魔女は目醒める
「もう千年経ったのか……意外と早かったな……」
寝具から身体を起こすと衣服を寝巻きから新しいものに着替える、過去に気紛れで購入していたワイシャツとパンツスーツと呼ばれている異国の服に着替えてお気に入りのトレンチコートを着込むと鈍っている身体に魔力を流して無理矢理覚醒させて扉を開けて外へ出ると辺りが木々に囲まれており時の流れを感じられる……。
既に自宅からは必要な物品を全てポーチ型収納魔法具に入れてあるので血魔法で躊躇いなく自宅を切り刻んで倒壊させて焼却し完全に消滅させると森の中を2〜3時間ほど彷徨っていると道が見えたので森を抜ける。
「さて……道は見つけたが街か国を見つけたいな……とりあえず馬車の跡が残っているしこれを辿っていけば問題なく街……まぁ最悪、村でもいいか今日中にどこかには着いておきたいな……」
考え方をしながらしばらく道なりに歩いていると車輪が破損した馬車とそれを護衛している10人程の騎士と恐らくは冒険者であろう服装と装備を着込んでいる集団が少し先の道に見えたが遠目でも分かるほど馬車の至る所を金無垢で装飾している。
100mほど離れている距離でも聞こえるくらい馬車内でで喚いている。
20mほどの距離まで近づくと馬車の所有者は身体中に純金の腕輪や指輪などをこれでもかと身につけており丸々と肥えた身体に陽光によって脂がテカテカと輝いている。
見るからに関わっても碌な事が無さそうなので無視を決め込んで歩いていると馬車の所有者はこちらを馬車上から私を視認して年下だと断じて命令口調で私に声を掛けてきた。
「おいっ‼︎ 其処のガキッ‼︎ 無視しないで助けろ‼︎ この私が誰だかわからんのか‼︎ さっさと馬車を直せ‼︎」
そんな声を掛けてくるが当然無視して歩き続けると周囲の木陰に複数体の魔力反応を感知し軽く舌打ちする。
「おいっ‼︎ 何無視しているのだ‼︎ この私が頼んでいるのだぞ‼︎ 従うのが当然であろう‼︎ 聞いているのか小娘‼︎」
馬車の所有者は自分の言に従わない私に向けて一頻り喚き立てているもののそれは無視して複数の魔力から種族と人数と装備を特定し苦笑いをして自分以外に聞こえない様な小さな声で呟く。
「こんな所に盗賊とは……いつの時代も変わらんなぁ」
木々に隠れている盗賊達合計15人は十中八九金ピカの馬車の所有者を襲う事が目的であろう。
しかし此方からしてみればこれといった害が無ければ無視一択である。
「まぁ騎士や冒険者も護衛として連れている様だから特に問題ないだろう、私には全く関係が無いし初対面の人間にあの物言いとはな……程度が知れる」
無視して立ち去ると暫くしてから後方から風に乗って人肉が焼け焦げる独特の臭いや血の臭いが漂ってきており金ピカの馬車の所有者の断末魔が聴こえてきており騎士や冒険者はなす術も無く殺されたと視認せずとも理解できた。
盗賊達は一体どこに隠していたのか人数分の馬を乗りこなして無視してて歩いていた私を追いかけてきた。
リリスは盗賊の方を振り向かずに語りかける。
「先に言っておきますが敵対の意思は有りません、衛兵とかに喋る気も有りませんので」
そう伝えるも盗賊達はリリスの言葉を無視して怒鳴って来た。
「おいっ‼︎ 待てそこのガキッ‼︎ 俺らを見た可能性があるお前は生かしてはおけないんだよ‼︎ 此処で死んで貰うぜぇ?」
盗賊の頭領と思われる人物がそう宣ってくるも無視して歩き続けていると、盗賊の何人かが火属性魔法である火球や火炎槍を直撃する軌道で放って来ており放たれた魔法を振り向く事なく身を翻して回避を試みるものの水晶玉程の大きさの火球が右腕に直撃し腕が焼け爛れてしまい肉の焼ける感覚と鈍痛がリリスを襲う。
即座に治癒魔法を自身に掛けて焼け爛れて火傷を負っている右腕を治癒させて初めて盗賊達の方へ振り向くとたった一言呟く。
「そこまでして死にたいかい? 愚か者」