦駅の方に戻る。
「育。先に行け」
「何で?」
「俺と一緒にいない方がいい。知り合いに会うとまずい」
「私は別にいいよ?」
「……友達、できないぞ? ……俺といると」
「……」
公太がいたら他に友達なんか要らない。
……、そう思ったが口に出せなかった。
学校では公太は鈴原といつもいる。
私はひとりぼっちになるしかない。
それでも公太と並んで歩いていた。
そして公太の忠告は的中する。
但し、遭遇したのは同じ学校の生徒ではなかった。
もっとガラの悪そうな連中だった。
「よお! 宮野ー!」
コンビニの前を通り過ぎようとしたときに声をかけられる。
7人はいた。コンビニの前にたむろしていたのか?
私たちを囲むように近づいてくる。
「育、先に行け」公太が立ち止まり、私を見ずに言った。
荒事か。公太は足止めをするつもりなのだろう。
声をかけてきたのは男ばかり7人。学生服を着ていない。いかにも不良って見た目。こういうのをチーマーと言うのだろう。
私は公太を置いて自分だけ逃げることを戸惑った。そして、逃げ損なった。
公太にとって足手まといにしかならない。分かってたのに正しい判断ができなかった。
「よう、宮野ぉ、久しぶりー。いい女つれてんじゃねーか!」
何でこいつら巻き舌で喋るの?
「今日は一人かぁ?」
私は数に入ってないらしい。T中カラーギャングの事を言っているのだろうか?
「ねえねえ彼女ぉー、こいつほっといてオレらと遊びに行かない?」
一人が私に手を伸ばしてくる。
私は身を引いて逃れようとする。
公太がそのヤンキーの手をつかんでいた。
「やんのか、あー?!」
「汚い手で触んじゃねー!」公太も巻き舌で言い返す。
「つら貸せよ、宮野ー!」
「おー、いいぜ!」公太がけんかを買う。
待って、7人相手はムリよね?
「お前は帰れ」公太が私に言う。
「何勝手に帰そうとしてんだよー!」
「場所変えて、俺一人で相手してやるってんだ! 今すぐここでやるか、あー?!」
公太は私だけ逃がそうとしている。
人通りがが多い。ここでケンカになれば、通報される。
むしろ通報された方が助かる。何故、公太は場所を変えると言ったのか?
私を逃がすためか……。
公太は私に手を出さなければ、人目につかないところに場所を変えると言っているんだ。
ここでケンカを始めたら、私がケガをするかもしれないから?
公太が一人で連れてかれたら、多勢に無勢で公太が無傷で済む筈がない。
ここでケンカを始めるべきだ。
公太ににらまれた。
手を出すなと言っているんだろう。
……言われなくても手を出さない。いや、怖くて手を出せない……。
「いいだろ、ついてこい」
リーダーらしい男が言った。
取引に応じたようだ。今ここで暴れても彼らにメリットはない。
じゃまされないところで、公太を袋にするつもりだ。
公太が歩き出す前に、もう一度私をにらんだ。
私は一人立ちすくんで彼らを見送った。
体の震えが止まらない。涙が出そうになる。
どうしよう? どうしたらいい?
通報するべきだろうか?
スマホで電話をかける。
警察ではなく、たまちゃんに発信していた。
「わーい! いくちゃん! 遊ぶの?」すぐに能天気なたまちゃんの声がかえる。
「助けて! 公太がラチられた!」
「どこ?」
場所を言う。
「車?」たまちゃんは冷静だ。
「徒歩でその場所なら河川敷、国道橋の下だね」たまちゃんはケンカに適した場所を把握しているようだ。
「すぐ行くから、手を出さないでね!」電話が切れた。
そんな事言われても、たまちゃんがすぐ来れる筈がない。
私は河川敷を目指して走った。
読んでくれてありがとうございます。
遅くなりました。




