朝、起きたらゾンビになっていた。
朝、起きたらゾンビになっていた。
何を言っているのかわからないと思うけど、僕も自分に何が起きているのかわからない。
わかるのは僕の体が腐れ落ちて、ぐじゅぐじゅのぐちゃぐちゃのぬちゃぬちゃになっていたことだけだ。
赤を通り越して、緑とか黒いぬちゃぬちゃで布団は汚れて、これはもう捨てるしかないなと思った。
しかしどうしよう。何か喋ろうとしても喉が腐っていて「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ」と唸り声をあげることしかできない。
こんな状態では動けないかと思えば、意外と体は良く動く、ゾンビになる前よりも軽い気すらする。
とりあえず布団から出て、部屋を出ると僕を見た母さんが「きゃぁああああああああ」と声をあげた。
「僕だよ! 母さん僕だよ! 起きたらゾンビになってたんだ!」
と、言いたかったけど、口からでてきたのは「う゛わ゛ぁぅぅぅぅぅ」といった唸り声だけ。
身振り手振りで伝えようと、近づけば母さんは僕が近づく速さと同じ速さで後ずさりしていく。
「どうした母さん!? な、なんだお前は!? な、なななんだ!」
母さんの悲鳴を聞いて、父さんがやってくる。
それから僕を見て驚いて、母さんの前で僕にファイティングポーズなどとっている。
「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ」
父さん、父さん、僕だよ! と叫んでみてもやはり声は出ない。
なんとかジェスチャーで僕が僕だと説明しようとしても、父さんは全く理解してくれない。こちらを睨みながら足を震えさせている。
これではもう埒が明かない。紙にでも書いて現状を知らせようとリビングの方へ行こうとすると、父さんの後ろにいたはずの母さんがキッチンから包丁を持って僕の前に現れた。
まさか母さん、ゾンビになった僕を殺すつもり!?
焦った僕は母さんが手に持っている包丁を奪おうと、とびかかる。
「きゃあああああああああああ」
それを見て母さんが叫び、それを見ていた父さんが僕の脇腹のあたりを思いっきり蹴り上げた。
軽くなっている僕は、父さんの蹴りで大きく飛んでいき、リビングの窓ガラスを突き破って外に出される。
すると、父さんがゴルフクラブを持ち出して、こちらに追撃を与えようと向かってくるのが見えた。
やばい、本当に殺されてしまう。僕は急いで父さんから逃げて道路へ出ると、僕の他にもゾンビになった人達が道路を走っているのが見えた。
ゾンビの後ろには思い思いの武器をもった人達がゾンビを追って走っている。
これはヤバイ! 殺される! 殺されてしまう!
大急ぎで僕も一緒になって他のゾンビと共に逃げる。
後ろから追ってくる集団の中にはゴルフクラブを持った父さんも見える。
どこか、どこか逃げられる場所はないか!? まわりを見ると開店前のスーパーマーケットが見えた。
そうだ、スーパーマーケットに逃げようと、僕は走りながらまわりのゾンビにジェスチャーで伝えると、ゾンビ達は一度頷いてスーパーマーケットへ向かって走り出す。
途中で何人かのゾンビが捕まって、袋叩きにされているが構ってはいられない。僕達は何人かの犠牲を出しながらもなんとかスーパーマーケットの中に入り、急いでショッピングカートなんかを集めてバリケードを作った。
これで少しの間は持つはずだ。その間に現状を把握しようと、他のゾンビ達と身振り手振りで会話をする。
するとどうやらみんな、起きたらゾンビになっていたらしい。それぞれに事情は違うようだけど、みんなゾンビになっていない人達に驚かれて、襲われそうになって逃げてきたことがわかった。
これからどうするか、これが病気なら治せる薬はあるのだろうか、こんな状態から治るなんてことはあるのだろうか。不安で心が支配されていくのを感じる。
スーパーマーケットの入り口からは、叩くような音がする。あんなバリケードじゃあまり長くは持たないだろう。
僕も他のゾンビ達もその場で頭を抱えて、どうしてこんなことになってしまったんだと叫んだ。
「う゛ぁぁぁぁぁぁああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
スーパーの出入り口からの音が激しくなった。