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3話 1日目

「なんで既読無視したの?」

翌日の朝、学校の玄関で靴を脱いでいると後ろから声がした。

日常生活において僕は人から話しかけられることが無いため、基本的に近くで声がしてもそれは僕に話しかけていない。勘違いして返事をしようものなら恥をかくだけだ。ただ今回はつい最近聴いた声で、しかも内容も身に覚えがないこともなかったので流石に僕に話しかけているのだろう。勘違いだとしても恥をかくだけだ、問題ない。

振り返ると、少し怒ったような顔で泉千裕が立っていた。

「…おはよう、泉さん。」

「おはよう、奥村くん。おやすみくらい言ってくれてもよくない?」

 なるほど、どうやら泉は昨日の夜僕が「おやすみ」と返さなかったことに対して怒っているらしい。

 ……めんどくさい女だ。

僕らは付き合ってはいるけども仲がいいわけじゃあない。僕はLINEのやり取りなんかしたくないし、そういうのがしたいなら別のやつと付き合ってくれ。そもそもなんで僕と付き合うんだ? 何が目的なんだ? あと、人前で話しかけるな。

 などなど、言いたいことは無限にあるのだが朝に弱い僕は今そんなに元気がないし、変なことを言って目立ちたくないし、会話を続けたくもないのでそれらの言葉を飲み込んで無難なことを言っておく。

 「ああ、ごめん、気をつけるよ。…それじゃ」

 僕は適当に謝って早々に立ち去ろうとした。どうせ放課後話すのだ、言いたいことも聞きたいこともその時でいい。彼氏としての振る舞いとして正解なのかはわからないが。

付き合い始めたからといって僕のスタンスは変わらない。人とは関わらずに過ごしたい。

 しかし泉は僕の気持ちなんて無視して「一緒に教室行こう」と言い、隣を歩き始めた。

……勘弁してくれ。お前は目立つし、僕は目立ちたくないんだ。

容姿のいい人間というのは、ただそこにいるだけで注目を集める。事実、先ほどから玄関にいる生徒の視線をチラチラと感じる。

…ここで泉を無視したら余計に目立ってしまうし、付き合っているなら普通一緒に歩くか。

しょうがなく僕は、教室まで一緒に歩くことにした。


 教室まで歩いている間は特に会話はなかった。僕から話を振らないのは当然のことながら、泉も話し始めることはなかった。僕としてはありがたいことだ。傍から見たら偶然隣を同じ速度で歩く他人に見えたことだろう。

教室に着きスライド式のドアをガラガラと開けると、教室にいる何人かの視線がこちらへと集まる。始業時刻も近いのですでに教室には殆どの生徒が揃っていた。

 教卓付近で談笑していたグループの一人がこちらをみて「千裕、おはよ~」とひらひら手を振りながら呼びかけてきた。泉のお友達集団だ。

 これはどこの学校、どこのクラスでも同じだと思うがクラス内には自然といくつかのグループができる。よく話す人達、いつメンというやつだ。

 リア充(この表現はもう古いと最近知った)グループやオタクグループなどがわかりやすい。僕のクラスでは、僕が見た限り一人を除いてみんなどこかしらのグループに所属していた。もちろん、一人というのは僕のことだ。

 泉が属しているのは典型的なリア充(最近は陽キャというらしい)グループだ。他のグループが同性で固まりがちなのに対して、リア充は男女混合で集団を形成する。

泉は手を振ってきた女、山崎に「おはよ~」と返事をし、僕に「じゃ、また後でラインするね」と言い残して小走りにお友達のところへ向かっていった。

 泉が最後に僕にむかって喋ったせいで、隣を歩く他人作戦は失敗に終わった。ドアの近くに立っていた何人かのクラスメイトが僕のことをチラチラ見てくる。

 そりゃそうだ。泉千裕が僕と話すというのは、それくらい違和感がある。

 僕はそれらの視線を無視して自分の席へとつく。

まったく、泉のせいで朝から嫌な気分だ。朝にいい気分だったことなど無いけれど。

 しかし、このときの僕はまだ幸せだったんだ。何人かの珍しいものを見るような視線を浴びているだけだったのだから。


泉が僕に何か言ったのを見ていた山崎が、輪に入ってきた泉にそのことを聞く。

「千裕、奥村くんと何話してたの?」

「んー、内緒」

おい泉、その言い方はなんというか……まずいんじゃないのか? 僕にとって望ましくない方向に会話が進みそうだぞ。もっと相手の興味を削ぐような答え方をして、僕から話題を反らせ。

僕は最悪の事態を恐れていた。

「えー、気になる~」と山崎がいうと、他の者達もその話題に乗っかる。

「てか、千裕って奥村と知り合いだったんだ?」と、男子の一人、青田が僕の方をちらりと見てから言った。

「知り合いっていうか…」と、泉がこちらを見ながら言う。

 視界の端で、泉が少しニヤついたような気がした。

 「奥村くんは、私の彼氏だよ。」

 空は青かった。現実逃避には丁度いい青さだった。

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