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「初めまして。私はディオン・アルノー、君の従兄弟だよ」
目の前の青年と呼ぶにはまだ幼く、少年と呼ぶには大人びた雰囲気を持つ相手。
ディオン・アルノーは、その整った顔立ちにふんわりとした柔らかい笑みを浮かべた。
そして、レティシアに向かって中性的な綺麗な顔立ちに似合わぬ、剣だこの出来た手を差し出した。
「レティシア・コルネイユです」
キラキラとした背景を背負った相手に、思わず頬が赤らんでしまう。
6歳のレティシアにとって、ディオンは絵本の中から王子様が出てきたようであった。
恥ずかしさにようやく声を振り絞り、自分の名を告げる。
そして、おずおずと手を伸ばし、ディオンの手を軽く握る。
途端に、レティシアの頭の中に雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
目の前がユラユラと揺らぎ始め、足から力が抜けるのを何とか踏ん張ろうとするも
上手くいかず、体が傾いてしまう。
周りの侍女らのレティシアを呼ぶ、緊迫とした叫び声が遠くに聞こえた気がする。
そして、レティシアの視界は真っ黒となり、暗闇に覆われる。
目を閉じる直前に見えたものは
ディオンの顔が驚きに目を見開いた様子のみ。
そして、そこで意識が途絶えた。