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レティシアがディオンと共に暮らすようになり、早3年の月日が経った。
しかし、レティシアは依然このディオンから離れる術を見つけることは出来なかった。
離れることが出来ない。
ならば、ディオンを更生すればいいじゃない!
あの2国を戦争の渦へと巻き込む危機を起こす黒幕に対し、無謀とも呼べる作戦を打ち出したレティシアである。
レティシアは学力面に置いては優秀と言えるが、ちょっと考えが足りないところがある。
しかし、本人は知る由もなかった。
そのため、レティシアはディオンの生い立ちを考え、懐くことで何とか更生出来ないかと考えた。
何をやるにも、ディオンの後ろをくっつき歩き、寂しいから眠れないと添い寝を強要した。
ちなみに、添い寝は去年からは「淑女を目指すのなら卒業出来るよね?」とやんわりと拒否された。
娘に見向きもしない父も、このディオンには一目置いている。
ディオン相手に懐き作戦で「将来ディオン兄様と結婚するわ」なんて言っていた。
たまたま父に聞かれており、漫画では王太子の婚約者候補であったレティシアが婚約者が未だにいないことも、自分の婚約者候補すらいないこともレティシアには知る由もない。
それも全ては漫画内で、レティシアの子供時代は端折られていたからに過ぎない。
ディオンは、礼儀正しく、微笑みを絶やさず、いつも穏やかな青年へと成長していた。
また、中性的な風貌は変わらないが、あの漫画同様に眼鏡をかけ始めた。
眼鏡をかけたディオンを見た瞬間、レティシアは漫画のディオンと重なることでショックで涙目になってしまった。
そんなレティシアを
「そんなに雰囲気変わる?レティが嫌がるなら、やめようかな」
なんて悲しそうに呟くものだから、思わず
「ディオン兄様、こんなに眼鏡がお似合いの殿方などおりませんわ。私、驚いてしまったの。
嫌だなんて思ってないわ」
などと慌てて否定したところ、
ディオンにニッコリと微笑まれ、「それなら良かった」
と足取り軽く通り過ぎられた。
また、やられた!
やっぱりディオンは人を動かすことに優れている。
どう振る舞えば、相手が上手く自分の思う通りに動くかをわかっている。
私がチョロいわけではない!あの男の顔と頭が良すぎるせいだ!
なんて心の中で悪態をつく。
間違っても本人には言わない。
言ったが最後、その発言を後悔するはめになるのだ。
この人をこんな悲しませて、自分はなんて悪いやつなんだ、と思わせる。
ディオン、恐ろしい子・・・
ただ、このディオンに助けられることも多々あったのだ。
雷で怖い時、人恋しい時、困っている時、ディオンはそっと隣にいてくれる。
両親に冷たくあたられても、存在を無視されても、人格を否定されようとも、ディオンは頭をポンポンと優しく撫でるようにし、ただ黙って側にいてくれる。
そんな時のディオンは、6歳も年上なお兄さんなだけでなくもっと大人に感じる。
自分のことを否定することなく隣にいてくれる存在、それはレティシアにとって甘く優しいものであった。