表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

9

「ディオン兄様、出かける準備は出来ていますか?」




「いつでも大丈夫だよ、レティ。

私だってこの日を楽しみにしてたのだから」




秋の風が優しく頬を撫でる頃、私レティシアは腹黒メガネのディオン更生計画を実行中です。


本日のメインテーマは《世界は美しい~アメンボだって生きている~》である。




つまり 


王都に出掛け、人々が平和に生き生きと生きている姿を見ることで、戦争なんてクソ食らえ計画である。



レティシアは、お忍び街歩きの簡素なワンピースを着ながら拳を突き上げる。


それをディオンは微笑ましそうに見つめるも、何も言わず手を差し出し、馬車までエスコートするのであった。





ーーーーーーーーーーーー




「わぁ~、ディオン兄様!あのお店は何でしょう!

あれも、屋台で食べ物を売ってます!」



「レティ、落ち着いて。お店は逃げないよ。

あとでレティの行きたい所は出来る限りまわれるようにするから」



「はい!」




レティシアは馬車の窓から見える活気のある街並みに声が弾み、薄紫の瞳がキラキラと光る。



実は、レティシアは街に出るのが初めてであった。

侍女のエミリーや使用人たちの話を聞くだけで、実際に王都の街を歩いたことはない。


母である公爵夫人とお茶会に出掛ける以外は、家から出ることもないため、この日を楽しみにしていたのだ。




商店の並ぶ表通りの入り口に馬車を停めると、ディオンは先に降り、スマートな振る舞いでレティシアに手を差し出す。



「ありがとうございます」



「今日は私が責任を持って、お姫様のエスコートをするからね。

さぁ、お姫様はどこに行きたいかな?」



キザな物言いも言葉と一緒にされたウィンクも、ディオンがすると絵になってしまう。

レティシアは言葉に詰まりながらも、「まずは屋台!」

と元気よく答える。



「仰せの通りに」






いかにも貴族のお忍び感がありありとしている2人であるが、

レティシアは自分に注がれる視線も気にも留めず、絶えず周囲の活気溢れるお店に目線を動かす。



「見て!あのお店はとても綺麗な飴細工を売っているわ」


ディオンに向かってある店を指差しながら言うと、駆け出そうとするレティシアの手をディオンが捕まえる。



「レティ、はしゃぐのは分かるけど走ってはいけないよ。

人が多いから迷子になってしまうからね」



「また子供扱いして」



「これは失礼。レティは大人になりたいの?」




面白そうに笑うディオンにレティシアは唇を尖らせる。

大人になる。それは死に近づくということ。


でも、最近はディオンと共にいることで変わった気持ちがある。



「もちろんよ。早く大人になってディオン兄様と同じものを見たいわ。



そうしたら、お兄様の背負ってるものを軽く出来るかもしれないから」




ディオンの目をしっかりと見ていうレティシアに、ディオンは驚いたように目を見開く。

少し自嘲するような笑みを見せた後、すぐにディオンはいつもの微笑みを顔に貼り付ける。




「君は明るい世界で、その瞳をいつでも輝かせてくれていたらいい。

そうしたら、私も一緒に綺麗なものを見られるだろう?」



これで話はお終い、と言いたげにディオンは目的地はすぐそこだ、とレティシアに告げる。




嘘つき





声にならない呟きは、レティシアの唇の動きのみで消え失せた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ