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その後、カフェでパフェを食べたり、屋台を巡ったりとレティシアにとって初めての体験ばかりであった。
ディオンは、いつもと同じ涼しげな笑みを浮かべ、嫌な顔ひとつせずレティシアに付き添ってくれた。
「あら?」
レティシアが思わず足を止めたのは、ガラス細工で出来たアクセサリーの露店だった。
細かく綺麗な蔦模様の中央に、ブルーグリーンの透明度の高いガラス玉が収まっているバレッタをひと目見て気に入った。
まるで、宝石のように陽の光にキラキラと輝く様に思わず見惚れてしまっていた。
「綺麗ね」
「お嬢さんにはちいっと安もんかもしれんが、これはなかなかに良いガラス玉よ」
思わず呟いた言葉に、人柄の良さそうな割腹の良い店主が豪快に答える。
「じゃあ、それをひとつ貰おうか。いや、包まなくて良い。
このままつけていきたい」
「毎度あり」
ディオンが店主に金を支払うと、その場でレティシアの髪を優しくすくい、パチンととめる。
「よく似合う」
「ディオン兄様、あの、ありがとうございます。
大切にします」
自分の髪に飾られたバレッタを指で確認するように触ると、恥ずかしげにお礼を伝える。
ディオンは何でもないことのように、「そろそろ帰ろう」と伝えるとレティシアの手を取り、馬車へと向かった。
馬車の中では、お互い終始無言のまま時が過ぎていく。
レティシアは、ふわふわとした心地良い気持ちで足下を眺めていた。
ディオンもまた、窓の外の遠くをただ険しい表情で見つめるのみであった。
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レティシアは屋敷に帰ってからも、ぼうっとした様子で椅子に座ったまま動かない。
手には先程ディオンから贈られたバレッタが握られていた。
どれぐらい時が経ったのか、帰ってきた時には赤かった空が、暗闇に変わろうかという時である。
エミリーが躊躇いがちに
「お嬢様、夕食の時間でございます。
本日は旦那様、奥様お揃いですので、お支度を致しましょう」
と告げた言葉に、ぼんやりと珍しいこともあるものだと、つまらないことのように聞いた。
重い腰を上げ、簡素なワンピースから、エミリーの用意した淡い黄色いスカートがフワリとしたワンピースへと着替え直す。
食堂へと向かうと、既にディオンが席に着いていた。




