ただ振り向いて欲しくて
私には気になる男の子がいます。
でも、なかなか話しかけることができません。今日も親しい友人と下校する彼を、こっそりと物陰から眺めるだけです。
「お前って、好きな子とかいるの?」
唐突に彼の友人が彼に尋ねます。どうやら、今日、クラスメイトが付き合い始めたというのを聞いて、感化されたようです。
「今は誰かと付き合うとか、そんな気分じゃねえよ」
彼はぶっきらぼうに、そう答えました。
「ちぇっ、つまんねえの」
彼の友人には不満だったらしく、その後、この子はどう思う?としきりに尋ねていました。
彼が友人と別れ、一人になりました。今が、彼に話しかけるチャンスです。
「あの、すいません」
私は勇気を振り絞って、彼に話しかけました。しかし、運の悪いことにその声は、たまたま吹いてきた強い風に掻き消されてしまいました。
もう一度話しかけようと試みましたが、曲がり角から彼のお母さんが出てきたので、断念せざるを得ませんでした。
次の日も、その次の日もこんな調子で話しかけることができませんでした。かれこれ30日間、こんな日々を送っています。
今日はもう後がありません。一人になる前から、ずっとチャレンジすることに決めました。
今日も相変わらず、話しかけることができません。バイクの音、車のブレーキ、街頭演説…etc。自分の運の悪さに心が折れそうです。
「○○君、○○君」
「!」
今、彼が一瞬反応しました。彼に初めて、私の声が届いたようです。
「○○君、ありがとう。私、あなたがいてくれて本当によかった。だから、自分のことを責めないで」
ああ、よかった。やっと言えた。これで、もう思い残すことはないや。
「おい、どうした?そんなにキョロキョロして。って、お前どうして泣いてんだよ。何かあったのか?」
「あれ?俺、どうして泣いてんだろ。何が悲しいか分かんないけど、悲しい。くそ、涙が止まんねえ」
「おいおい、大丈夫か?何か奢ってやるから、元気出せよ」
「すまん、ありがとう」
「いいって、いいって。じゃあ、アイスでも買って帰るか。もう、8月31日だってのになんでこんなに暑いんだよ。まだ、お盆の部活が休みの時と同じくらい暑いぞ」
ふと、思いついたんで書いてみましたが、まったく同じネタの作品とかありそうですね。あったとしても、こういう作品は読まないんで、パクリではないです(笑)
皆さんどの辺りで「私」が幽霊かもしれない、と思いましたか?早い段階で思った人はきっと本をたくさん読んでるんですね。
まあ、原稿用紙2、3枚分くらいなので、早いも遅いもないか。
因みに、「私」は「彼」を庇って車に轢かれてしまった「彼」の元カノという、裏設定。