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「ディオン様、学園には寮があると聞いたのですが」
「あぁ、よく知ってるね。あるよ。
でも、貴族は大抵王都にタウンハウスがあるから、そこから通うんだ。
うちもあるけど、両親はほとんど領地だし。伯母様が、公爵の近くにいれば学ぶことも多いだろうって」
おい、母!親らしいことしないくせに、この甥には甘々だな。
わかる。未来が手にとるようにわかる。
家族にそっけなくされたレティシアは、この表面上お優しいお従兄様に初めて身内の優しさに触れるのね。
そして、コロッとあっけなく堕ちてしまうのね。
天使のような微笑みで主人公に近寄り、王太子にも味方のように振る舞い、情報をこの黒幕に流す未来。
頭を抱えて唸るような声を出すレティシアをディオンは、若干可哀想な物を見る目で見ていた。
が、レティシアがその様子を知ることはなかった。
「そういえばさ、これからずっと一緒なんだし、様付けなんてやめようよ。
出来れば、もっと仲良くなりたいな」
「そ・・・そうですね。では、ディオン兄様と」
「うん、レティ」
いきなりの距離の詰めかたに、レティシアは言葉がつまって熱が顔に集まってしまう。
嬉しそうに何度もレティと、確認するように呟くディオン。
目が合うと、にっこりと優しく目を細めて笑ってくれる。その眼差しに、レティシアは心が温まるのを感じた。
本当にこれが、あの冷酷なディオン・アルノーなのだろうか。
この微笑みの奥で、彼は何を考えているのだろう。
そして、自分はこれから彼とどう関わることで死を回避することが出来るのであろうか。
ますます混乱の波に飲み込まれるレティシアであった。