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あの夢は何だったのか。
レティシアは大きなベッドの上でひとり考える。
あの女性は確かにレティシア自身であった。
顔もぼんやりとし、友人、家族のことなど何も覚えていない。
覚えてるのはあの漫画だけ。だが、たしかにあれは現実である。
根拠のない確信として、それだけはあった。
もしかして
レティシアの頭の中に浮かぶ「前世」という言葉
これが一番しっくりくる。
きっと前世があの女性であり、あの漫画という物語の世界はこの世界である。
信じられないような現実であるが、現に6歳のさっきまでの自分では考えられないような思考を持っている。
前世の女性の思考が6歳の自分の思考を上回る、変な感覚に襲われる。
グルグルとまわる頭の中で、ヨロヨロとレティシアは立ち上がり、机の前に辿り着く。
そして、引き出しの中から一冊のノートを取り出す。
一心不乱に先程までの記憶を書き連ねていく。
あの物語の全てをひとつ残らず忘れないために。
あの記憶が確かであればレティシアは殺される。
記憶を失う前に出会った、あのディオンに。
前世の自分がどのように死んで、今レティシアとして転生しているのかは分からない。
ただ、死ぬ未来が待っているのに足掻くこともなく死んでいくなんてまっぴらだ。
なんと言っても、レティシアは見目がいい。
漫画では麗しの白百合令嬢と呼ばれていた。
サラサラと柔らかく緩やかにカーブするプラチナブロンドに、紅くぷっくりとした唇、少し垂れ目の大きな瞳は薄紫に輝いている。
白い肌には、チークもつけていないのにピンクに染まっている。
16歳の時点で、夢のボンキュッボン体型を手に入れられる予定だ。
そんな国一番と呼ばれる美貌を持つ未来に生まれたからには、人生を謳歌したい。
死んでなるものか。
そう決意していると、控えめにトントンと扉をノックする音が聞こえた。