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龍の世界


 笛の音が辺りに鳴り響いた。

 広場にいる人々の喧噪がしんと静まり、一人、また一人と緊迫した面持ちを上方のまゆへと向ける。

 幼い水陽タイチ(みずひ たいち)は友達の輪のなか、学舎で習った笛の音を思い出そうとしていた。

 

 凪、星降り、いずれとも異なる音色だったように思えた。

 隣の友達に聞こうとした瞬間、顔色を恐慌に染め友人は大声を上げて広場から走り去った。

 それが合図だったように、周りの人々の緊張状態が弾け、阿鼻叫喚の渦が広場を襲った。


 人々が逃げ惑い、次々と広場を去って行く様を見て、タイチはようやく笛の音に思い至った。


 いまだに鳴り止まない笛の音がひどく不気味で危機感を煽る音に早変わりした。


「逃げろ! 奴らが来るぞ!」


 雑音にも等しいなかから、タイチはその言葉を聞き取り、走りだそうとした瞬間だった。

 まゆを突き破って一体の黒い塊が背後の黒翼を羽ばたかせ、龍地へと降り立った。

 人が唯一生きているこの龍の上ですら、奴らは壊そうとやって来る。


 ――ゼノア。


 筋骨隆々とした巨躯を誇り、赤黒い瞳が広場の人間達を睥睨するように追う。

 逃げ遅れた人にゆっくりと視線を合わせ、手を差し伸ばした。


 びちゃり、と生まれてこの方聞いたこともないおぞましい音。

 その人の肉体は内側からはじけ飛び、五臓六腑を広場に散らした。

 タイチは万物の力とその異形の姿を見て恐怖に身体が強ばるのを感じた。


 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。


 言葉が脳内で反芻されるだけで身体は付いてきてくれない。

 恐怖で自分と龍地が縫い繋がれたみたいだった。


 ゼノアは次なる標的を求めて瞳を蠢かせる。

 不定形となった瞳らしきものが、とある老人を捉えたようにタイチには見えた。


 逃げて! 逃げて! 


 言葉を発しているつもりが、実は喉が引きつり心の内で唱えているだけだった。

 その言葉は自分自身にも言い聞かせるためのものだった。


 老人は蹲り、身体を恐怖で震わせていた。

 しかし、ゼノアはまるで老人に気付かないように、横を素通りして龍の皮膚を貪り始めた。

 老人の右腕がゼノアと同じく真っ黒になっている。

 まるでゼノアの腕を老人が生やしたかのようだ。

 老人は擬薬を飲んでいたのだろう。


 タイチはその事実に気付き、腰の龍袋をおぼつかない手つきで探った。


 ない。どうして?


 母親のミチとの会話を思い出した。


『こら! どうして擬薬を持っていかないの!』。

『だってそんなの入れてたら他の遊び道具が入らないよ。それに臭いし』。


 タイチは母親の言葉を無視した自分を呪った。


 なんて馬鹿なことをしたんだ。


 既に姿形が人型に留まっていないゼノアがゆったりとこちらを向いた。

 瞳も顔も既に判別が付かない。でも、確かにタイチはゼノアが自分を認識したことを悟った。

 ひたひたと死の気配が近づいてくる。恐怖が心のなかで暴れ、タイチの動きを縛った。


「全員逃げろ! もしくは擬薬を飲んでおとなしくするんだ!」


 死の気配を振り払うには十分の声だった。

 広場に勇猛に飛び込んで来たのは擬士だった。

 まだ取り残された人々を誘導し、広場から逃がしている。タイチはその顔を知っていた。


 世界で最も強い人間。歴代の擬士のなかでも最速で頂点に君臨した男だと聞いたことがある。

 安心感が恐怖を緩和し、タイチの身体を動けるようにした。


 この人が来たら安心だ。


 その男は自らも擬薬を口に含み、飲み下した。

 ゼノアが龍皮の下の肉を咀嚼している間に、男は龍の背を萎縮させ十数メートルはあった距離をゼロにした。

 男はゼノアの前で舞って命水を操り、極位一点に凝水する。そして極位の構えから刺天撃してんげきをゼノアの中心にたたき込んだ。

 龍震を思わせる重低音が鳴った。

 次の瞬間には、その男は肉塊へと変わっていた。

 男だったモノが龍地に広がり、龍へと染み込んでいった。


 どうしてその男が最速で最強になれたかをタイチは思い出した。

 それは、擬士の頂点に君臨する連中が次々とゼノアに殺されたからだった。

 その男は繰り上げて最強になったに過ぎなかった。


 わずかばかりに削れた部分が再生を始める。

 人間はゼノアには勝てない。ゼノアの万物の力は絶対的だった。


 安心感が反転して一気に恐怖と絶望感に変わった。


「タイチ!」


 ミチが広場までやって来ていた。母親の姿を見てタイチは心が緩んだ。


「何してるの! 早く擬薬を飲みなさい!」

「ごめん……持って来てないんだ」


 母親に散々言われたのに擬薬を龍袋に入れるフリをして誤魔化していたのだった。


 バカ! バカ! 僕のバカ! 


 ミチの表情が青ざめていくのがわかった。

 今から家に取りに戻る時間はなかった。ゼノアがタイチとミチの方向に近づいていた。


「ママのを飲みなさい!」

「で、でも!」


 タイチの反論を無視してミチは無理矢理タイチに擬薬を飲ませた。

 自分の分を失ったミチに一体何が起きるのかは想像するまでもなかった。

 ミチはそれでもタイチの身体を守るようにタイチを抱き、必死に目を閉じ祈っていた。

 擬薬の苦みが口いっぱいに広がり、自分の額に鈍い熱を感じた。

 ゼノアの腕がゆっくりとこちらに近づいてくる。

 タイチは、その有様を呆然と眺めていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 物見棟から凪を表す笛の音色が響いた。タイチは額に手をかざしながら視線を上げた。

 辺り一帯を覆っていた雲は消え去り、繭の外に広がるのは、無限の青空と日差しを投げかける太陽。

 カルガはどうやら雲の下が嫌になり、上方に移動したようだった。


 タイチが広場を横切ろうとすると、遊んでいる子供の集団がいた。

 子供たちはタイチを見つけると、


「うっわ、タイチだ!」

「くっそ、こわ~」

「目つき悪っー」

「額の痣ってゼノアと同じらしいぜ」

「うわっまじかよ、化け物かよ!」

「ママが化け物には近づくなって!」


 そりゃあもう散々な物言いを受けて、タイチは足を止めてギロリと睨み付けた。


「おい、お前らちゃんと擬薬を持ってんのか?」


 見つかったとばかりに、慌てて逃げようとする子供の一人の肩を思い切り掴む。


「離せよ! この化け物! あんな物飲まなくたってカルガ様が守ってくれるって!」


 ほうほう、得心したふりをしてタイチは思い切り自分の額を子供の顔に寄せた。


「そうか、守ってくれるか。ほら、これがお前ら言う化け物の証だよ。額に大きな黒い痣があるだろ? どうだ、怖いか? あ?」


 タイチは自分が出来る限り目つきを鋭くして怖い顔をしてやった。

 子供は強く肩を握られていることもあり、相当ビビっている。

 返事もできないほどだ。子供全員が怯えきったところを見計らってタイチは言い放った。

「……お前ら全員、俺が食い殺すぞ、ごらぁぁぁ!!」

「「「「うぁぁぁぁぁぁ!!」」」」


 蜘蛛の子を散らすように子供たちは広場から逃げ去っていった。

 タイチはその様を見て鼻を鳴らした。他愛もない奴らだった。


 ごつんと重い衝撃が頭を襲った。

 ぬぉぉとタイチが呻きながら背後を振り向くと火月サツキ(ひつき さつき)が両腕を組んでタイチを見上げていた。丸い瞳には少しばかり呆れが浮かんでいる。


「何してるのよ、タイチ」

「あ? そりゃ、ガキどもに注意してたんだよ。擬薬を持ってなさそうだったからな。警邏団の一員として当然の義務よ」


 短髪の髪をさらりと揺らしながら呆れ顔でサツキはため息を吐いた。


「子供を脅して得意顔してたくせに。ほんと、いつもやることがちっさいのよ」


 得意顔をしていたのは否めないため反論できない。

 結局、けっと言葉を吐くことしかできなかった。


 ノースリーブのローブから伸びる四肢はしなやかで健康的な艶を持っている。

 美しさと可愛さの天秤は僅かに可愛さに傾くような雰囲気。

 幼少の頃からサツキはタイチと付き合いが長い。


「……で、警邏のお仕事はいいけど、学舎はどうしたの? どうして最近来ないの?」

「は、あんなとこで学ぶことがあるかよ。加工学、天文学、薬学、どれも実際に体験して学んだ方が速い。俺は実学派なんだよ。それに学舎の龍神学は大っ嫌いだ」


 吐き捨てるように言ってやると、逆にサツキは頬を少し上げてにやにやとこちらを見る。


「はいはい、わかったわかった。タイチには友達がいないもんね。そりゃ寂しくて学校来たくないよね」

「な、て、てめぇ! そんなことねぇよ」

「動揺しすぎでしょ。そりゃあ額の証紋を隠せないから、擬士ってことがばればれだけどさ、そんな不良っぽくせずに、もっと素直になれば友達が出来るよ」


 うんうん、そうに違いないとばかりに嬉しそうに納得するサツキ。

 タイチは自分の心の曇りを何と表現していいかわからず、


「……お前は何様だよ、一体」

「そりゃあ、タイチの……保護者?」


 サツキは嬉しそうに言った。

 ますます複雑な気分になり、返す言葉が見つからない。


「子供の頃、覚えてる? 昔のタイチは泣き虫でサツキちゃん、サツキちゃんってずっと言ってたんだよ? 万物に触れて擬士になって、虐められてたときもあたしが『タイチを虐めるな!』って割って入ったりさ」


 どう?とばかりにからかってくるので、ふんと鼻を鳴らしてタイチは言い返す。


「……そんなこと覚えてねぇよ。そうだったとしても今の俺は違う」


 どうも居心地が悪くなったので、タイチがサツキに背を向けると、


「待ってよ。タイチをからかうためだけに来たんじゃないのよ」

「お前は俺をからかいに来てたのか……」


 全く、うざい奴だ。内心タイチはごちた。


「今日は狩りの仕事を手伝ってもらおうと思ってたの」

「はぁ? どうして狩りなんだよ。女の仕事は水汲みや自炊程度だろ」

「いや、それがさ~教会が祭日用の龍肉が取れなくて困ってたから、取ってこれる人知ってますよって言っちゃったの」


 まるで悪気がないようにぺろりと舌を出す。

 結局、狩屋でも難しい新鮮な部位の獲得を能力のある擬士に任せてしまおうということだった。

 時たま食料用を頼まれることも多いタイチだったが、教会の頼みだと途端に気が削がれる。


「……ちっ、これっきりだからな」

「ありがと! これからも頼むよ!」


 最後の言葉が気に掛かったが無視して広場から第二外縁部へと移動する。

 物見棟の監視員に用件を告げてからタイチとサツキは繭を抜け出た。


 ぬめりとした感触の後にはひんやりとした風が頬をかすめていく。

 現在が凪ということもあって、狩屋の連中が龍地を削って食料用の龍肉を取っている姿も見受けられた。


「うわぁ! ひっろいぃ~~!」


 サツキは目の前に広がる青で染められた大空を眺めて叫んだ。


 タイチもつられて雲海と大空とが結びつく先を眺める。


 天生樹を除けば遙か彼方まであるのは青という原色に染められた世界だけだった。

 カルガの上にいる自分たち以外は何もいない。


「バカ、そんなに端っこに行って落ちても俺は助けねぇぞ」


 サツキはカルガの背の翼の付け根まで進んでいた。

 いくら凪だったとしても風は緩くても流れているし、動きがある部位は人が乗るには危険だった。


 龍地をしっかりと踏み皮膚の硬さを確認しながらタイチは言っても聞かないサツキの背を追った。


「だってあたし、外界に出るの久しぶりなんだもん。水汲みで皮膚の氷を取りに来ることはあったけど、凪じゃないときに繭から手だけ出して取ってたし」


 無駄に感動しているサツキを置いてタイチはさっさと狩りの準備を始める。

 いつカルガの機嫌が変わって凪が終わるかもわからない。次の凪がいつ来るかもしれない。


 タイチは腰のベルトから龍刃を抜き出して皮膚を削り始めた。

 ごつごつとした皮膚を削り取ってから縄を結びやすいように円柱にする。

 タイチは円柱に巻いた縄を自分の腹部にも巻いた。


「サツキ、しっかりと縄を持ってろよ。最悪、俺が落ちそうになったら命水の力で何とかしてくれ」


 そこまで言うと、急にサツキが罰の悪そうな顔になる。


「ご、ごめん~。今、擬薬持ってないよ」

「はぁ!? お前擬士なのに擬薬持たないとかおかしいだろ? 擬薬がないと命水は操れないんだぞ? そこまでバカになったか?」

「むっ、あたしはバカだけどテストの点数はタイチの方が低いじゃん」

「……テ、テストはどうでもいんだよ。あんなもの役に立たない」


 そんな事を言ってからタイチはサツキの家庭環境を思い出した。


 サツキの両親は熱心に教会に通っていると聞く。

 自分の娘がゼノアの証紋を持っているとなると、隠したくもなるだろう。悪魔に魅入られたとか、化け物の眷属だとか、教会から散々なことを言われないようにサツキに擬士として振る舞わないようにと言い伝えているのかもしれない。 極力擬士としてサツキは動けないのだろう。

 動けば怒られることもあるのかもしれない。


「ごめん、やっぱりあたしも擬薬を取ってくるよ」


 若干気落ちして真面目な面持ちできびすを返そうとするサツキ。


「いいよ、別に。お前が今から行ってたら凪が終わっちまう。お前なんかいなくても、俺は大丈夫だ」


 ありがと、という返事は無視した。


 深いため息を吐いてからタイチはもう一度縄を確認してカルガの側面に降りる。


 カルガが滑空していたとしても翼の動きに近い側部は風の流れが激しい。

 タイチは慎重に龍皮に足を引っかけながらカルガの腹部に近い側部まで降りた。

 左手で縄を握り右手で龍刃の柄を握って龍皮を削り取る。

 危なくて誰もこの部位を狩ったことがないだけあって皮膚の厚さが背の上とは比べものにならない。

 その分新鮮で脂の乗った龍肉が取れるだろう。タイチは龍の筋肉をそぎ取りながら深々と龍刃を差し込み、龍肉をえぐり取った。


 タイチが両足を側部にかけ、登ろうとした瞬間だった。


 見えない力がタイチの横っ腹を殴るように襲った。

 足場が不安定になりタイチは大気に放り投げられた。


 落ちる。


 そう思った瞬間に、背部に強い衝撃。

 身体が弓なりに曲がり衝撃で腹から息が飛び出る。

 心臓が早鐘を打ち呼吸が荒くなる。体勢を整えて何とか身体の重心を制御する。


 足場を失いタイチは既に縄一本で空中に浮いている状態だった。

 足下を見ると雲海の下に真っ黒な泥が見える。

 まるでタイチを誘うようにゆらゆらと波面が揺れていた。

 視線を上向けると、サツキの朧気なシルエットが見える。

 しかしサツキの言葉は風にかき消され届いてこない。


 落ち着け。落ちない。大丈夫だ。


 タイチは自分に言い聞かせ、腰の袋から擬薬を取り出した。そして丸い粒を口に含み、飲み下す。

 タイチは自分の体内のはこを意識する。


 起床後に確かめた七十二の転位を中心に筺の命水を揺らした。

 舞に近い動きを空中で取り、下半身に凝水させる。

 そのまま縄を揺らしてカルガの側部に戻り、足場を一蹴り。

 足系の第三級技。通常の膂力を遙かに凌ぐ跳躍力。

 タイチはそのまま縄の支点を中心とした円を描くようにサツキの元へと降り立った。


「ちょっと大丈夫だった!?」

「危うく泥に落ちて死ぬところだった」


 額の証紋が僅かに熱を持って広がっている。

 タイチはカルガの乾肉ほしにくを口に放り込み、証紋の熱を中和した。


 自分が擬薬を持っていればという後悔の色がサツキの顔に浮かんでいた。

 唇を少し引き結び、視線が龍地に落ちていた。

 サツキが縄を押さえていれば、擬士の力で引っ張ることでタイチは安全に戻ってこられた。


「自分のせいとか思ってんのか? 俺が勝手にすべっただけだ。サツキがいても大して結果は変わんねぇよ」


 良く分からないがサツキに対してそんな言葉を返していた。

 サツキの表情が少し和らいだ。タイチとサツキはそのまま外界を後にして繭に戻った。


 ふと、繭の内側の斜め上方を眺めると、


「なぁ、サツキ。お前カルガに何人人がいるか覚えてるか」


 何言ってんのよとばかりにサツキは肩をすくめた。

 タイチの視線に気付くとサツキもタイチの視線を追った。


「繭の内側の数字を見ればいいじゃない。あれがカルガの上の人の数でしょ」


 それはそうなのだが、サツキがタイチの意図を読み取れてないので言葉を更に続ける。


「外界に出るとき、あの数字見たか?」

「見てないよ。あんなのに注目してる人なんて庁舎の人か見回りしてる警邏の人だけだよ」


 そうだ。見間違えか覚え間違いに違いない。


「……都市の人数が増えてるって言ったら、お前信じるか?」

「はぁ? 何言ってるの。都市の人口が増えるなんてありえない。だって今都市は食料の龍肉が足りないからって赤子を産むのを禁じてるじゃない。誰かが死んで減ることはあっても、増えることはないよ」

「人数が50000人から50001人になってた。一人、増えてる」


 タイチは人数を表す光文字を良く見ていた。

 いつも人数が段々と減っているのを覚えている。


 そして、今回サツキと外界に出る前に何となく文字を見たのだ。

 ちょうど区切りが良いから覚えている。50000という数字を。


 都市の人口が増える道理がない。

 増えるはずがないのに増えている。

 矛盾。


「他に人が増える要因ってある? カルガの周りには大空しかないし、人もいない。見渡す限りの世界にはあたしたちだけ。ね、ないでしょ」


 しかし現に一人増えている。人が増えるはずがない世界で人が一人増えている。

 誰かが都市に加わったのだ。

 

 一体誰が? 

 どうやって? 

 何のために?


「気のせいだって。そんなこと起こるはずないもん。じゃ、あたしもう行くね」


 気楽にさっさとサツキは外縁部から立ち去っていた。

 タイチはただ一人ぽつんと繭の内側の光文字を見つめていた。

 何度見ても数字に変わりはない。誰かが、増えている。


「ま、そんなわけねぇよな……そう、気のせいだ。気のせい。俺の記憶違いだ」


 知らない人間が増えてるなんてあるわけないのだから。


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