第1話 春休みDAY1
7年ぶりに再会した幼馴染は、ちょっと別人かと思うくらいに綺麗になっていた。
「公太、久しぶり!」
「……誰?」
「おい!」
「……いや、育だよな?」
「そうだよ!」
うん、別人だろ。
「お前、詐欺だろ」
「何で?!」
「鼻垂れ育だよな」
「ヒドイな!」
「あの悪ガキ育だよな」
「ちょっとヒドクない?!」
「あの男女がこれって、やっぱ詐欺だわ」
「公太、ヒドイ。何が詐欺なの?!」
いや、だってな……。
「あの育がこんなな……」
「何よ?!」
「美人で可愛くて女の子らしくなってるなんて、詐欺だろ」
「……ふゅみゅむっ……」
あ、赤くなった。照れてる? 可愛い?
あの育が可愛く照れるなんて……。
「お前、偽物だろ?」
「何でだよ!」
秋山育は、俺、宮野公太の幼馴染みだった。
家が隣で、親同士も仲が良く、子供の頃はいつも一緒に遊んでいた。
育は快活な性格で、大人しい俺はいつも引っ張り回されていた。
どちらも一人っ子なので、兄弟みたいな関係だった。
育が親の転勤で引っ越していったのは小学校の3年生が終わるとき。
あれから7年。
俺たちは高校生になった。この4月で2年生になる。
隣の家は空き家になっていたわけではなかった。たまに育の祖父母がやって来て掃除をしていつでも住めるように管理していた。
育の親の転勤は期間限定で、この家に戻ってくることがわかっていたからだ。
今日は2年生になる前の、春休み中の土曜日。
4月からこの家に住むために、育の家族の引っ越しの真っ最中だ。
親同士仲が良いので、俺たち家族も引っ越しの手伝いに来ていた。
久しぶりなので、親たちは話が弾んで引っ越しが進んでいない。
俺たちもさっきから話ばかりしていて、引っ越しは進んでいなかったが。
「公太、連絡先交換しよう」
「ああ……。いや、スマホ買ったんなら教えろよ」
「公太もだよ」
「手紙より楽だったのに。……途中から手紙を滅多に寄越さなくなったよな」
「忙しかったのよ。いや、公太こそ返事をくれないから、出しにくかったんだよ」
「めんどくさかったんだよ」
「ヒドクない?」
いや、小学生の「毎日手紙かくね」は、そんなもんだろ。
「4月から俺と同じ高校?」
「そう。同じクラスになるといいね」
「……、そうだな……。良く編入試験受かったな」
「成績はいい方だったから楽勝」
「あのおバカな育が勉強できるようになるとは……」
「ほんとヒドイな」
「お母さん、私の部屋、ここがいい」
「西日入るよ?」
2階の西側に面した部屋だ。夕方暑くなるよな。
窓の外には俺の家がある。それも俺の部屋の真ん前だ。
「公太の部屋あそこでしょ?」育は窓から俺の部屋を指差す。
「ああ、前から変わってない」
「窓開けたら話できるよね」
「まあ、できる距離だな」
「決まりね」
「えー、カーテン開けれないじゃないか……」
「何で!?」
「プライバシーってものがだな……」
「気にしないよ?」
「気にしろよ」
結局その部屋が育の部屋になった。
男手が必要な大きな家具の移動を手伝った。搬入自体は業者さんがしてくれたので、調整程度の移動しかしてない。
そのあと、育の部屋の手伝いをした。
「おい、片付けの最中にマンガ読み出すのやめろ」
「えー、片付けしだすと読みたくならない?」
「なるけどな!」
「服入ってる段ボールの、箱出しは自分でやれ」
「適当にタンスに入れといて」
「どこに入れたらいいかわかんないよ。てか、これ下着じゃねーか! 自分でやれ!」
「うるさいなー、忙しいんだからやっといて」
「マンガ読みながら言うんじゃねー!」
再会して1時間も経たない内に、昔の兄弟みたいなノリになっていた。
いや、兄弟じゃないんだけど。
引っ越しの途中だったので、秋山家のみんなは俺の家で一緒に食事をした。ついでに風呂も入っていった。
「公太、一緒に寝よ」
「いや、家に帰れ」
「寝るとこ無いし」
「いや、ベッド組み立てて布団も敷いただろ」組み立ててベッドメイクしたのは俺なので、間違いない。
「久しぶりだから、朝まで話しようよ!」
ホントにベッドに潜りこんできやがった。
寝かせてくれ……。
「プロレスごっこー!」
育が昔みたいに、遊んでくる。
いい歳になった男女がベッドの上でプロレスごっことかいうと、違う意味にとらえられるからやめておけ。
大きくなった俺たちがベッドで暴れると、さすがにベッドがもたない。
育は絞め技をしてくる。素人なので、抱きつかれているだけだった。
小学生の頃の育は、肉がなく骨と皮だけのガリだったから、骨が当たって痛かった。
今は全然痛くない。柔らかい脂肪で、特に胸の辺りの大きめの脂肪が当たると、むしろ気持ちいい位だ。
「やっと帰ってこれたよ……」育がしみじみと言った。布団の中。頭ひとつ分離れたところでこっちを見て寝ている。
「うん。お帰り」
「ただいま」育が笑う。ホントに可愛くなったな。枕灯の柔らかい灯りに浮かぶ、彼女の笑い顔が眩しい。
「遠距離恋愛は大変だったけど、これからはずっと一緒にいられるね」
「……、はい?」
「? どうしたの?」
「遠距離恋愛って何?」
「遠距離恋愛だったでしょ?」
「……誰が?」
「私と公太」
「……いや、付き合ってないでしよ?」
「……、付き合ってるよね」
「いつ?」
「幼稚園の時から」
「そんな記憶はない」
「え? 幼稚園のときに、大きくなったらお嫁さんにしてくれるって言ったよ?」
「言ってない。……いや、言ったか?」
「言ったよ」
「……あの、幼稚園児の約束を持ち出されても……」
「えー、ヒドクない? ずっと公太と結婚するんだと思ってたんだけど?」
「……、えー……」
えー、これ、俺が悪いの? 幼稚園児の約束なんて無効だろ?
育は本気で傷ついた表情を浮かべている。
まじか。本気で言ってんのか?
これは参った。まじで参った。
「……ごめん、育。俺、彼女いるんだけど……」
新作です。
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本日最終回の「転生した元従者、と言い張る女子中学生の妄想に付き合わされるラブコメのようなもの。」
と、
平行して連載中の「可愛い女の子をナンパしたら女装した男の子だったけど、特に問題は無いよね。だって私は女の子だから。」もよろしくお願いします。